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腎不全の猫と長く生きるために(4)


今回は私が家で行っている皮下補液の実際について、詳しくお話します。

点滴方式+加圧バッグ

私がぐう吉の在宅皮下補液を始めたのは2009年の8月からでした。皮下補液は、静脈に針を刺す静脈注射とは違い、皮下に刺すので、慣れれば誰にでもできます。
皮下補液にはいくつかの方法があり、私が使っているのは、ソルラクトという水分補給を目的にした薬液500ccに、輸液チューブと翼状針(21G)を繋ぎ(写真1)、点滴をする方法です。これは獣医さんによっておすすめの方法が違うようで、注射器を使って注入する方法もあります。

▲皮下補液一式。これらを接続して使います(写真1)

▲補液用の加圧バッグ。基本はニンゲン用です(写真2)

点滴は注射器に比べて注入に時間がかかる弱点がありますが、うちでは加圧バッグを使うことで2~3分で終了しています(写真2)

使い方は簡単で、まず、薬液のボトルを加圧バッグに入れます。そして、送気球をシュパシュパ押してバッグの外側に空気を送ると、バッグが輸液ボトルを締め付け、薬液の注入がコントロールできます。

皮下補液は、痛がるようなら、ゆっくり入れるのが無難。ただし、薬効の点からは、注入速度が早くても大きな問題はありません。なぜなら皮下補液は、直接血管に入れる静脈注射と違い、皮下に薬液がたまってから身体に吸収されますから。どんなに早く入れても、ゆっくりしか効かないのです

ぐう吉は、処置をおとなしく受けてくれますが、やはり時間は短いほど、機嫌良く終わります。加圧バッグを使っての点滴方式は、私にはとてもやりやすい方法です。
ちなみに、加圧バッグは、ネットで簡単に購入可能。「点滴 加圧バッグ」で検索すると、数千円の商品がたくさん出てきます。

補液の量はバネばかりで量る

今わが家の階段踊り場にはパイプ型のワードローブが置かれ、ここが皮下補液の処置を行う定位置になっています(写真3)。右側にぶら下がっているのが皮下補液のセットと加圧バッグ。加圧バッグは使う時に装着します。

▲皮下補液の一式は階段踊り場のワードローブにつるしています(写真3)


そして、その左にあるのがバネばかり。1回の量はこのバネばかりで量っています。
現在皮下補液は毎日行い、1本500ccのボトルを4日で使い切っています。1日に入れる量は125cc。ボトルには50ccごとに目盛りが振ってありますが、容量が減るとボトルがへこむため、残量が見にくいのです。

そのため私は、輸液量の測定には、10g単位で測れるデジタル式のバネばかりを使用しています。使い方は簡単で、皮下補液開始直前に目盛りをゼロに合わせ、マイナス120gになったところで終了。これでだいたい125cc程度入り、500ccのボトルをだいたい4等分して使い切ることができるのです。

「バネばかり」でネット検索すると、「デジタル吊りはかり」「デジタル吊り下げ秤」などいろいろな製品が出てきます。値段も1000円から数千円まであり、以前よりずいぶん安くなった印象です。
バネばかりは、落ちないように、カラビナでパイプに吊り下げ、電池交換を怠らないよう、マスキングテープで交換した日を貼っています(写真4)

▲バネばかりの裏面に電池交換した日を
マスキングテープに書いて、貼っています(写真4)

皮下補液の処置の準備~実際の処置まで


▲皮下補液をする時は、このトレイを使います(写真5)。


処置をするときには、トレイや小皿にアルコール綿(消毒用)、クリップ(翼状針の翼の部分を、毛をはさんで留める)、薬(サプリと降圧剤)を載せて、処置する場所に準備します(写真5)

余談ですが、このトレイは、先代の猫が晩年使っていた缶詰を移すタッパの蓋。見送ったあとも捨てがたく、ずっととって置いたのが、今役立っています。

ぐう吉を連れてきたら、リラックスできる格好で座らせ、次に皮下の刺しやすい所を引っ張りながら探し、刺す場所を決めます。骨の上は皮膚が張っているのでやりにくく、腰や腹など、皮膚がたぷたぷしていて、引っ張ると良く伸びる場所が、刺しやすいでしょう。私はよく横腹に刺しています(写真6)

▲皮膚をつまむとうにっと伸びる。伸びた部分が皮下組織です(写真6)

同じ場所に刺すと針穴が大きくなり、注入後の液漏れが多くなります。また、穴が大きいほど感染しやすくもなりますから、なるべく同じ場所に刺さないよう、注意しています
では、実際に皮下補液を行っている動画をご覧ください。

▲針の刺し方をごらんください

継続の条件

在宅皮下注射は、脱水を防ぎ、慢性腎不全の経過を緩やかにするよい治療法だと言えるでしょう。しかし、これを続けられるかどうかは、2つの大きなハードルがあります。

1つは、費用の問題。そしてもう1つは猫の個性の問題です。

まず、費用の問題について。
動物医療は自費なので、在宅皮下補液を続けるには、当然費用がかかります。
わが家の場合、薬液、輸液チューブ、翼状針は、治療食や検査などと一緒に動物病院から購入しています。これらすべて含めると、動物病院への支払いは、月に1万円は優に超えています。

いかに愛する猫とは言っても、経済力には限界もあります。長く続けようと思えば、なおのこと、出費は抑えたいものです。そのため、いくつか節約している点もあるんですよ。
まず、輸液チューブと翼状針は、毎回は換えません。点滴ボトルを使い切り、新しいボトルを出す時に交換。今は4回使ってから新しいものに換えています。

輸液チューブは全く問題ありませんが、翼状針のキレは新品の時が一番。2回目以降は針先が鈍りますから、針穴が大きくなるでしょう。その結果、痛みが強まり、終了後の液漏れも多少増えると思います。

たださすがに、これを毎回換えるのももったいなく、できればキリのよいところまで使いたいのですよね。ぐう吉には申し訳ないとも思うのですが。ここは現実的な制約と諦め、できるだけ今の形で行きたいと思います。

この他、アルコール綿も、お金をかけない方法で作っています。手間を考えれば、アルコールを浸したカット綿の袋詰めが便利。清潔に配慮して、1回分ずつ梱包したものも売られています。しかしこれだと価格は高め。自宅でカット綿と消毒用アルコールを使って作るのが安価です。

そもそも、針を刺す前のアルコール消毒については、正直、気休め程度の消毒。あまり厳密に考える必要はないと考えています。なぜなら、アルコール綿は素手で触るもの。触った時点で手の雑菌は付着するので、厳密でなくて良いのです。

よって私は、市販のカット綿に消毒用エタノールを浸し、ジップロックに作り置きしています(写真7)。ただし、エタノール自体は、純度が高い、高い方の製品をチョイス。これはちょっとしたこだわりです。

▲アルコール綿は自作しています

また、アルコール綿は、量を惜しまず使うのが大事。皮下補液終了後、針を抜いたあとを押さえる際、ある程度の厚みがあった方が、圧迫しやすいからです。

そしてもう1つ、猫の個性について。
猫によっては、針を刺すと大暴れし、処置ができない子もいます。この場合は、やろうと思っても自宅でやるのは危険。私が10年も皮下補液が続けられたのは、嫌がって鳴きはしても、諦めて暴れない、ぐう吉の個性によるところが大きいのです。

もしぐう吉が処置をとても嫌がるようなら、私は無理に続ける選択はしなかったでしょう。
飼い主としては、慢性腎不全が比較的軽いうちから始めたのがよかったと考えていますが、いよいよ悪くなるまでやらなかったらどうなったのか。これは知る術がないのです。

ですから私は、腎不全の早期から何が何でも皮下補液をするべきだとは思いません。それは経済的な負担もあれば、猫によっては酷い苦痛になり得ます。

それぞれの飼い主が、なるべく無理せず、猫によかれと思うことをする。それでよいのだと思うのです。なぜなら、雨風がしのげ、空腹がなく、穏やかな暮らしができる猫は、やはり幸せ。皮下補液をするかしないかは、大きな問題ではありません。

▲寝床のある幸せを満喫するぐう吉


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