オキナワンロックドリフターvol.75

夜遊びの第2部はコザはゲート通りへ。
まだ0時過ぎだというのに人通りは少なく、アメリカ兵の姿も以前に比べて減っていた。
「街に活気がなくなってる」
ぽつんとぼやいた言葉にさっちゃんも頷いていた。
まずはJETへ……と思ったのだが、扉越しに聞こえる音に違和感を覚えた。
音に厚みが感じられないのだ。ターキーさん、コーチャン、ジミーさんないしあっぴんさんの3ピースで編成されていた頃は人数の少なさをそれぞれの音が織り成すアンサンブルで深さと厚みを醸し出していた。しかし、扉越しに聴こえるエディさんとミミさんが入ってからのJETはそれが残念ながら感じられない音だった。
私は扉から遠ざかり、「入るの?」と尋ねるさっちゃんに首を振った。
「“Jack Nastys”寄ろうか?」
気を取り直しての私の提案に、さっちゃんはためらいながらも意を決したように「そうだね。久しぶりにかっちゃんに会おうかな」と頷いた。
さっちゃんは“Jack Nastys”の階段を降り、そっと客入りを調べた。が、上がってきたさっちゃんの顔は浮かなかった。
「ダメ。お客さん誰もいないよ」
さっちゃんは首を横に振り、肩をすくめた。
ふと、3年前にゲート通りのバーで会ったかっちゃんの荒れ様を思い出し、客のいないことで荒れているかっちゃんを見るのはつらいし、リスクも高そうなので来店しないほうがいいかもなと思い、私は「やめよっか。カカフェでお茶しようか」とさっちゃんに提案した。
程よい音量でトッド・ラングレンの“A dream goes on forever”が流れるカカフェは暖かく、居心地が良かった。残念ながらカオリさんは不在だったものの、かわいらしい店員さんにレクチャーされつつ飲むベトナムコーヒーは不思議かつ絶妙な甘苦さでコーヒーが苦手な私もまた飲みたくなるコーヒーだった。
コーヒーで乾杯しながらさっちゃんと私はとりとめのない話をした。さっちゃんは論文の進み具合を、私は仕事のことを。さっちゃんから論文が出来上がったら読ませてくれると約束され、私たちは笑い合いながら指切りした。
コーヒーで温まり、〆は『Key Stone』へ。レイニーさんは丸眼鏡の奥の瞳を細めて私たちを歓待してくださったものの、最近のさびれゆくコザの現状に大きくため息をつかれていた。店内を見回すと以前はアメリカ兵とそのガールフレンドたちでごった返ししていたのに、今は客も少なく、カラオケもそんなに待たずに唄えるくらいだ。来る度に廃れていくコザの街に不安だけが渦巻いた。
まずはさっちゃんのターン。ExtremeやNickelbackを楽しそうに唄う彼女を見ていたら曲を一ミリも知らない私も楽しくなってきて、ゆらゆら揺れながら小さく手拍子した。
さっちゃんが何曲か歌い、次は私のターン。何故か無意識に選んだのは5th Dimensionの“Aquarius”とSimon &Garfunkelの“America”だった。新しいことをする自分を鼓舞する気持ちと一度は捨てたアメリカ留学への未練が新しいことをきっかけに再燃している現れなのかな?と唄いながらも分析していた。
唄い終わるとさっちゃんに首をかしげられた。
「あれ?まいきー唄わないの?」
ん?と目を丸くしていると「“Stay with me”唄わないの?」と返された。
そうだ。確かに。そういえばさっちゃんと出会ったきっかけもこの店で唄ったStay with meだったなと思いながらレイニーさんにリクエストカードと100円を支払った。
その間、アメリカ兵の唄うChumbawambaの“Tubthumping”を聴きながら、「アメリカ兵ってこの曲好きだよね」とさっちゃんと顔を見合わせて笑った。5曲後に私の番になった。
“Stay with me”を歌う時は必ず祈るように唄ってしまう。何事もありませんように、そして、城間兄弟がステージに再び立てますようにと祈りながら。
唄い終わるとさっちゃん、レイニーさん、そしてアメリカ兵の何人かに拍手され、なんだか気恥ずかしかった。
レイニーさんにお礼を言い、私たちは“Key Stone”を後にした。深夜のゲート通りは閑散としていて、沖縄独特の凍みるような海風と相まって寒さを助長させた。
さっちゃんとお別れだ。駐車場まで一緒に歩き、日曜日にオスカーの店に行く約束をして別れた。
遠ざかるさっちゃんの車に手を振り、もう少しだけ街を歩くことにした。時計を見たら午前2時。すっかり人通りが少なくなってきたゲート通りや中の町をうろつき、駐車場になってしまったゴヤマート跡地やそびえ立つミュージックタウンを眺めていたらなんだかため息をつきたくなった。
コザの街のあまりいいとは言えない変わり様に不安ややりきれなさがインクの染みのように広がっていくのを感じ、それを振り払うように早足で京都観光ホテルへ戻り、休むことにした。
静まり返ったホテルはかび臭さとわびしさがさらに強調され、「もしかしたら次に来る時はここはもうないかもしれない」とうっすら思いながら暖房をつけてベッドに突っ伏した。

(オキナワンロックドリフターvol.76へ続く……)
(文責・コサイミキ)

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