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コロナ関連のYouTubeを見て思ったこと

少し前に公開されたYouTube動画ですが、興味深い内容で、色々と考えさせられたので感想を書きたいと思います。

宮迫博之さんのチャンネルで、ひろゆきさんとコロナについて対談している動画です。今年の1月26日公開になっているので、今回、解除された緊急事態宣言が出されてしばらく経った頃です。時期的には変異株が言われだし、mRNAワクチンの話が話題になる少し前の頃です。したがって少し時間が経っている分、世間の認識も変わってきているとは思うのですが、それを差し引いても興味深かったので掘り下げていきます。

1.全体の流れ

宮迫さんがひろゆきさんにコロナについて教えてもらうというスタンスで進行していきます。教わる立場ですが、宮迫さんも自身が考えられていることを話されています。
スタンス的に、宮迫さんはもっと自粛したほうがいいという考えで、マスクをしないで外に出る人などを批判されています。ひろゆきさんもそれに同調され、現在、住んでいるフランスの現状を交えて解説されています。さらに話は日本のコロナ対策や海外のコロナ対策、日本は医療崩壊しているのか、最後にビタミンDを取った方がいいという雑学的な話で終わっています。
個人的には自粛推進と医療崩壊についての話が興味深かったです。

2.自粛推進について

ひろゆきさんがフランスでの自粛について話されます。フランスは18時以降の外出禁止とかなり厳しい制限がかけられているようです。
これに対して宮迫さんが「日本は感染者も重症者も少ないから、フランスくらい厳しくやれば、コロナをやっつけられるんじゃないか」と言い、以降はもっと自粛して、マスクもちゃんとつけた方がいいという話になっていきます。

この認識は不思議でした。新型コロナを完全に消滅させることができると考えている人はもういないと、私が思っていたからです。新型コロナは、軽症や無症状の人が大半の感染症です。このような特徴を持つウイルスを、全世界に広がってしまった状態から完全に駆逐することはほぼ不可能です。ここまで来たら、ワクチンなどを使って重症化のリスクを下げつつ、長期間かけて集団免疫を獲得し、社会的にも受け入れていくしかないと思われます。
例えば、SARSやMERSの場合は症状が強いため封じ込めが比較的、容易でした。症状が出た人の接触者をたどっていき、疑わしい人を隔離すればよいからです。また基本的に軽症や無症状で済むことはないので、見落とすことはありません。一方、新型コロナの場合は無症状、軽症が大半のため、キャリアを全員、隔離することは不可能です。必ずすり抜ける人が出てきます。その結果、全世界に広がってしまったのでしょうし、これは仕方のないことです。
したがって自粛すれば新型コロナを撲滅できるのではという考えは驚きでした。これに対して特に炎上もしていなければ、ネットニュースにも取り上げられていなかったので、世間的にもある程度、こういう認識があるのかもしれないなと思いました。

3.日本は医療崩壊しているのか?

次に、Go toトラベルと政治の話になりました。このあたりは素人なのでよくわかりませんが、素直にそうだったのかと思いました。またワクチンの話もしていましたが、mRNAワクチンの話が出る前だったので少しずれていた気がします。これは対談の時期的に仕方ないと思います。

一番、気になったのは医療崩壊についてです。東京のコロナ専用ベッドの占有率が上がっており、医師と看護師も不足していて医療崩壊寸前だという話から慈恵医大の大木先生の話題になっていました。ひろゆきさんが、「慈恵の先生(大木先生)が一般のベッドを使えば、ベッドはまだ足りるという話をした。この話はこの先生個人の意見で、慈恵医大も関係ないと言っている。なのに菅総理がこの先生と会って話をしたらしい。ベッドは足りているという人の意見をわざわざ聞きに行って、現実から目を背けようとしており、かなりまずい状況だと思う」というようなことを言っていました。この指摘はだいぶずれていると思います。以下に理由を書いていきます。

4.慈恵医大のリスクヘッジ

まず大木提言に対する慈恵医大の対応についてです。大木先生の発言は慈恵医大とは関係ないと、慈恵医大が公言しているのは事実です。さらに大木先生の個人ホームページが開設され、そこにSNSのリンクやYouTubeのリンクが載っています。「慈恵医大が関係ないと言っているから、この先生の発言はトンデモな意見だ」というのは少し認識が誤っていて、関係なしとしているのは慈恵医大の炎上に対するリスクヘッジに過ぎないのです。

以前の記事にも書きましたが、九州大学の中山敬一先生が著書の中で、「女性研究者にとって結婚は△、出産は×」という文章を書き、さらにこの文章を誰でも読めるようにホームページ上に公開しました。2010年頃のことです。そして約10年の時を経て、2020年の秋頃にこの文章が発見され、女性差別だとして炎上します。さらによくなかったのが、この文章が九州大学公式ホームページの中山研のページに載っていたことです。客観的に見れば、九州大学は女性差別を容認しているのかと捉えられてもおかしくない状態になっていたのです。この一連の騒動に対し中山先生は「自分は女性研究者を差別しているのではなく、女性研究者が差別されてしまう、日本の状況を憂いている」という文章を新たにホームページに載せ、先程の文章を含め中山先生の書かれた本に関係する文章は中山先生の個人ホームページへ移動します。さらに九州大学の公式ホームページから中山先生の個人ホームページにリンクはあるものの、リンクをクリックすると、「ここから先は個人のページで九州大学とは関係ありません」と注意書きが出て、その後でリンク先に飛べるように変更がなされました。
この一連の騒動は中山先生に罪はなく、九州大学のリスク管理不足だと、私は考えています。中山先生の書かれた文章は、先のものも含めて極めて正しい指摘だと思うのですが、かなり過激に書かれており、誤解を招きかねません。2010年当時に私がはじめて一連の文章を読んだときも非常に不快に感じました。その後、色々な研究者と出会う中で、基礎研究をやる若者を増やしたいという中山先生の熱い気持ちに気づくことになるのですが、やはり一読しただけではなかなか理解できません。なお私自身は中山先生の講演は何度か聞いたことはありますが、直接、お話したことはありません。
九州大学は2010年の時点で中山先生に注意すべきだったし、それでも中山先生が、この意見を発信したいというのであれば、九州大学からは離れた個人としてやってくれと言うべきでした。中山先生の意見が正しいか正しくないかは置いておいて、賛否両論の意見だなとか、文章を不快に感じる人はいるだろうなとか捉えることは容易ですし、炎上するかもしれないということは容易に想像がつきます(興味のある方はホームページの文章を読んでみてください)。大学として当然、上に書いたようなリスクヘッジはするべきでした。

その点、慈恵医大はリスクヘッジをしっかりしていて、最初から大木先生の意見は個人の意見ですと大学から切り離しました。ただそれだけの話で、大木先生の意見が正しいか、正しくないかは別次元の話なのです。つまり慈恵医大は大木提言は賛否両論で、下手したら炎上する可能性があると判断しただけなのです。

5.実際の医療現場はどうか?

現在の医療現場に関して、私自身はコロナ診療にあたっていないので、肌感としてはよくわからないのですが、友人の話などを聞くと医療崩壊というよりは医療現場に偏りが生じているのかなという印象です。また解決策として大木先生の意見もあながち間違っていないかなと思っています。

大木先生の提言は、私が理解している範囲では、ゼロコロナの前提をやめ、医療資源及び医療者に資金をしっかりまわして医療体制を整えるべきだということ、いまコロナ専門ではない病院のベッドをコロナ診療に当てられるように規制を緩和すべきという二点に集約されると思います。特に二点目は非常に的を得た意見と考えます。

これも友人から聞いた話ですが、コロナ専門病院でない民間病院は基本的にコロナ疑いの患者さんは基本的に断るような方針だそうで、ひどい場合だと発熱があるだけでほとんどの病院から受診を断られてしまい、2時間くらい遠方の病院に運ばれることもあるということでした。さらにコロナ患者を引き受けると、現状だとケアが大変になり、かつ通常業務を削減せざるを得なかなるので売り上げが落ちてしまいます。おそらく医療崩壊というのは一部の病院だけで、反対に何も変わらない病院も数多くあると思います。

これはコロナに限った話ではなく、以前に私が地方の総合病院に勤めている時にも似たような経験をしました。その病院の周囲にもいくつか病院があり、夜間救急もやっているのですが、なにかと理由をつけて断られます。夜間は検査ができないとか、自分は常勤ではないので入院決定の権限がないとか、そういった理由です。では日中なら大丈夫なのかというとそうでもありません。一度、総合病院に送られてしまうと、そんな難しい患者はみれないといって結局、総合病院の患者がたまっていくことになります。周辺の病院から総合病院に紹介があった患者さんをよくなったから、あるいは緩和ケア目的で紹介元に逆紹介すると断られる、そんなことも日常茶飯事でした。結果、私の働いていた病院だけがその地域の患者さんを抱え込むことになり、患者さんを実際にみていた医療スタッフは疲弊していました。地方の医療崩壊が叫ばれていますが、その時に真相はこんなものかと思った記憶があります。コロナ禍でも同じようなことが起きているのでしょう。

コロナの指定感染基準を緩和したら状況が好転するかとも思ったのですが、結局、患者さんをみない病院はみないので状況は改善しないような気もします。それよりは提言の一点目にあたるコロナ専門病院および医療従事者への資金の調達の方が解決策としては得策かもしれません。例えば、コロナ診療をしている病院には国が1億円支給しますとか、コロナ患者を見ている医療従事者の給料を補償込みで月500万円にしますとか、そんな感じでしょうか。そこまでやれば、いま働いていない病院や医者もさすがに働きだすと思います。

6.この動画の反響

再生数は100万再生近くいっているのに、恐ろしいほど反響はありません。コメント欄も穏やかなもので、宮迫さんとひろゆきさんを賞賛するコメントで溢れています。ここが一番の不思議な点でした。

ワクチンの話が出る前とはいえ、世間では自粛すればウイルスを駆逐できると思っており、医療崩壊しそうだからとにかく自粛をしようという考えが大半だったのでしょうか。このあたりは上に書いたように私の認識と大きくずれていたので驚きでした。たしかに宮迫さんの動画をみている人というバイアスはかかるので一般論に落とし込むのはいささか公平ではありませんが、違和感を感じた一件ではありました。

7.最後に

宮迫さんのYouTubeを見て思ったことと、コロナによる医療崩壊について考えてみました。
世間は自粛推奨ムードですが、ここまでくると出口のない状態で自粛をしてもストレスを溜めるだけで、いいことはない気もします。ワクチンが出始めたので、これにより重症化が防げると少しは見通しが立つのかもしれませんが、あくまで重症化を防ぐだけなので、ウイルスを駆逐することはできません。また変異株が出てくるとワクチンの効果が期待できない可能性も出てきます。究極的には集団免疫しかないのでしょうが、何年かかるのでしょうか。

今回は長くなりましたが、ここらへんで。お付き合いいただき、ありがとうございました。



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