オキナワンロックドリフターvol.14

念願の俊雄さんとの対面を果たしてひとしきり泣いた後はお待ちかねのオキナワンハードロックナイトである。
NEW紫はどんなものか?
期待に胸膨らませて私は午後六時にセブンスへ向かったが……。
まだリハーサル中とのこと。
しょんぼりしてまたパークアベニューをうろついて時間をつぶすことにした。
せっかくだからと思って、たかはしみきさんのコミックエッセイにも紹介された老舗のステーキレストラン、ニューヨークレストランで夕飯をとった。
ほんのり塩味がきいたマッシュルームスープとジューシーなニューヨークステーキでお腹と心を満たした。
さらに店のおばさんがデザートにとドラゴンフルーツをおまけしてくれてホクホクで店を出た。
またセブンスに着いたものの、やはり待たされて三十分後にようやく開場。
私は貧乏根性丸出しで最前列の席に座った。
昨晩のことがあるから羽目をはずさないようにして自制してミネラルウォーターのボトルをオーダーし、ちびちびとそれを飲んでいるとお客さんがじわじわときだした。
それからまた三十分。
ステージのセッティングが終わり、司会者が登場。今は亡きよしぼーさんこと我喜屋良光さんがオジイの格好をしてMCをされた。今となっては生で見た最初で最後のよしぼーさんのMCであった。
しかし……。

ウチナーグチ混じりの軽妙な語り口で場を盛り上げていたものの、ハードロックイベントという場には申し訳ないがちぐはぐな印象を与えるMCが残念な印象を与えた。

そうこうしていると、ウチナータイムか、地元の人たちが一気に来店された。その中にゲート通りのロックバーで去り際に「オキナワンハードロックナイトこないの?」と尋ねた常連客がいて、私の姿を認めるとおずおずと「きてくれたね。良かった」と呟いて逃げるように後ろの席に座られた。振り返ると嘲り気味に私のサイトの話をされた女性もいて、ゲストハウスの宿泊客だろうか、複数の人たちとテーブルを囲み、お弁当を広げていた。セブンスって持ち込みしていいのかなと思いながら一瞥していたら、こちらの心境を知るか知らずか女性は手を振られたので私も儀礼的に会釈を返した。
オキナワンハードロックナイトのトップバッターはMajesty。
リエさんという女性ボーカルの甘くもきりりとしたハイトーンが印象的なこのバンドは、当時は園田にあったライブハウスジグザグを拠点にしているとよしぼーさんのMCからわかった。
Led ZeppelinやHeartのカバーがメインのMajestyは、リエさんと他のメンバーのハーモニーワークスとツインギターの心地よいアンサンブルが印象的だった。
Majestyが演奏している間続々と地元のお客さんとオキナワンロッカーたちが店に入っていく。
かっちゃん、クリスさん、圭一さん、JETの皆さん……。その中に件のカナヲさんがいて、お互いに気まずい表情で会釈だけ交わした。
Majestyが終わるとかっちゃんバンドのライブが始ったのだが……。
サイケデリックな服装とひっつめ髪が印象的なケンさんというギタリストが奏でるインストゥメンタルばかりでかっちゃんは唄わない。
それどころか、かっちゃんは後ろの客席でボルテージを上げるべく飲んだくれている。
だ、大丈夫なのか?
あっけにとられつつかっちゃん以外のメンバーの演奏に聞き惚れた。

ケンさんの夏のスコールのように爽快なギターとゲンちゃんと呼ばれる恰幅のいい若いベーシストの渋いチョッパー弾きのベース、JJという、後の再結成紫のボーカルになるボーカリストと同じ愛称のアフリカ系アメリカ人のドラマーの豪奢な雰囲気をかもし出すドラムのアンサンブルは荘厳であった。
しかし……。
やっとこさ唄い出したかっちゃんがそれをものの見事に破壊してくれるのだ。
べろんべろんに酔っ払ったかっちゃんの下ネタ、暴露ネタのオンパレード。
唄ったと思えばあまりに下品すぎてここに書くのはためらわれるMCがすぐ入り、下品でなくてもそれいっちゃまずいでしょなオキナワンロックの裏話をもらし、ようやく唄ったホテルカリフォルニアは……。なんというのか、音痴とかそれ以前の問題なのだ。
リズム、音程、音階の全てが爆裂状態。良くも悪くもかっちゃんの世界観で満ちていた。
「ま、いつものことだから」という感じで平然と演奏するメンバーにはただ敬意を表したくなるばかり。

フランク・ザッパとキース・ムーンが合作した曲を聴いているようなごちゃごちゃ感、けれど一応はまとまった演奏が終了。しかし、聴いているこっちはカオス感にパニック寸前。
消耗した私はかき氷のシロップ色のバーテンダー、ジェイソンにラムコークを注文して、燃料を投下することにした。ヤケである。こうなったら楽しんでやるとばかりにレモンとライムの入ったおいしいそのラムコークを一気に飲み干した。
そしてSuper Guitarist Trioのセッションへ。
カッチャンバンドのケンさん、New紫からは圭一さん、そしてカナヲさんは当時三人のイニシャルから3Kと呼ばれ、ハードロックイベントでよくセッションをされていた。
三人のギター合奏が終わるとまずは圭一さんのギタープレイから。
8-ballメンバーを従えて絶妙な演奏で魅了していた。
圭一さんのテクニカルなプレイとギターソロに男性客が感嘆の声をあげていたが、個人的に驚いたのはレイさんのキーボード。やはり血筋であるのか海の匂いのする演奏を聴かせてくださった。
最近はボーカルに重きを置いているレイさんだが、あのキーボードの音色は遠い世界に心を運んでくれるような音色で、もう一度聴きたいと思うくらい忘れられないキーボードプレイだった。
圭一さんの高速ギターは時にはハイウェイを走りぬけるナナハン、時には荒野をかける豹といったさまざまな音を出している。スピーディーなだけではないのだなと失礼ながら新発見だった。
私はギターで表現される豊かな圭一さんの感性に舌を巻いた。
それを支えるのがクリスさんのベース。
いささかベースにしては音数が多い気はするものの圭一さんのよき相棒といった感じでリズムを刻み、そして独特の雰囲気を出していた。
レオンさんのドラムは前夜の8-ballライブでも思ったが予想よりもはるかにうまい。軽いように聞こえるが意外と芯がしっかりしている。
例えるならスパイスを散らしたアルデンテのパスタ。
いくらでも入りそうだ。

次はカッチャンバンドのケンさん。
この方のギターの音は不思議な空間へといざなってくれる。
そしてどこか白檀としとと降る雨の混ざった匂いがする趣きのギターなのである。五月雨色のギターと例えるべきか。

最後はカナヲさん。
昨晩での一件が尾を引いて、半ば斜に構えながら、複雑な気持ちでそのギタープレイを凝視したのだが、思った以上に聴かせるギターだった。
歯軋りしたいくらい悔しいのだがかっこよくも粋な音色を奏でていた。それは認めざるを得ない。
ギターは色気あるギターの音色なのである。
例えるなら妖艶な美女の嗚咽。
ゴージャスな女の吐息を思わせるジミーさんのギターの色香とはまた違った粘度のある色気なのである。
2003年当時、沖縄でもトップ10に入るギタリスト三者三様の音色をしっかりと堪能した。
その頃には私が座っていた最前列のテーブル席に相席を願い出た男性三人組と意気投合していた。

さらに三人組のリーダー格の男性が熊本に以前住んでいたことを知り、さらに話が弾み、私は彼らに勧められた泡盛で乾杯し、彼らにご馳走になったチキンナゲットやピザを肴に、三人のギタリストの鮮やかな音色の余韻を酒とともにゆっくりと飲み干した。
そして次は個人的お待ちかねのJET。
今回は当時まだ音源リリースされていなかった"Rock till the Morning Sun"(2005年、ジミーさん亡き後、二代目ギタリストのあっぴんさんが加入し、リリースされた同名フルアルバムにて収録された)以外は全てカバー曲であったが演奏する曲全てに七十年代独特の絢爛さ、いかがわしさ、儚さ、そして温かさが溢れていた。
セブンスで大変な目にあっておびえながらJETに逃げて震えながら聞いたその音にまた癒された。
三人の紡ぎ出す音はその人柄を反映してやさしくも落ち着かせるものだった。

特に、ジミーさん独自のギターソロが織り込まれた“I shot the sheriff”は私を体感したいと切望したAサイン時代のコザへと誘ってくれるそんな演奏だった。
"Rock Till the Morning Sun"もターキーさんの朴訥な歌声とやや抑えぎみドラムとギターがの哀調漂うハードロックで心に染み渡るものであった。

あまりに食い入るように見ていたせいなのか、Aサインのワッペンが縫い込まれたGジャンを着た、ばんばひろふみ氏をロックミュージシャンにしたような風体の男性に声を掛けられた。“JET”のマネージャーをしているというこのハブさんという男性は、名刺を渡しながら「“JET”好きなの?凄く集中していて聴いてたよね」とバシバシと私の肩を叩かれた。

私は名刺をしまうとハブさんを通して素敵な演奏をありがとうと“JET”のメンバーに伝えた。バックステージにてハブさんから聞いたのか、後でジミーさんからすれ違いさまにウィンクされ、私は顔を赤くした。
そして、トリのNEW紫である。
しかし、NEW紫の演奏まで時間がかかるとのこと。
相席になった男性三人とゆんたくタイムを楽しむことにした。その際にしゃかりという音楽ユニットをすすめられ、あまりの三人のしゃかり愛に満ちたプレゼンテーションから、聴きたくなり、私は三人組に音源を買って聴きますねと約束した。
ゆんたくで盛り上がっていると……。ステージ脇に見知ったカーリーヘアに大きな体の男性が。
チビさんだ。
4ヶ月ぶりに再会したそのうれしさに私はチビさんに届けと大きく手を振った。
チビさんは私に気づいてふかふかの笑顔を返してくださり、私の頬は緩んだ。
チビさんのマネージャーさんとも再会できた。

「ミキちゃーん。久しぶりだねー」
彼女のおっとりした声に懐かしさとうれしさを感じて思い切りマネージャーさんにハグした。
しかし、ジョージさんはどこ?ジョージさんに会いたいんですけど!
マネージャーさん曰く、ジョージさんは屋上で食事しているとのこと。
私はふらふらと屋上に駆け上がった。
屋上にはジョージさんがハンバーガーを黙々と召し上がっておられた。
今思うと多少私の中でかなり萌えフィルターも入っていたと思うがそれを差し引いても、ハンバーガーを齧るジョージさんの優雅な雰囲気に危うく気絶しかけた。

憧れと畏怖でどうにかなりそうな気持ちを抑えて写真を一枚とり、握手をして頂いた。
ジョージさんの手は長く細くしなやかでノーブルな印象を与えた。
そしてNEW紫のマネージャーさんであるユミコさんに私は一礼し、ジョージさんに話をしようとするが、時間が押し迫っているとのこと。
私たちは慌てて会場に再び入った。
そうこうしているうちにNEW紫のライブが始まる。
私は相席した三人組と喜びを分かち合い、踊り、共にはしゃいだ。
ちなみにセットリストはこちら。

1.Highway Star

2.Nobody's Home

3.Do What you Want

4.Gypsy's Kiss

5.Perfect Strangers

6.Keep on Rock'in

7. Knock in at your back door

8.Star Ship Rock'n Roller

このセットリストについて脳裏に過った言葉は「そりゃねえだろ、勘弁してくれよ」だった。

期待した分の反動から落胆が大きかったからである。
しかも個人的意見で恐縮だが、"Avandon"、"The battle rages on"と並んで再結成のパープルのアルバムの中では駄作と思っている"Perfect Strangers"の曲が大半だったのもがっかり感マシマシだった。

1のオープニングはジョージさんが奏でるトッカータとフーガ。ジョージさんのハモンドの音色を初めて生で聞いたのだが本当に音の海が広がっていくのを感じた。
光の加減によって藍色、瑠璃色、紫色になっていく音の海が。
そしてそれはじわじわと会場に満ちていく。私はその音の海におぼれそうになった。
ジョージさんのハモンドに呼応するようにレオンさんとレイさんのリズム隊の音が激しくなる。
そしてハイウェイスターのイントロ。
チビさんのボーカルはとにかくど迫力で全盛期ギランも真っ青のシャウトは圧巻だった。
うれしさに私は立ち上がって踊ってしまった。
振り返ると他のオーディエンスもカチャーシーを踊り出していた。
それからぶっ続けで2へ。
ここで少し気になったのが、レイさんのベースだった。その日のレイさんのベースはいささか危うげで迷いがある感じがしたのだ。
レオンさんのドラムが軽快な中にも芯のしっかりしたドラミングと自分らしさをつかみかけている感じになっている分、それがやたら目立ち、残念な印象を与えた。
しかし、NEW紫はまだ未知数。
泡盛だって5年や10年経たなければ真の旨みがわからない。
次回観に行くときはレイさんのベースも自分の味を見出せるのかもしれないと楽観的に考えた。
そしてチビさんのはつらつとした声による煽りとシャウトともに3が始まるはずなのだが……。


バフン!!!

奇っ怪な音とともになんとハモンドが故障。
慌てて修理に入り、チビさんが苦笑いしつつMC。
その機転にチビさんとジョージさんの仲のよさがわかり、微笑ましくなった。
反面、かつてのオリジナルメンバーとの人間関係の複雑さを思い、少し寂しい気持ちになったのだが。
チビさんはハモンドの修理が終わるまでメンバー紹介に入られた。
その際になんと、チビさんはジョージさんの紹介を無意識なのかわざとなのかスキップ。
ジョージさんはようやく修理が完了したハモンドで「僕を忘れるな!」とばかりに怒りを表現。
そのやり取りにお客さんは爆笑し、私も腹を抱えて笑った。
そしてやっと演奏は再開された。
チビさんの唄う"Do What You Want"は例えるならばロックミュージシャンの凱歌と比喩すべきか。
高らかに唄い、私たちを鼓舞するようなその歌声はさながらロックの王様のスピーチのようだった。
4ではチビさんはその高らかなテノールに色香のエッセンスを加えて歌い上げられていた。圭一さんのギターもそれに応え、オーディエンスも魔法にかけられたかのように踊り、指笛が飛び交った。
しかし、5以降から演奏がやや薄味になったのが残念である。
リズム隊は調子を取り戻し、ジョージさんのハモンド、圭一さんのギターも申し分ないのだがどこか薄味かつ印象の薄い感じが否めない演奏だった。
6はオリジナル曲らしいのだが可もなく不可もなくでいささか未消化な印象を与えるものだった。
7は失礼ながら胃もたれするようなプレイというのが個人的印象であった。原曲が苦手というのもあるのだが少し疲れを覚えた。
しかし、チビさんはこの曲をお気に入りなようで、元気いっぱい気持ちよさそうに歌われ、楽しそうだなと思う反面、全体的には油切れの悪い焼肉定食を詰め込まれたようなどっかり感に苛まれた。
8は……。チビさんの歌詞ど忘れのせいか、いささかチビさんのボーカルに覇気がなくなってしまった。
その分の圭一さんのスピーディーなギターで援護され、バランスが保たれた感があった。
下地さん&清正さんコンビのツインギターが織り成す音色が、例えるなら六色の軌跡を描いて宇宙を飛び去る帆船といった"StarShip..."ならば、圭一さんのギターを主力エンジンとした"StarShip..."はキャプテン・チビと四人のクルーが乗り、宇宙を駆ける最新型高速宇宙船といった印象か。
そして演奏は終了。
アンコールで"Double Dealing Woman"、"Dooms Day "をやるのかしらと思ったらそれもなし。
ねえ?"My Love"は?、"海人"は? "Fly Away"は?


これだけなのかよ!物足りないわ!と、身勝手な意見かもしれないが暴れたくなるような未消化感だった。
不満で口をへの字にして帰り支度をはじめようとするとチビさんから、「え!帰るの?もう少しいてよ。セッションタイムに入るから」と直々に声をかけられたて破顔一笑。不満もチャラになったのだから当時の私はちょろいなと苦笑いしてしまう。
セッションはその日出演したオキナワンロッカーほぼ全員によるセッション。
さらに、観客として来られていた当時沖縄市市会議員で現・沖縄県知事の玉城デニーさん、3Kのギターセッションにボーカルとして特別参加され、「胸いっぱいの愛を」をパワフルに熱唱された、後に『琉神マブヤー』で龍神ガナシーのキャラクターソングを担当される城間健市さんも飛び入り参加。
若手大御所入り乱れてのセッションにオキナワンロックの懐の広さを見た。
Kansasの「伝承」、Led Zeppelinの"Rock and Roll"、そしてDeep purpleの"Smoke on the Water"の大合唱。
途中でチビさんはドラムを披露。
そのメリハリ利いたドラムを聞いて思ったことは、チビさんはやはりシンガーとしてよりもドラマーとしての方が天性の才能があるなということ。楽しげに歌われていたチビさんには申し訳ないけれどもそう思った。
実際、聴いて血中温度が急上昇した。

健市さんのパンチの効いた声とマスターのギターの絶妙なバランスもいい。
圭一さんのギターも先輩諸氏においしいところを譲るもしっかり主張していい味を出しておられた。

デニーさんの歌声は、ぶっちゃけた話、技術的にはうーんいまいちではあったが整った顔と比例した甘い歌声に女性客から黄色い声があがり、ラジオDJとして人気の高さと魅力がよくわかった。
セッションは佳境に入り、オーディエンスの歓声も一段と高くなった。
しかし、その絢爛豪華なセッションに感激しつつもどこか寂しい気持ちになるのは何故だろう。
発作的に果てしない疎外感が胸に広がった。
この短い沖縄旅行の中でひとかけらではあるもののオキナワロックの光と闇に触れたからかもしれない。
光と闇、正と負、清と濁のチャンプルー。
それらがオキナワンロックを輝かせるものにはなっているとはいえ、あまりにも寂しい。どこかやるせない気持ちになった夜だった。

そして、うっすらながらも見えない隔たりを感じた夜でもあった。沖縄と本土の壁というのか、紫の再結成ドキュメントを見た時も思ったのだが見えないものの確かな壁を感じ、言い様のない虚しさを覚え、居心地の悪さを感じた夜でもあった。
セッションが終わり、ジョージさんに近づくと一礼してサインをお願いした。

 ジョージさんは快諾されたものの、アルバムジャケットの裏に書かれた俊雄さんのサインを一瞥すると、少しの間を置き、「あ、もらったんだ……」と呟かれた。

  その声のトーンの低さとギャギャギャと音がするくらい強い筆圧で書かれたサインに、ジョージさんの心境が嫌でもわかり、私は気まずさから小さくなるしかなかった。

そそくさとジョージさんとユミコさんに会釈して去りると、ミュージシャンたちと談笑するカナヲさんに近づきいて複雑な思いで微笑み、負けを認めて演奏をありのままに誉めた。するとカナヲさんは「泣きのギターで笑ったでしょ」と私を小突くまねをしてくださった。そして写真を撮ることを承諾してくださった。その時の俺様感な素振りに少し笑ってしまった。
前夜の一件はやはり身震いするくらい腹が立つものの、やんちゃなガキ大将がそのまま大人になったようなカナヲさんの素振りがおかしくて少しだけ疎外感が緩和された。
カナヲさんに一礼し、振り返ると笑顔のチビさんとマネージャーさんがおられたのだが、次のチビさんの発言に戸惑った。
「ミキちゃん、コザは危ないからね。送っていくよ」

……え?

そのチビさんの提案に仰天した。
あれよあれよと言う間に、チビさんに車で送っていただくということになった。

しかし、セブンスヘブンから京都観光ホテルは歩いて数分だから車を使わなくてもと思ったものの、当時はあり得ないシチュエーションからくるうれしさにすっかり舞い上がっていた。
チビさんの当時の愛車は黒塗りの明らかに高価なキャデラック。驚愕しつつ恐る恐るまだカバーを外されていない真新しいシートに座って私はチビさんとマネージャーさんとお話した。しかし、車はセブンスヘブンから3分もかからない京都観光ホテルと違う方向に向かい、うろたえていたらマネージャーさんの住むアパートの前に車は停められた。翌日のスケジュールを確認しながらチビさんとマネージャーさんは打ち合わせをされ、マネージャーさんは私に手を振り、アパートへ帰られた。

「せっかくだしもう少しゆっくり話そうか」

チビさんはそうおっしゃい、ぐるーりとこどもの国から泡瀬近くへ遠回りして車を走らせ、京都観光ホテルの駐車場に到着。しかし、駐車場に車を停めたまま長話していたせいか、守衛さんが違法駐車かと思われたのか、険しい顔で近づいてこられたので、まずいなと私はヒヤヒヤしながらチビさんと守衛さんを交互に見た。

しかし、チビさんは守衛さんに「遠いとこから来た友達と話してんの。終わったら移動するから」と守衛さんをなだめすかして遠ざけ、こちらの不安と対照的に少年のような瞳で私に夢を語ってくださった。
チビさんは生き生きとこれからの展望として九州南部のほうでライブしたい、既にチビさんのルーツである徳之島でライブのブッキングが決まっていることを語られた。
さらに車内のカーステレオから10月の終わりにシングルリリースされるという琉球マジックの新曲も特別に聴かせてくださった。
5/15の小倉にて行われたパーティーでも披露された琉球三国志と今帰仁城である。この曲が使われるミュージカルが宜野湾市のコンベンションセンターで上演されるとチビさんは意気揚々と語られた。
私は、そんなチビさんに相槌を打ち、チビさんに歌おうかと促され、カラオケバージョンに切り替わった今帰仁城を一緒に唄った。
車内に私のつたない歌声とチビさんの伸びやかな声が響く。
チビさんと再会を約束して笑顔と握手を交わし、私はホテルの部屋へつくや否や、昨晩の反動で疲れきってしまったせいか、どろりとした眠気に襲われ、シャワーも浴びずにこんこんと深い眠りについた。
とにかく長くも濃密な一日だった。
昨晩とは逆に帰りたくないと思った。
また沖縄に「早く帰りたい」とすら思った。

そんな濃密な夜だった。


(オキナワンロックドリフターvol.15へ続く……)


文責・コサイミキ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?