“シャカイジン”になった日のわたしへ
自分を切り売りしている感覚がある。
電車の中で、適度に伸ばして、整えて、ぴかぴかに磨いた爪を見ながら思った。
深い紺のスーツの中でその爪だけが妙に馴染まない。
いや、目立たないだけで手や指の毛だって綺麗に剃ってある。
自分の目には見えないだけで、まつげはきちんとお行儀良く上を向いている。
足は慣れないパンプスに押し込めて、ちょこんと並んでいる。
社会人なんだから、身嗜みぐらい。
そう言ったのは誰か。
お節介な誰かかも知れないし、自分かも知れない。顔のない大勢の誰かかも知