R-TYPE自機設定に関するデマと「現実のおぞましい設定」:地球軍編(光)

……熾烈な戦いがあった。
脳髄が、四肢切断が、幼体固定が、全部ごっちゃにされ尾鰭と共に語られていった。

……しかし、戦いは終わっていなかったのである。
敵は、限りなく変成と変貌の果てに具現化した、巨大な勘違い。
ネットの深淵にひそむ、異形の情報型生命体――デマ。

……まだ、生きていたのだ。
それはさらなる脅威となって人類を襲った。

SFのおぞましい設定、自慢。
人類を直撃する悪夢、何たびなのかもう分からない。

ついにグロ中尉は決断する。noteへのお気持ち表明を。
テーマは仕事中の思いつきが指し示す、この出来事を通して、単なるゲームの話を通り越して僕たちが学ばなければならないこと。
オペレーションコード――“R-TYPE自機設定に関するデマと「現実のおぞましい設定」”発動。

時に、西暦2024年。
突然の駄文が、もうすぐ始まる。


1.何なのだ、これは!何が起こっているのだ!?

 2024年3月上旬、あるハッシュタグがTwi…ゲフンゲフン、Xを賑わせました。

#SFのおぞましい設定

 もうこの時点で察せられる方は察せられると思いますが、このハッシュタグで例のSTGの自機の設定もチラホラと挙げられています。

 そしてこのハッシュタグの時点で薄々予想はしていたのですが、既にいろいろな所で訂正され、正しい情報が出ているにも関わらず未だにデマの含まれた怪情報が混じっているんですよね。「#SFのおぞましい設定  四肢」とか「#SFのおぞましい設定 脳だけ」とかで検索すればほら、ね。嘘も百回言えば事実になるってか。

 曰く、

  • 1のパイロットは脳だけで直接、自機のコンピュータに接続されてる

  • 2のパイロットは四肢切断済みの身体で直接、自機のコンピュータに接続されてる

  • 3のパイロットは14歳程度で成長を止められた20歳

  • そして全員女性

 だとか。
 正直言ってR-TYPEの話になるたびにこの手のが出てくるのでウンザリしている方も多いとは思いますが、まずこれらの情報に閲覧したユーザーとして背景情報を付け加えていきましょう。

  • 1のパイロットは脳だけで直接、自機のコンピュータに接続されてる→×。そんな公式情報どこにもないです。五体満足で乗れます。一部作品(COMPLETE CD)では明確にキャラクターとして描かれてるくらいです。

  • 2のパイロットは四肢切断済みの身体で直接、自機のコンピュータに接続されてる→△。ファンクラブ会報誌、及びGB版説明書にて言及。ただし後者は同GB版のゲーム内描写と食い違いあり。また現行作品(FINAL系)で生きている設定かどうか不明。

  • 3のパイロットは14歳程度で成長を止められた20歳→○。説明書にて設定が明言。細かいこと言うと23歳。

  • そして全員女性→×。そもそも女性であることが明確なのは3主人公、初代コンプリートCD版の主人公の一人であるリィザ・ステファニーのみ。後は性別不明。ちなみに先述のもう一人の主人公(リョウ・ミナモト)は男性。FINAL2(3)ではプレイヤーの設定次第。

※上記情報はこちらのまとめ(https://togetter.com/li/1950015)を参考とさせていただきました。細かく情報を整理していただいたSIERU氏にこの場を借りて感謝を申し上げます。

 とまぁ、普段この話題追ってる人間にとっては何度目だナウシカ、って話題なんですが、こうやってデマの訂正や正しい情報が出揃ってる今になってもなお、先のハッシュタグのように繰り返し湧いて出てこられると先述の氏を始めとするシリーズ識者による作品の世界観を理解してもらいたい、正しい設定を知ってもらいたいという努力を嘲笑うかのような現実に忸怩たる思いを抱く限りです。本当にやりきれないよ。

 もっと酷いケースだとこれらの設定が全部ごちゃ混ぜになって「14歳に幼体固定された23歳の合法ロリが脳ミソだけにされて機体に繋がってる」「R戦闘機はどの機体も四肢切断されないと乗れない」みたいな話すら流れてくる始末です。ガンダムで例えたら「RX-78ガンダムはGNドライヴとナノラミネートアーマーが装備されていて、スーパーコーディネイターのアムロ・レイがモビルトレースシステムで操縦している」とか言っちゃうレベルの混同具合だからなそれ!

 どうしてこうなった。

先に紹介した怪情報の全文を引用します。

37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします

:2012/06/30(土) 21:18:18.39 ID:zEldbRQB0

R-Typeコピペだけど

1のパイロットは脳だけで直接、自機のコンピュータに接続されてる

2のパイロットは四肢切断済みの身体で直接、

自機のコンピュータに接続されてる

3のパイロットは14歳程度で成長を止められた20歳

そして全員女性

R-9カスタムでは、人の肉体では相当堪える苛酷な

環境に対して、 パイロットの四肢を切断してパイロットユニットに

直結させたことが知られている」。

R-9/0の場合は、パイロットユニットに少女の肉体

(体内時間年齢14歳程度)に幼体固定処理を

施された23歳の女性を直結させていたというものである



RTYPEが元になったシュミレーションもある。

敵本拠地へ攻め込んで壊滅させるが次元の狭間に引きずりこまれる。

何とか脱出するが同胞の地球軍に攻撃を受ける。

敵の残党に乗っ取られたのか?と今度は地球に向けて進軍する。

そこには平和な地球があり、乗っ取られたのは自分だったと気付く。

自分は化け物になっちゃったけど愛する地球が無事ならそれでいいと

宇宙は広いし安住の地を探しに行こうと撤退するが

地球軍の総攻撃で撃墜される。

R-TYPE tacticsから

* バイド軍のパイロット名

全パイロットを揃えるとメッセージが出来上がります

艦長:キガ ツク トワ タシ ハバ

チーム:イド ニナ ツテ イタ ソレ デモ ワタ シワ 

チキ  ユウ ニカ エリ タカ ツタ ダケ

フォース:ドチ キウ ノヒ トビ トハ コチ ラニ ジユ ヲム ケル



『気がつくと私はバイドになっていた、それでも私は地球に

帰りたかった だけど地球の人々はこちらに銃を向ける』

http://wasara.blog101.fc2.com/blog-entry-2840.html

 出典は10年以上も昔に2chに書き込まれたコピペで、さらに文中ですらコピペであることが述べられています。「シミュ」レーションくらいちゃんと書けよ…

 つまり、もはや今となってはどこの誰が言い出したか、何を典拠として書いたのかも全く分かりようがない訳です。そうやって26世紀から放逐された存在が電子の海を漂った末、こうして22世紀の太陽系に住む我々の前に現れた訳です

 そしてここからが後の本題にも絡む部分なのですが、今回のハッシュタグで散見された誤情報が含まれるポストの多くがこの「コピペのコピペ」をほぼそのまま丸写ししただけのものであった、という点は注目すべきです。逆張り大好きな困ったちゃんか、自分の妄想が公式から提示された事実に優越すると思い込んでいるバカ独特な世界観をお持ちの方、あるいは私のような設定警察を釣って楽しんでいる愉快犯のいずれかでなければ、R-TYPEの設定について初めに触れた情報があろうことかその怪文書だった、ということです。なんと不幸な出会いでしょうか。ハードラックとダンスっちまったんだな…

 自分でも言いたくないですし、読者の方も聞きたくないでしょうし、何より啓発活動に勤めて頂いている識者の方々には本当に申し訳のないことなのですが、この際言ってしまうと最早この事態の収拾は事実上、不可能なんじゃないかと思っています。仮に件のコピペを載せている複数のブログのどれかが、あるいは全てが閉鎖したところで、この風説は電子のガンジス川を漂い、絶えることなく変質しながら伝言ゲーム的にいつまでも語り継がれてしまう事でしょう。

 だって、ショッキングだから。人目を引きやすいから。

 失礼を承知で言ってしまうなら、この手のハッシュタグに乗っかるような方々が求めているのは設定そのものではなく、その設定を話題としたコミュニケーションでしょうしね。盛り上がれるならそれでいい訳です(これ以上は本題から脱線してしまうため、「バイド編」にて説明します)。

 最早どうすることも出来ないのか。人類はバイドに屈するしか道はないのか。

 否、諦めたらそこで試合終了です。絶望論を言うだけなら簡単です。

 この混沌とした現状から何を学ぶべきなのか、この出来事から如何なる教訓を得るべきなのか、次章ではそれについて述べたいと思います。



2.では「教育」してやるか

 ここで話はゲームから一気に堅い話題に話は飛んでしまうのですが、しばらくの間お付き合いください。

 皆さん。「教育」とは、何でしょうか?

 義務教育、高等教育、習い事、専門的訓練、これら教育と称して行われている行為を、噛み砕けるところまで噛み砕いて表現するなら「情報の世代間継承」「情報の個人間共有」の2つです。もう勝ったと思い込んでいる連中にわからせてやることを含めれば3つです。

 前者は先人たちの知恵を教わり、そして次の世代に伝えていく行為です。これなくしては文明の発展はおろか、維持すら危うくなります。だって前の世代が苦労して得た経験値が次の世代に引き継がれないんですから。教育を欠いたが最後、26世紀青年の世界に一直線です。おっ、26世紀でR-TYPEと繋がったゾ!

 今回のテーマを考えるうえで重要になるのはもう一つの方、情報の個人間共有です。情報は持ってりゃ嬉しいただのコレクションじゃありません。今を生きるための強力な兵器です。情報は使わなきゃ意味がありません。試行錯誤して知見を得たのは実際の社会において活用するためです。個人の中で思っているだけでは感想と変わりません。それが万人に共通され、客観的に正しいものであるという合意がなされて初めて知識たり得るのです。

 ここをサボるとどうなるでしょうか?

 例えば、地球は球体であるという事を義務教育で一切教えないとします。本にも書かないとします。そんな世界で育った人間がこの地球の形についてどんな認識を形成するか、それは運任せです。運よく正しい認識を持っている有能もいればフラットアーサーと化して地球は平らだと思い込む者もいれば、とっても卑猥な形をしていると思い込む奇特な方もいらっしゃるかもしれません。そして、いざ地球の形が話題に上った時、初めてその間違いを訂正し、固くなった大人の頭に正しい認識を無理やり捻じ込まなければならなくなる訳です。それを各人ごとに、全部バラバラに何度も行わなければならない訳です。しかも一度聞いて「ああ、そうなのか」と納得してくれるとは限りません。もしかしたら「ハァ!?そんなの聞いてねーよ!」と反発するツッパリ気質もいることでしょう。あ~あ、子供の頃にちゃんと地球は丸いと学校で教えておけばこんな面倒臭い思いはしなくて済んだのにね。

 要するに、誤った認識が形成されてからそれを一度消し去り、正しい認識を再インストールすることは只でさえ二度手間な上、とても困難を伴う訳です。ゲーム的に表現するなら、HPが10の相手100体に全体攻撃できるチャンス(最初の教育)を逃してしまうと、以降は同じく相手100体をそれぞれ単体攻撃して回るしかなくなってしまう訳です。しかもその相手は時間が経てば経つほどHPが増えていきます。なんだこの無理ゲーは。

 もうお分かりでしょう。

 先に述べたR-TYPEの設定に関する認識も、これと全く同じです。デマを信じ込んでXに書いちゃう方々はある一点を除いて(この点は後述します)横の繋がりを一切持ちませんし、同じく先に述べた正しい情報に自ら触れようと思うこともありません。ただ又聞きの不正確な情報をそのまま放流するだけです。そりゃ無限湧きするわけだ。我々に出来ることは設定警察の汚名を被る覚悟でそれを逐一訂正して回るか、風説を甘んじて受け入れ、その嘘が百回繰り返されて現実になる日を待つかの二つだけです。一般論としてよく言われることですが、デマを拡散する側とそれを訂正する側は非対称の関係にあり、後者が背負わされるコストの方がバカ高いという理不尽な現実と共に我々は生きているのです。3、2、1、☆絶望☆!!

 話を再び教育に戻します。

 更に悲惨な想定として、その教育自体に明らかな間違いが含まれていたとしましょう。要するに江○しぐさとか水からの○言とかそういう系のアレです。この場合、予後は最悪そのものになると言わざるを得ません。最初の頭が柔らかい頃に間違った情報を強制インストールして、間違った方向に固い地盤を作っちゃうんですから。先の地球の例えで言うなら小学生の頃にフラットアーサー御用達の陰謀論動画をひたすら見せまくった状態で同様に逐次修正して回るようなもんです。全体攻撃チャンスの時に間違って防御力倍加バフを掛けちゃうようなもんです。もはや「負の教育」です。

 ここまで駄文にお付き合い頂いた方には、これまたお分かりでしょう。

 今のR-TYPEの設定デマの拡散具合は、もうこの段階まで来てしまっています。

 先ほど「ある一点を除いて横の繋がりがない」と言いましたが、そのある一点とは「間違った情報が含まれたコピペ」です。

 「R-TYPE 設定」みたいなワードでちょっとググればこのコピペ含む誤情報を堂々と載せたまとめサイトが次々と出てきます。そして不幸にもそれらがR-TYPEとのファーストコンタクトになってしまう…という訳です。つまりこれらが「負の教育」として機能してしまっている、という事になります。これまた先に「デマ拡散しているポストは大抵、誤情報コピペの丸写し」と言いましたが、まさにこのことが先の説を裏付けているのです。

 もうだめだぁ…おしまいだぁ…。

 せめてもの希望を見出すとすれば。先の検索ワードでググった場合にトップに出るのは正しい設定のソースとして使わせていただいたtogetterのまとめであること、サジェストとして「R-TYPE 設定 デマ」と訂正への導線が繋がっていることでしょうか。我々人類はこの僅かな希望に賭けて、君が見つめ続けてくれることを信じながら終わりのないディフェンスを戦うしかありません。

 よく「義務教育の敗北」とか言ったりしますけど、このゲームの流言飛語に関して言えばまさにその「教育の敗北」が起こっている、というのが本章の主題となります。ゲームの話だから実害のないレベルで済んでいる訳ですが、これが実社会での生活や政治に関わるテーマで起きたことであったらば、その実害は計り知れません。そういえば福銀の取り付け騒ぎで本当に洒落にならないデマ流してしまった阿呆がついこの間現れたばかりでしたね。なんでこう、人の業は積み重なってしまうものなのでしょうかね。


3.我々一人一人が「バイド」を生み出さないために

 どこで歪みが生まれたのか。
 どこで歯車が狂いだしたのか。

 では、この辺でタイトルにある「現実のおぞましい設定」の話に移りましょう。

 「感染源」となったコピペがどこから生じたのか、今となっては知る由は全くありません。今目の前にあるのは、その情報が齎した、不可逆的な結果だけです。

 デマ、それは人類が生み出した悪夢。覚めることのない悪夢。

 様々な形を取りながら広範囲に伝播し、増殖し、触れた者を侵食する、何者にも制御不能な存在。討たれれば討たれた回数だけ甦り、完全に駆逐することは事実上不可能。

 何かに、似ていませんか?

 しかも、それはPCやスマホがあれば、極論言葉を発する口さえあれば、誰にでも、簡単に作り出せます。生体物理学も、遺伝子工学も、魔道力学も、何も必要ありません。まさに人工の生ける悪魔。

 恐らく、問題のコピペを最初に書き込んだVIPPER(もはやこの言葉が懐かしい)、あるいは他の板の住人は、何の気なしに自分が書き込んだ文章が10年以上の時を経てネットを漂って「悪魔」となった挙句、ここまで強固な「負の教育」として機能することになってしまう…とは露ほども思わなかったことでしょう。


 R-TYPEの話からは離れますが、この「悪魔デマ」の発生機序の恐ろしさを物語る、私が体験したエピソードをお話ししましょう。

 ミリタリ関係にご理解のある読者の方ならば、というかそんなに詳しくない方でも「M16」というライフルをご存じでしょう。アメリカの文字通りの意味での「国民小銃」ですね。

 2~3年ほど前の話です。当時私はそのM16の耐久性、信頼性についての話題をリツイート(当時)して、私見を述べておりました。私がRTしたツイートでは、私よりも軍事、銃器関連に知識がある方が実銃の耐久性テストの動画等をソースとして提示し、「M16に著しい耐久性の問題はなく、軍用小銃として十分な信頼性がある」という結論を提示しておられました。私としてもその結論を支持する内容でツイートをした次第です。

 そして、そのツイートをRTした私に、あるフォロワーが言ったのです。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00BTRMSKI

「ゴルゴ13の『激突!AK-100 vs M-16』をとりあえず読んでこい。M16が如何に信頼性に劣っている銃なのか分かる。話はそれからだ。(要約)」と。

 ……Huh?(当時は存在しなかった猫ミーム)

 いやいやいやいやいや。本物を実際に撃って汚してテストした結果をソースにして話をしているところに割り込んで「違うもん!漫画で読んだもん!」ですか?そんな渋谷のハチ公前広場で全裸になってびっくりするほどユートピア!をやりながら脱糞するレベルの行為、ちょっと人並みには羞恥心がある(つもり)の私には出来ないっすわ。しかしながら、公衆の面前で恥ずかしい行為をすることによって興奮する人間というのは存在するもので、そんな特殊性癖者によってハードボイルド劇画の不朽の名作は「悪魔」の媒介者に仕立て上げられてしまったのです。幸い、これを目にしたのが私だったおかげで、そのフォロワーとの数年来に渡る関係が終了したことを除けば、それ以上の害はありませんでした。しかし、もし私がフィクションと現実の区別が付かないアホ純真な人間だったのなら、事はこれでは済まなかったことでしょう。

 これはどういうことなのでしょうか?この出来事がR-TYPEを通して浮き彫りになった「現実のおぞましい設定」とどう関係するのでしょうか?

 そもそも、ゴルゴ13という作品を通して故さいとう・たかを先生がしたかったことは、銃器についての知識を啓蒙し、広めることではありません。ゴルゴ13を始めとしたキャラクターを魅力的に描き、彼らが繰り広げるドラマを表現することです。実際の銃器の評価に根拠として持ち出すことなど、まず想定していなかったことでしょう。

 そして当たり前ですが、ゴルゴ13という漫画はフィクションです。フィクションである以上、事実と異なる表現が含まれています。しかしそれは作品をより面白いものとして見せるため、受け手を楽しませるために善意で加えられたものです。決して受け手を欺き、デマを広めてやろうといったような悪意によるものではありません。私たちはその合意のもとで日々様々なフィクションを楽しんでいます。しかし、無情にもその合意は通用しませんでした。

 良かれと思って生み出されたフィクションが、人を騙す為の情報の悪魔に変えられてしまったのです。

 「悪魔」は初めから「悪魔」として生まれるとは限りません。

 悪意を持った何者かによって、あるいは悪意すら介在しない不運によって、あらゆる情報、物語は「悪魔」になり得る可能性を秘めているのです。

 話を戻します。

 言うまでもないことですが、R-TYPEというシューティングゲームもフィクションである以上。それに付随する設定の数々もフィクションです。それらはこんな狂気の所業にまで手を伸ばさなければ対抗できないバイドという敵の強大さ、人類の立たされている絶望的な状況を表現し、作品世界をより魅力的に表現するためのスパイスなのです。そうした作り手の意図のもと、これらの「おぞましい設定」は生まれました。同ハッシュタグで挙げられている他作品の設定も同じことです。

 しかしながら、悲しいことに情報が氾濫するネットの世界においては、往々にして作り手、発言者の意図などはエンジェルパックにされる兵士の尊厳並みに軽く扱われるものです。

 そして、気付いた頃には元の作品やそれが付け加えられた意図などは完全に顧みられることなく、ただ情報だけが弄ばれることになるのです。この点に関してはバイド編(後編)に譲ります。

 簡単に作り出せるどころか、作り出そうと思っていなくてもどこからともなく勝手に生まれてしまう、最悪それまでみんなが楽しんでいたものが突如として牙を剥いてくることすらある人工の生ける悪魔。そして現状が不可逆的に変更されてしまうまで、我々はそれが現れたことにすら気付けない。その悪魔が放たれた場所は、幸運にも実害を齎すことのない場所でした。 

 しかし、次もそうであってくれる保証など、一体どこにあるのでしょうか?

 実際に、今からおよそ100年前の災害の混乱に乗じて呼び出された「悪魔」は、数百から数千もの命を喰らったのです。

  • デマを生むコストはどこまでも安く、デマを訂正するコストはどこまでも高い

  • 悪意をもってデマとして流布された情報のみならず、善意に基くものであってもあらゆる情報が「デマ」として悪用されうるリスクを秘めている

  • 何処でも発生しうるものであると同時にその影響は不可逆的なものとなり、生じうる実害についても未知数


 これが「現実のおぞましい設定」です。

 これはデマに関する一般論の再確認に過ぎません。しかし、この事件を通じて私たちは今一度、この一般論を再確認すべきではないでしょうか? 

 生み出そうと思っていなくても、何処からか生まれ出でてしまう悪魔。そんなものを止めることなど、我々には不可能なのでしょう。私が過去に書いた文章、発した言葉の数々、そして今書いているこれすらも将来「悪魔」に変じてしまう日が来るのかもしれません。完全にデマを根絶しようとするならば、我々は完全に口を閉じ、目耳を塞がなければなりません。そうなってしまっては、それこそデマの勝利と言えるでしょう。

 しかし。それでも。

 その悪魔の存在を知り、それが生まれ得ることに考え至るだけでも。

 不確かな情報を発信する前に、立ち止まって考える癖を付けるだけでも。

 不確かな情報を信じる前に、常識を疑うと言いながら非常識を鵜呑みにする前に、情報の出処に当たるだけでも。

 僅かなりとも、この悲惨な現状に抗うことが出来るのではないでしょうか。

 2章で述べた教育も、その一つとなり得ます。嘘が入り込む前に正しい知識を身に着けることで、それらが侵食してくる可能性を僅かなりとも減らすことが出来るはずです。

 思えば、教育によって正しい知識を広めることも、風説やコピペに乗せてデマを広めることも、情報の拡散という意味では全く同じこと。

 情報はあくまでも情報であり、それをどのように使うか、判断するかで全にも悪にもなり得る存在です。

 この力を、現実を食い潰す悪魔バイドを生み、育てるために使うのか。

 それとも、その人工の悪魔に立ち向かうための武器フォースとして使うのか。

 すべては、我々次第なのです。



さて……
お行儀のいい中尉はここまでだ。

以下、後編となる「バイド編」にて、上記論説のさらに根本的な部分となる

  • そもそも、なぜ設定を捏造し、デマを拡散してはならないのか?

  • そもそも、なぜこの設定に関するデマはこんなにまで拡散してしまったのか?

を毒舌とともに突撃ケンロクエンしていきたいと思います。

バイド編に続きます。


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