偉大なるカチューシャ

同志カチューシャが卒業した。
次の日から、プラウダ内にニーナ率いる「保守派」とアリーナ率いる「革新派」が誕生し、校内は完全に二分された。
ニーナは言う。「私達はちびっ子隊長の意志を継ぐだ。隊長の言ってたことがなんだかんだ言って正しいだよ」
アリーナはそれに返す。「カチューシャ隊長は確かに素晴らしいだ。しかし、個人崇拝?というのはどうもなー。私達は自由が欲しいだよ」
2つの派閥は表向きは対立していた。しかし、2人共カチューシャやノンナ程の熾烈さ、カリスマ性が無いため統制は行き届かなかった。両陣営の生徒はお互いに同じ場所で学び、昼食を食べ、そして遊んだ。生徒からしたら、政治云々の前に、目の前のことを楽しむのが優先事項だったからだ。
最初はいがみ合う派閥間で親密になるのはどうかと思っていたニーナとアリーナですら、結局は共に戦車道の同志として、そして同じプラウダの同志として、と称して一緒に行動する機会が増えていった。
1番のきっかけは練習試合であろう。明らかに格下であるはずの知波単学園に完敗したのだ。包囲殲滅を旨とするプラウダ戦法は、ニーナ派、アリーナ派、どちらか片方が欠けていれば実行出来ないのだ。戦車の質では劣っていても、福田が指揮する整然とした集団戦法の前では数の暴力で押されていった。プラウダは皮肉にも、「団結無くして勝利無し」という基本原理を、最も見くびっていた敵によって叩き込まれたのだ。

やがて時が過ぎ、派閥抗争が名実共に終結したと同時にニーナ・アリーナは卒業した。彼女達にとっては素晴らしい学園生活だった。しかし、胸の中には僅かながらに後悔が残っていた。何故あの時、私達は1度、たった1度でも反目し合っていたのだろうか?私達は何か変えたのか?と。
お互い口に出さず、最後の下校をすべく校門を出る。
そこには見上げる程の銅像があった。
プラウダ内で語り継がれる伝説、「青銅の騎士」。ノンナに肩車され、校舎を指差すカチューシャ。
2人はその銅像に答えを見た。
2人には到底想像出来ないような苦難。成り上がり。そしてその先に彼女が見出した、真のリーダーたる境地。
銅像を見上げていたニーナ・アリーナの2人は、押しゆく下級生を振り払い、お互いに手を取りあった。
結局、私達はこうして仲良くしているのがいい。
自分達は何も変えることが出来なかった。しかし、これでいいのだ。
2人の今のような情愛を捨ててまで、学園を支配した卒業生。彼女がプラウダに来ることはしばらく無いであろう。しかし彼女の功績と名声は永遠に残る。
だからこそ、彼女は「великая Катюша」。
「偉大なるカチューシャ」なのだ。

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