怪文書・世界に対する復讐心

2019/12/16 YYYY/MM/DD

25年前この世界にある男が生まれた。

男は虚弱に生まれた。
よく馬鹿にされた。

男は貧乏に生まれた。
金持ちとの差によく歯ぎしりをした。

男は醜く生まれた。
よく気持ち悪がられた。

男は精神に難があって生まれた。
それはもう救いようがない。

男は親に愛されなかった。
今でもそれは尾を引いている。


男は世界からの淘汰圧を感じて生きてきた。
その原因は男にはどうにも出来ないことだった。

しかしそれらは男の人生を苛んだ。

虚弱さと醜さはよく揶揄された。
"持つ男"は自分より程度の低い人間をバカにする権利があるかのように振舞った。
取り巻きの女たちも当然のように嘲笑っていた。

悔しかった。
だから負けなかった。

男は夢を持った。
熱心に取り掛かると嫌でも貧乏と金持ちの差をわからせられた。
親に愛された者とそうでない者の差をわからせられた。
そういう現実をわからせられた。

悔しかった。

だって私は自分の行い由来の瑕疵で苦しんでいるわけではなかった。
与えられたものだった。
背負うしかないものだった。


世界は私を淘汰しようとしている。


どうにかしようと知識を探せば生まれが大事という情報ばかり出てくる。

人に相談すればその人間が悦に入りたいだけの説教をされるか、
甘えだろと一笑に付される。

愛する者は"普通ではない"私から離れる。


世界は私を孤独のまま淘汰しようとしている。


男は自分は淘汰されるべきではないと思っている。

見よ。世に私より人間性が低い人間がたくさんいるではないか。
無闇に怒鳴ったり、他人を困らせたりして。

どうして彼らの方がまともな生活をしている?
先に淘汰すべきはあっちだろ。私じゃない。

見よ。世に周囲の力を自分の力だと勘違いしてしたり顔をしている人間がいるではないか。何も成していないのに。

私は自分の力でなんとかしたと自負がある。
先に淘汰すべきはあっちだろ。私じゃない。

見よ。世に異性を喰いものにして下卑た顔する男の多いことよ。
徒に人の心を傷つけているではないか。

私は一人の女を誠実に愛することが出来る。
先に淘汰すべきはあっちだろ。私じゃない。


どうして俺なんだ。俺が先に淘汰されるんだ。

この世界は間違っている。

俺と俺と似た幾千の"運が悪かった"人間たちがどうして報われない?
救う手段を持たない?

この世界に復讐する。

淘汰されるべく生まれた私のような人間が幸福を得られたならば、
それは世界から与えられた運命に打ち克ったということ。

そして私以外の似たような運命を背負う彼らも幸福に出来たのならば、
それは世界への報復を意味する。

必ず必ず成し遂げなければならない。

生まれてきたことが罪だと感じる人間はもうここから先は生まれなくていい。


※この人生はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


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