一ヶ月前に観たジョーカーの感想

時期が経って世間の熱も冷めてきて、僕の記憶もほどよくおぼろげになってきて良い頃合いなので感想を書きます。

はじめに言ってしまうと僕は普段そこまで頻繁に映画を観る方じゃない上にバットマンの知識も皆無なので、あくまでこの作品単体で受け取ったイメージを綴ったものになります。ご了承をば。

ついでに言うとこれから観るつもりだって人も、前情報を頭に入れないで観るのがベストだと思います。
友達と一緒にポップコーン食べながら話題のエンタメ映画でちょっと時間潰すか~!とかそんなノリで観に行くとなお良いと思います。

そんなこんなでネタバレ注意です。





まあ観る前から明るい話ではないよなとは思っていましたが、想像よりタイトな内容でした。

いや、本当に終始陰鬱としているべっとりした内容で驚いた。
まさに先述の話題のエンタメ映画でちょっと時間潰すか~!という体で行って撃沈したクチです。これをコメディ映画とかいう謳い文句で宣伝した広報部がまさにジョーカーだ。

ただ、暗いだけで終わらないカタルシスも確かに込められているので、結果として視聴後に引きずらないエンタメとしての面白さも存在しています。あんま昼飯食いに行くようなテンションには中々戻らなかったのも確かだけど。

バットマンよく知らん僕でも「ジョーカーはバットマンの宿敵!悪役!」ぐらいの知識はあったので、なんかジョーカーがドデカい事件巻き起こして広告の謳い文句通り、アンチヒーロー的な物語に転調するんやろなぁと思っていました。

まあ確かにドデカい暴動は発生するんですけども、それは結果的にそうなったというだけで彼自身がそれを発生させるよう直接扇動したわけじゃないし。彼をジョーカーにさせた一因では間違いなくあるんですが。
物語の幹はジョーカー…というより、アーサー・フレックという人間の描写に徹底しているんですよね。

「ジョーカー」の物語というよりは、「ジョーカー」をうまいことメタファーとして使っている物語という印象です。
だって今作のジョーカーは有名アメコミの主人公の宿敵という視点で見るにはあまりにも脆弱な存在なんですもの。一般人のワンパンで沈みそう。

なので僕は、絶望の先に見出したものが彼をジョーカー(のよう)にしてしまったという、誰にでもある潜在した暴力性の暴走と捉えています。この辺は元のジョーカーの設定とか漁れば面白く思える要素なのかもしれない。


先述の通りとにかくこの話は暗い。わざとらしいぐらい暗い。ちょっとした救いのあるようなシーンですら劇中で摘み取られる。
救われなさすぎて、終盤の暴徒に担がれてるシーンなんかも劇中で明確に妄想と描写されるシーンもあることから、ここまで観るとこれ本当に現実か?といったふうに素直に受け取ることができなくなってきます。そんな中、あのオチに転調する。 

どこまでが現実でどこまでが妄想なのかってのは明確にされていない以上、ライン引きは重要ではないんでしょう。
全部現実だったのかもしれないし、妄想だったのかもしれない。これらが我々が思っている以上にいびつでざっくり意味深に切り貼りされて生まれた物語なんでしょう。故に尺引きは観た人それぞれで考えるべき。この考察殺しー!!!

わざとらしいぐらい悲しく暗く、ありえないぐらいジョーカーとしての計画が成功するのも、妄想という観点で見れば説得力が生まれるし、現実として観ても狂ってしまったかわいそうな男として見ることは十分にできる。妄想オチを放棄として使わずにうまいこと活用させた構図だと思います。

…まあ、どっちに転んでも、僕はアーサーという男に同情します。
思うに自分の人生に対してネガティブに捉えたことのある人ってのは、
「このクソみたいな人生は笑えないジョークなんじゃないか?」
「長い悪い夢を見てるんじゃないか?」
「そもそも今生きてるこの瞬間が現実って確証はあるのか?」
みたいな疑問を脳を掠めたことがあるもんだと勝手に認識しています。少なくとも僕は何度かあるので。

全てを投げ出したいとか、何もかもメチャクチャにしたいとか、憎い奴を殺したいとか、そういう想像が思考に入り混じる事は今でも決して少なくない。 
このジョーカーという映画が描く喜劇性は、そういう側面のビビットな色で塗りたくられているように見えます。
自分が絶対このようにはならないなんて自信は無いし、こんなトンデモをしない、考えない、なんて断言も出来ない。だからアーサーという男に心のどこかで同情してしまう。
狂気と正気の狭間に現実と妄想で生きる、一人の男の顛末として純粋に面白かったと感じたのはそういう部分が大きいです。 


うまいなァと思ったという部分で思い出しましたが、コミカルな描写のシーンがことごとく笑えないシチュエーションだったのが印象的でした。
病院の出口専用ドアにおもっくそぶつかるシーンでは、母親が重体なことが気になって笑えない。
小人症の人がドアの鍵に手が届かなくて部屋から出れないシーンでは、同僚の殺人シーンの直後ということもあって笑えない。
アーサーが踊るシーンなんて、中盤以降は誰かが死んだシーンの直後ばっかり。むしろ殺す度にこの動きがキレッキレになっていくもんだからシリアス要素にどっぷり上乗せされてる。

階段で踊ってたら刑事に見つかって逃げるシーンもコメディっぽくて好きです。
その後電車でその辺の仮面剥ぎ取って瞬く間に大乱闘引き起こして警察撒くっていう。ここだけ切り取ればコメディ映画のワンシーンって説明されても何も違和感はないぐらいにはコメディしてる。
ノリ的には自分が観に来る前に求めていたノリに近いかも。このシーンに至るまでの経緯を考えると全く笑えませんが。

あと印象的だったのは、最初の殺人の後、陰鬱な音楽の中で切れかけた蛍光灯のチカチカが映えた薄暗いトイレでダンスをするシーンと、パトカーで連行される中、街中の暴動を初めて直でアーサーは見て(おそらく)心の底から自分の中で本気で笑えるシーン。
両者とも所謂ターニングポイントにあたるシーンですが、これらのシーンの画がとってもキレイ。映画館の大画面で観れてよかったです。
特に後者のシーンで流れるクリームのホワイト・ルームが相乗効果効いててめっちゃシビれました。不意に好きな曲が映画館の音響で流れると好きになっちゃうやばいやばい。



以上、うろおぼえジョーカーのお話でした。
本当におぼろげなのでガッツリ間違えてること言っててもゆるして。