[観劇] 忘れてもらえないの歌

 福原充則脚本演出・主演安田章大・福士誠治で2年前にやった「俺節」の前史のような物語。

あらすじ

戦中ジャズ好きの集まったダンスホールが話の始まり。このダンスホールはレディカモンテがオーナーであり、メインの歌姫でもある店だった。そんな中戦局の悪化とダンスホール営業停止 、敵性音楽であるジャズは聴くこともできなくなる。そして東京大空襲。焼け野原になり、人の心も荒廃してゆく。そんな中でもレコードをもって空襲を生きのびた人や戦地から帰還した人達が、生き残るため稼ぐためバンドを組んで進駐軍のバーでジャズを演奏することで糧にしようとする。演奏をする楽器もままならず、機転を利かせてチャンスを得る。楽器の演奏の技術はその後。練習して音を出すのがやっとから、なんとか専属になれてやっていけるようになってくる。そうなると今度は音楽の方向性やらでもめる。このままでやっていけるのか疑問が出てきたところで、時代は変わる。講和条約の締結で進駐軍の帰国することになる。演奏できるところを探してやっていくしかないし、そういった場所を求めてライバルも出てくる。少しでも生活を安定させるためと日当の不安定さを言い出して月給制にすると言えば、金の為の音楽かとなりまたもめる。どうにかCMソングをとれたと思えば、売春婦だった麻子の過去が邪魔する。そうしてみんなバラバラに。滝野は一人残って始まりのダンスホールを守って歌声喫茶をやったところで上手くいかない。戻れる場所としてガルボを守っていく気持ちはある、だが借金を返さなければ続けていけない。何とかやりくりして続けていきたいが難しい現実がある。それはバラバラになったメンバーも同じだった。全員で集まれるのなら再結成してもいいと久々に集まったメンバーの話に、それは無理という事実を突きつけられる。川崎大がロカビリーのスターになっていた。曽根川から新人のための曲を提供してくれないかという話を持ちかけられて、メンバーが再び集まって曲を作ることになった。生きてきた今までのことを思い出しながらメロディーを作り、歌詞を紡いでいく。みんなで歌い笑顔がこぼれた。レコードの発売日にまた集まりみんなで聞くことになり、タイトルも知らなかったと言いながらレコードをかけるがそこに流れてきたのは自分たちの作った曲ではなかった。スタジオの費用なども持っていたことが明かされる。騙されたという事実を前にまたバラバラになってしまう。そして店が取り壊される日やってきた。レディカモンテに再会した滝野は作った歌のことを話す。カモンテはその歌を聞かせてほしいといい、たくさんの歌が生まれて忘れられていくけれどその歌は忘れてもらえることはないのだから、私が聞いてその歌を忘れられる歌にすると。後ろを向いたカモンテの前で取り壊される店の中で歌う。そして歌い終わる頃取り壊しも終わり何もかもなくなった。

 つぶやき感想

世にでない歌、それは忘れてもらうことすらできない歌。たった一人だけれど聴いてくれる人がいて、忘れてもらうことが出きる。そんな日始まりのダンスホールは取り壊された。

稲荷が戦地に行くときベニー・グッドマンは戦地に出るのかなっていったとき、そういえばグレン・ミラーは戦地慰問にいって行方不明になったんだっけと思い出した。

売春婦から英語の歌詞で歌えるという理由でバンドのボーカルになり、いつもイライラしている感じがする。自分が嫌いなもの同士と稲荷に近しい気持ちを持っているが、言いやすい人間だから色々言ってくるのだろうと拒絶に近いことを言われてしまう。でもこの二人訳ありの関係だよね。稲荷のタバコを吹かす姿がちょっとずるい。そのあと再会して二人で慰め合いますか。やっぱりズルい。

バーテンやっていたとき、アル中になる人間を見てきた。今の自分は音楽中毒、音楽をやめられない。デパートの屋上の販促イベントでCMソングを演奏するしかない状態でも。

東京大空襲のあと生きているのに空っぽで怒りも悲しみも持たない死人のような人を見た。そういう人に比べれば怒りでも心のなかにあるのはいいこと。

音楽だけは裏切れない。音楽に真剣なあなたなら尚更だろう。

音楽を忘れることはできない。

すり減るんだ。書きたくないことを書いていると。ジャズバンドのために日本語の歌詞でも書いてくれと言われたときは何でも書くと言っていた稲荷

時代のせいにしたくない。自分で選んだんだ。戦争がなくても自分は体を売っていたかもしれない。

仲間は最後なんて言ったのですか?ライターの問いには笑ってごまかすが、
「またあした!」でも明日は来なかった。いや明日を待ち続けているのだろうか。

最後滝野が歌う場面は「俺節」のオマージュか。土砂降りの中歌うコウジの後ろでコウジを見つめ涙を流しながら聞くオキナワと店の取り壊し工事中歌う滝野の後ろで背中を向けて聞くレディカモンテ。対比になっているようにも思える。

 こうやって感想めいたことを書くことで、誰かに届くことになるかもしれない。歌だってたくさん生まれて発表されることすらない曲がたくさんあって、誰にも聞かれずに埋もれていってしまっている。世に出る機会すらなければ忘れられることもないというセリフにはどきっとさせられた。流行って忘れられる歌は思い出されるうたでもある。忘れられる歌には意味があるのだ。「俺節」でもそうだったように何かを作る人に刺さる言葉がたくさんあって、頑張ろうという気持ちになれた。

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