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365DAYS 第2話

プロローグ part.2

当時、俺は渋谷区東で一人暮らしをしていた。
そこは東急東横線の狭い高架下に建てられた一軒家の二階で、六畳の居間と二畳の小さな台所にユニットバスが付いた部屋だった。
電車が通るたびに家が揺れ、車輪と線路の摩擦した轟音が部屋中にけたたましく鳴り響いた。そんな部屋にシンジは転がり込んできた。
ひょんなきっかけで一緒に住むことになったのだ。
そんな環境の悪い部屋に住む前は、

・世田谷区のマンションで

結衣という名前の彼女と同棲をしていた。

・そこで車を所有していた。

時代は1994年、当時22歳。
まだ見栄を張ることに忙しかったこの時代、経済力も全く無いのに、車、彼女、世田谷区のマンションは自分を満たすのに十分だった。

しかし後に、車、彼女、マンション、この三点がそれまでの人生に於けるどん底の原因となった。

そして、この三点とシンジとの出会いに大きく関わった友人がいた。
名前は都川浩二
高校時代からの友人で、コウジと呼んでいた。
家は茅ヶ崎、母は離婚しておらず、父と兄と3人で暮らしていた。
父は外車を中心とした自動車販売業を営んでいて、小さいながらも安定した経営を続けていた。

コウジは仕事が終わると、茅ヶ崎から俺の住んでいたマンションによく遊びに来ていた。
特別何かをする訳でもなく、音楽を聴いたり、スノーボードのビデオを見たりしていろんな事をよく語り合っていた。
そして、その世田谷のマンションから電車の音がうるさい渋谷の部屋に引っ越しが決まる少し前に事件は起きた。

コウジが警察に逮捕された。

容疑は大麻の使用らしいがはっきりせず、集団で逮捕されたみたいだ。詳しいいきさつがわからないので、コウジの父親に電話したが怒りに満ちた声で、「ジンくん、あんな奴の心配なんてしなくていい、ほっといていいから」と全く取り合ってくれない。

そして俺にも出来事が起きた。同棲していた結衣が実家へ帰ってしまったのだ。

「マジかよ……」

その時はなぜ帰ったのかはっきりした理由がわからず、実家に電話しても毎回出掛けていて居ないとの事。当時の心境は24時間気が気で無い、そんなチープと思っていた表現が当てはまったしまった。

ただ、だらしなかったのは確かだった。
就職もせず、アルバイトをしながら気ままに生きていた。
冬になればスノーボードに夢中になり、将来のことを真剣には考えていなかった。
自分なりに去って行った原因を考えた結果、そういう俺のだらしない部分に、結衣は愛想を尽かしたのだろう。ただ、悲しみというか、何と言い表せば良いかわからないこの気持ちは経験したことの無いないものだった。
共に過ごした時間、それを考え思い出すと今は何もやる気が起きず、とにかく一日でも早く結衣と連絡を取ることを何よりも優先していた。

働く気にはなれず、バイトは休んでいた。
二人で住むには丁度よかった部屋だったが、割り勘にしていた家賃が一気に俺一人にのしかかり、それと同時に所有していた車のクレジットの返済も滞るようになっていた。
そして保証人になってくれた両親に容赦ない催促の電話が掛かって来るようになった。

更にバイトは当然のようにクビになり、極めつけは車の駐車場代も払えず、路上駐車を繰り返していた。
その結果、駐車禁止違反の切符を、短期間で4枚切られてしまった……罰金もたまってしまった、点数も減ってしまった、結衣もいなくなってしまった、家もなくなりそうだ。

「このままじゃ、マジでヤバイことになる」、いや実際は既にかなりヤバイ状態だった。


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