猫の腎不全5_写真4_パソコン脇で寝るぐう吉_

腎不全の猫と長く生きるために(5)


▲夜は必ずニンゲンの枕で寝ます。
目が見えなくなって、前よりも人にくっつくことが増えたように思います。

およそ1ヶ月に1回掲載してきたこの連載も、今回を含め、あと2回でとりあえず一区切りです。今回は、慢性腎不全の治療について、今後の展望も含めてお話します。

猫の慢性腎不全:最新情報

最近、猫に関する書籍をたくさん目にするようになりました。長寿猫の健康や暮らしに特化した本や、見送った後の悲しみ(いわゆる「ペットロス」)に備える本まで。それぞれに専門家が執筆していて、頼りになる情報が増え、心強く感じます。
中でも私が気に入ったのは、最新情報が詳しく出ていた「NyAERA (ニャエラ) ネコの病気と老い (AERA増刊)」(写真1)です。以下、猫の慢性腎不全に関する最新情報は、この本に依拠して説明して参ります。
その際、一部、ウェブでも読める記事があるので、該当するところで適宜ご紹介するつもりです。

まず、最新治療の柱は3つあります。
1.腎不全を早期発見する指標
2.早期から始める食事療法
3.慢性腎不全そのものを治す治療薬

以下、この3つの柱をふまえてお話しいたします。

▲「NyAERA (ニャエラ) ネコの病気と老い (AERA増刊)」。
参考になる本でした。(写真1)

猫の腎不全のステージング

まず、慢性腎不全はstage1~4まで4つの段階に分かれています。以下の表では上に血中クレアチニン、下に尿中タンパクの量を示しています(図1)。(たいていの場合、クレアチニンの値を見ながら治療を進めているため、ここではクレアチニンの値を主に説明していきます。)
クレアチニンの正常値は0.5~2.0mg/dl。Stage1はもちろん、stage2でも、まだクレアチニンが正常な猫がいるため、クレアチニンの値のみでは腎不全の判定ができないことになります。
実際、ぐう吉の場合も、2007年9月28日の受診で慢性腎不全とわかった時の値はクレアチニンが2.7 mg/dl。Stage2になっていました。その後すぐに3.0 mg/dlを越えることが増え、現在は3.5~3.8 mg/dl。stage3が長く続いています。

▲国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が作成した
猫の慢性腎臓病の病期分類。
上の数値は血中クレアチニン。下の数値は尿中のタンパク質。(図1)

参考:
犬と猫の慢性腎臓病の治療に関するIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)からの提言〈 2016年度版 〉
(http://javnu.jp/guideline/iris_2016/cat_ckd.html)


早期発見を可能にしたSDMAと、結果を生かす治療

これまでのクレアチニンを中心とした検査では早期発見が難しかった猫の慢性腎不全に対し、早期に発見できるようにしたのがSDMAという血液検査です。クレアチニンが腎機能の75%が失われるまで異常値が出なかったのに対し、SDMAは40%程度の機能が失われた段階で診断がつくそうです。
現時点では、まだ慢性腎不全そのものを治す治療はありません。しかし、早期に発見して悪化を食い止める治療ができれば、そこから快適に生きられる期間は当然長くなります。
悪化を食い止める治療があって初めて、早期発見の甲斐があるとも言えるのです。

では、早期から始める治療とはどのようなものかと言えば、皮下補液と治療食の2つです。
現在、私が行っている皮下補液については、国際獣医腎臓病研究グループの推奨する治療として、stage1から紹介されています。
(参考:http://javnu.jp/guideline/iris_2016/cat_stage_01.html)
また、治療食については、基本はタンパク制限。早期にこれを行うのは筋肉量の低下などのデメリットもありましたが、成分に配慮し、早期から導入できる食事も開発されました。

ただ、かねてから書いていることですが、皮下補液については、嫌がる猫の方が多く、現実的に行えない場合も多いものです。また、皮下補液も治療食も、経済的負担がかなりありますから、必要と思ってもできない場合もあるでしょう。
これをしたからと言って、必ずよくなるとは限りません。行わない選択肢も当然あります。
やらないことに罪悪感を持つ必要がないことを、重ねて強調したいと思います。

参考:
猫の「初期腎不全」療養食はあげてもいい?
(https://news.nicovideo.jp/watch/nw5014040)


夢の新薬・AIM製剤

最後に…….。これまで悪化を防ぐことしかできなかった慢性腎不全も、遠くない将来、治す道が開かれる可能性が出てきました。
そのきっかけは、血液中にあるAIMというタンパク質の発見。この物質が、人間や猫の腎不全改善に大きな役割を果たしていることがわかったのです。

猫の中には、先天的に活性化しないAIMしか保持していない猫がいて、そうした猫が腎不全になりやすいと考えられます。腎不全になった猫に人為的に大量生産したAIMを投与したところ、腎不全の治療効果が上がったため、夢の新薬として脚光を浴びました。
すでに治験も行われ、効果も上がっているとの声も聞かれています。今後の臨床試験には、私も大いに注目して参ります。

…..と、こうして原稿を書いている横に、ぐう吉が横たわっています(写真2)。目が見えないので、自分であがれなくなったパソコンデスク。今は私の足下まで来て、「載せて」と要求する術を覚えました。
元気な時と変わらない光景ですが、やはり18年生きた老猫。新薬の話を書きながら、もし新薬が発売されても、ぐう吉に使うことはないだろうと思っています。
なぜか?
それは、腎臓が仮に良くなっても、さまざまなところの老いは、決して治るわけではないからです。人間の医療の世界にいて、お命からは思い知っています。治療法がいくら良くなっても、老いには勝てない。けれども私たちは、必死に治療する中で、そのことを受け入れるのが、とても大変になっています。
動物医療の進歩は素晴らしいこと。けれども、こうした人間の医療と同じ轍を踏んではいけない。そんな気持ちもあるのです。
目の見えないぐう吉は昔よりさらに人なつこく、本当にかわいい。今のぐう吉が、一番かわいいと思います。
だから、私たちは今のままで。そして、ぐう吉より若い猫たちのために、新薬が早くできて欲しいと願っています。

参考:
「見ているのがつらい」猫の腎臓病 ❝ノーベル級❞ 新剤に見る治療の可能性
(https://dot.asahi.com/aera/2019041200073.html)

▲パソコン横で寝るぐう吉(写真2


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