見出し画像

生野菜のようなみずみずしさの、生の木でスプーンをつくる

先月末、おゆうはん後に急に木削りがしたくなって、スプンを削りました。気が済みました&気が澄みました。やっぱり生木の木削り(グリーンウッドワーク)は、心にいいです。。

画像1

画像2

画像3

画像4

△斧でのはつり→ナイフでの粗削りまでをひととおり終えたところ。あとは布でくるんでゆっくり乾かします。

画像5

△乾燥中は、重さを毎日測って乾ききるのを待ちます。乾ききったら、よく砥いだナイフで仕上げ削りへ。

材は直径の小さなリョウブの木。1カ月前に伐ったのをいただいたものです。長さ25センチくらいに切って口の開いたビニール袋に入れて部屋の中に置いておきました(乾燥を遅めるために、木口に木工用ボンドを塗っておきました)。

1カ月のあいだ室内に置いてたので、だいぶ乾燥が進んでしまったはずと思ってましたが、樹皮を取るとまだ中はしっとりとしていて、水分が残っていました。しゃびしゃびではなくなってたけれど、気持ちい削り心地でした。

グリーンウッドワークで使う、みずみずしい木。ふだん私は庭木や街路樹の剪定枝、台風の後に折れてしまった川べりの木の枝、建設現場で伐られた木など、暮らしの中で遭遇する生木を使っています。

水分が抜けていない状態の生の木は、いわゆる乾燥した「材木」と違って、ほんとうに生き物としての固有の歴史を持った木なのだということが実感できます。

そしてみずみずしいからこそやわらかで、手道具で割ったり削ったりして加工できます。力がそこまで要らないです。

伐りたての木で、とくにもともと水分を多く含む樹種だったりすると、木というより野菜(根菜)を切ったり削ったりしてる感覚に近いような気がする瞬間もあったり。

ただし、削りやすい=水分が多い=作業中/作業後に乾燥すると縮み・歪み・割れが出やすい、ということでもあります。(だから普通の木工では木材を乾燥させてから加工するんですね…。)

生木の木削りには、どのくらいの”生加減”がいいのか、いつもなんとなく観察しています。

「対話できるみずみずしさ」「気持ちいい削り心地」「削る作業の効率のよさ」を望むと同時に、「変形・割れのリスク」をどう回避できるかを視野に入れておきたいわけで、その方法としては、成形したあとなるべくゆっくり乾燥するように、削りくずや布でくるむのが1つ(茹でたジャガイモをつぶして塗っておくのも一手)。

あとは縮んで曲がる方向を勘定に入れてデザインを考えたり、厚みに落差が出すぎないように成形するなど。

そして、水分が急速に抜けるのを防ぐためにも、伐りたてのシャビシャビの生木よりも、少し水分が抜けるまで待ってから始める、というのも1つだと思います。

とにかく、樹種によっても樹齢によっても季節によっても部位によっても、乾燥過程での振る舞いはそれぞれ違ってくるので、いつも「やってみて、様子をみてみる」の繰り返しです。観察しつづける楽しさがありますし、一期一会感もあります😌

■生木=伐りたてホヤホヤの木?

普通の木工のこともなにも知らずにグリーンウッドワークを学び始めたので、わたしは最初、「生木=伐りたてホヤホヤの木」と思っていました。でも木は伐ってから乾燥しきるまでにだいぶん時間がかかることを後で知りました。

季節や木の太さにもよりますが、樹皮をつけたまま、乾燥がゆっくりになるよう工夫して保管すれば、伐ってから数週間~数カ月経っても木の中には水分が保たれていて、生木の状態が続きます。これをだんだん実感するようになって、水分がある程度保たれてさえいれば、対話しやすさ・削りやすさも保たれる、と知りました。

(ただ、あまり長いこと樹皮をつけたまま保管すると、虫が入ったりカビが出たりしてしまうので、それはそれで注意が要ります)。

樹種によって水分が多めだったり少なめだったりもするし、繊維が緻密かおおらかかによっても、削りやすさは変わります。プラス、フシが奥の方に隠れていることもあるし、繊維が入り組んでいることもあれば繊維がまっすぐで剥離しやすいこともあるし、とにかく、それぞれの木にそれぞれの個性、それぞれの削り味があります。

割ってみるまで、中はわからない。割るときはいつも、プレゼントの包みをあけるような気持ちです。

■乾燥してしまったらもうだめ?

カラカラに乾いた木材だって再度水につければ(干し椎茸を水で戻すイメージで)いいんではないか、と思ったこともありました。

でもやってみたかぎりの自分の経験では「Oh no!」という感じでした。一度乾いてしまった木は、水につけても表面うっすらにしか水分が入っていかず、みずみずしさが奥まで行き渡っている時の削り心地とはぜんぜん違いました。(それでも削れないわけではないですが、硬い削り味になるので普通に疲れました)。

[memo: これは生きている立木の話ですが、導管の中に水分がなくなった状態が一定期間続くと、そのあとは水が上がらなくなってしまうそうです。詳しくはこちらへ]

ただ、最終的に表面を滑らかに整えて仕上げるときには、乾燥した後のほうが具合がいいです。

湿っていると木の表面の繊維が毛羽立って、たとえばスプンの首のくびれ部分など、両方向から削っていってカーブの底で出会わせたい部分などで、いつまでたっても繊維がわずかにささくれのようになるのを解消できなかったりします。

だいたい形ができたら、きっちり乾燥させて、乾燥後に表面の繊維のうきあがりをスパッと鋭利なナイフで削り落とすと、すべすべに整えることができます。表面全体を、うっすら薄く削り落とすだけなので、硬くても問題ありません。

(仕上げはサンドペーパーを使わず鋭利なナイフで、が自分好みです。鉋がけした柱のように、水滴の玉がコロコロ転がるような表面になるような気がするから……。もっと砥ぎや削りが上手になったらほんとにそうなるんだと思います、というのも、サンドペーパーでは細かーなキズが表面につくことになり、ナイフ仕上げのほうがキズの少ない表面になって、雑菌なども入りにくくなるそうなんです。)

■なるべくみずみずしく保つには

削り心地のいい、水分の多い状態に保つには、フレッシュな生木を、なるべくゆっくり乾燥するようにしながら保管したいわけですが、そのために私は木口(木の切り口の断面)に木工用ボンドを塗って、直射日光の当たらない北側の軒先などに立てておくようにしています。

樹液の通り道である細かな筒状の導管が、切り口ではみんな口を開いているので、そこから一番たくさん水分が蒸発していきます。そこを塞いでおくわけです。

小さめの材なら、密閉袋に入れて冷凍庫で保管する方法もあります。凍らせてしまうことで蒸発を防ぎます。

作業中の乾燥を遅らせるには、水につけながら作業するのも有効なようです。飛騨に有道杓子という朴の生木からつくる昔ながらの杓子があるんですが、伝統のつくり方を受け継いでおられる奥井京介さんにつくりかたを教わったとき、作業の途中にちょくちょく水にじゃぽんとつけるように教わりました。

かつて吉野の杉を鉈で割って箸をつくっていた職人さんも、仕事場の入口に水を張った桶を置いていて、その中に加工しかけの箸材をつけていたそうです。ただ、以前読んだ秋岡芳夫さんの本『木のある生活』によると、箸の材を水に浸けるのは「あくを抜く」ためだったらしい。。

樹液は水溶性。そこで水に沈めて保管すれば、材の中の樹液を水と置き換えることで、樹液を抜くことができます。これが「あく抜き」。樹液が抜けると、水分が乾燥した後のゆがみや狂いが出なくなるからだそうでした。

山に暮らしてお盆やお椀をつくっていた木曽の木地師も、小川沿いに溜池をつくって、そこに材を浸けおきながら作業していたそうです。

新潟と長野の県境、秋山というところでは、いろんな生活用品を木で自作自用する伝統があったそうですが、そこの集落にも、かつては家ごとに庭先に溜池が掘ってあったそうです。これはトチの木の塊を沈めておくためのもので、畑仕事の合間に、沈めておいた材を引き上げて削り、農作業が忙しいときは削りかけのものをまた池に戻して、「仕事を続けられる日まで幾日でも池に沈めて」おく。これを繰り返しながら、半年近くかけて、木のお鉢をつくっていたんだそうです。

秋山の木鉢は、「最後の工程を除いたあとの全部を、木が濡れた状態で行います。水中乾燥と彫り加工を並行して行う伝統的な木工加工技術なのです」と秋岡さんは書いておられました。(「水中乾燥」とは水中で保管して「あく抜き」をすることを指します)。

指物師も、入手した板材を「雨に打たせて」から指物づくりにとりかかる伝統があったそうで、これも樹液を抜くための方法だった、と秋岡さんは書いています。

そんなわけで、作業中は生木を水につけて、樹液を水と交換させながら、みずみずしさを保った状態で削るのもひとつのようです(作業に時間がかかる場合)。

作業前の材を、水に沈めて保管する方法もありだろうか?と考えたことがあります。それでいちど、コーヒースクープサイズの小さな木端を5日間水に沈めてから削ってみたことがありました。

水に色が着くので、樹液と水が置き換わっているようには思いましたが、5日で中の樹液が全部水に置き換わったかどうか定かではありませんでした💦 そんなわけで、できあがったスプンの使い心地にはなんの不満もなく、気に入っているのですけども、樹液を抜いての削りについては、それがどう削り心地や仕上がりに影響するのか、まだちゃんと検証しきれていません。

なんとなくですが、樹液が入っているほうが、削っている最中に木と対話できるような気がします。ほんとうにこれは、なんとなく、の話ですが……。

(日本や世界各地のグリーンウッドワーカーで、水中貯木しながら作業している人っているのかな、と当時興味が湧いたんですが、そのあとそこをつっこんで探究する時間もなく。。💦)

なんか今回はちょっと最後、マニアックな話になっていってしまいました。。。マニアックな話はここでなくサイトのほうで、と思っているのに、つい💦 

とにかく!身近に剪定枝などが出たけれどすぐには削る時間がとれない、というときは、a)木口を木工用ボンドで塞いで日陰に立てかけておく、b)密閉袋に入れて冷凍庫に入れておく、もしくは未知のオプションとしてc)水に沈めておく(全体が沈むように!どこかが空気に触れていると腐ります)、などの対策をとるとみずみずしさを保てて、シンプルな手道具での加工=電気を使わないグリーンな木工=グリーンウッドワークを実践できます♡

(みずみずしさの実体が樹液か水かで、削るときどんな違いが出るか、どちらが好きかなど、やってみていただいてぜひフィードバックをいただけたら……うれしいです。)

* * *

ぐり と グリーンウッドワーク https://guritogreen.com/


応援をいただけたらとってもうれしく、励みになります :)