猫の腎不全2_写真1_ベッドの上_

腎不全の猫と長く生きるために(2)

連載2回目は、皮下補液や内服などの具体的な処置について、動画も使ってご説明する予定にしていました。ところが、何よりもまず、突如訪れた大事件をお知らせしなければなりません。ぐう吉が、失明してしまったのです。
以下、それが判明した時の状況からお話しします。

ぐう吉、突然の失明

人間も猫も、腎機能の評価は血液検査。必ず見るのがクレアチニンと尿素窒素の値です。ぐう吉の場合、間隔は、3ヶ月に1回。前回が昨年10月2日だったので、今回は年明け1月12日に夫婦で連れて行きました。

ただ、前回検査のあと、ぐう吉は棚から落ち、一時階段を降りるのがつらそうだったのです。心配だったので、10月19日にも臨時で受診。レントゲンの結果、加齢による関節の変形が何カ所かにみつかりました。
特に治療法はないと言われ、元々飲んでいたアンチノールというサプリを1錠から2錠に増量。また、少しでも階段を歩くのがつらくないよう、階段の端に寄せて、滑り止めマットも引いたのです。これで歩き方は、少し楽そうに見えました。

そして、この日の定期受診は、クレアチニンは3.4.尿素窒素は30。前回からほとんど変わらず、体重も4.8㎏程度を維持。経過良好を確認して終わる予定でした。
ただ、いつになく大暴れするぐう吉は、何かに取り憑かれたよう。獣医さんも、「いつもと違うね」と驚いていました。

これはやっぱり聞かねばなるまい。私は意を決して獣医さんに聞きました。
実は、診察の前日、ぐう吉が階段を降りてくる様子を見て、私はふとあることが思い浮かんだのです。………ひょっとしたら目が悪いのではないか。よく見ると、階段を上り下りする時、必ず壁か手すりに沿っています。そう言えば、ものにぶつかりながら歩いているような……..。
「先生、ぐう吉の歩き方が気になって。目が悪いのではないでしょうか」
私の言葉を聞いて、目を診察した先生は、驚いて言いました。「ぐうちゃん、網膜がぼこぼこになっていますね。剥離も起きている。かなり変性しているから、ほとんど見えていないと思いますよ」。

▼階段は上るより降りる方が慎重で、一段一段確かめながら降りています。

慢性腎不全からの失明は、猫にも人にもありえる

網膜というのは、受けた光を信号に替えて脳へと伝達する、視細胞がずらりと並んだ膜で、カメラのフィルムにたとえられます。この網膜を栄養する血管はとても細く、糖尿病や高血圧など、血管を傷める病気では、真っ先に血流が悪くなり、網膜が変性してしまうのです。

さらに単純化すれば、画像を映すスクリーンがぼこぼこになって、何が映っているかわからなくなった。そんな感じだと思います。
「見えていない」と言われればすべて合点がいく。そんな気持ちでした。

先生の説明によれば、高齢の猫、特に慢性腎不全の猫にはしばしばあることだそうです。これには本当に驚きました。
私は、目が悪くなると言えば、犬の白内障しか思い浮かばなかったのです。犬と違って猫は野生が強いから、人間のようにあちこちが少しずつ衰えるような老い方はしない。そんな風に思い込んでいた自分の無知を恥じました。

私の人畜両用の知識によれば、慢性腎不全では高血圧になりやすく、これが続くと、網膜が変性する、高血圧性網膜症を起こす可能性があります。ただ、ぐう吉の場合、すでに、腎臓を保護する働きのあるタツジピンという降圧剤を飲んでいます。
ただ、本当に血圧が高かったなら、他に降圧剤を出してコントロールするのが望ましかったよう。とは言え、タツジピン導入の可否を決める際は、血圧を測りましたが、暴れて測定不能だった経過もあります。

私たち夫婦にとって、「暴れてできない治療は、無理な治療」。血圧を測れなくて、降圧剤が追加できなかったのなら、これもぐう吉の運命と諦めることにしました。

無いものねだりより、「これからの生活」を大事に

治療ですが、残念ながら、できることはありません。眼科の専門医というのもいるようですが、今の腎機能で麻酔をかけるのは無理と考え、調べていません。
若干悔やまれるのは、昨年後半、目の色の左右差に気づいていたこと。左の目が光りの加減でベージュ色に濁って見えたのですが、「元からの色の違いかな」くらいに思い、重視しなかったのです。
写真を撮る時も、琥珀色の両目がきれいに映る角度で撮っていたので、左右差のある写真は手元に残っていません。

今は左右とも同じ色になっているので、恐らく網膜変性による色の変化でしょう。片方の時に気づいていれば、何かできたかも。………と書いては見るものの、やはり何もできなかった気もします。

▲ぱっちりお目々のぐう吉。見えていないようには見えないのですが….。


このあたりは、私の医療者的な割り切りを自覚するのですが、理系のツレも同じ感覚。理屈がわかれば、納得し、無い物ねだりはしないのです。
何より、大事なのはこれからの生活。その考えは夫婦で一致しました。

先生によれば、「猫は元々目がいい動物ではないから、視覚だけに頼って生活していません。聴覚、触覚なんかを使って、けっこう普通に暮らしている子も多いですよ」。
そう言われてみれば、とにもかくにも階段は上り下りできるわけで、トイレや食事、水などの場所も、ゆっくりたどり着いています。
「人間が見えなくなったのと同じように考えないでください」と言った先生の言葉に、かなり励まされました。

猫の見え方をいろいろ調べてみると、鮮明に物が見える距離は、人間が30~60メートルなのに対し、猫は6メートルで人間の10分の1程度だそうです。また、色は青と緑色の色彩スペクトルがなく、全体がアースカラーに見えているようです。
猫の世界がどのように見えているかは、以下の記事で詳しく見ることができます。
http://estorypost.com/picture/how-cats-see-the-world/

今この原稿を書いている間、ぐう吉は私の仕事スペースの床暖房に貼り付いて寝ています。2階のベッドにいたところ、どうもしたに私がいるようだと思い、降りてきたようです。ゆっくりゆっくり階段を降りて、壁や棚など、本人がわかる目印を辿りながら、私の足下までたどり着きます。
階段については、歩きやすいようにと貼った滑り止めが、ガイドになっているようです。目が見えていた時の記憶も、たどっているように見えます。とにかくものの位置を動かさない。これを心がけています。

失明がわかって1ヶ月が経ち、ニンゲン2名、やっと現状になじんできました。初めは、名前を呼ぶと、こちらを向かずに耳を澄ます動作をするのがなんとも悲しかったのですが。今では駆け寄って撫でるようにしています。
何より、ぐう吉は、嘆く様子もなく、日々淡々と暮らしています。
そして、しつこくされるのが何より嫌いなぐう吉は、相変わらず、かなり素っ気ないのでした。

▲人畜両用ベッド(笑)。時々ニンゲンが場所をとられます。


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