眩暈

 その夜の祝祭は恋の心のざわめきととてもよく似ていて、白銀の高級ミルクのように煌めいた流星群に国民は魅せられ何ということはなく涙を流している、私もまたそのうちの一人として差し障りのない涙を流してしまったことを今此処に後悔しております。
 激しい流星群の過ぎ去った後で、一匹の白い犬が私のところへトボトボと歩いてやって来て口笛をひゅう、と吹いて私に話しかけました。

「お月さんがかわいそうだ」

 犬はそれから私が何か言い返そうとする口元を一瞬ちらりと見て、それからまたひゅう、と口笛を吹いてどこかへ行ってしまったので、私はまた一人になってその流星群の過ぎ去った後の真っ暗な、華奢な、流麗な空を見上げていたのでした。
 すると、今度は右手に大きな痣のある子猿がちょろりと私の方へ駆けてきて、そのまま私の方にするりと登ったと思うとなんだかその重みはにわかに増してきて、私は随分重たい物を担いでいるような気がしたのですが、振り向いて見てみても確かに居るのは子猿が一匹居るだけで、重たいものなんて何にもありませんでした。
 子猿は言いました。

「あすこに見える松の樹を竹刀で思いっきり叩いてごらん、お前が望むものが落ちてくる」

 それから右手に痣のある子猿はきゅきゅと笑って私の肩から降りて行きましたから、私は後を追ってその松の樹のある方へと向かいました。途中、何人かの友人が私に話しかけてきて、その間に子猿の姿は見えなくなってしまいましたが、松の樹はそれほど遠くにあるわけでもないので、その樹の下で私は猿ともう一度合流しました。私が持っていた竹刀で樹をぱあんと叩くと猿の右手の痣は消えて、代わりに私の肩がまた重たいような気がして、猿はきゅきゅきゅ、と笑ってどこかへ行ってしまいました。

 気づくと空は白み始めていて、私は随分長いことその聡明な夜空に魅了されていた、私の背中には生まれて数ヶ月の子供が眠っていて、彼の右腕の柔らかくなっているところには赤い痣が残っていました。祝祭の終わった世界はとても物寂しくて、流星群が次にやってくるのは背中の子供がもう随分育ってからだそうです。

 その夜の祝祭は、まるで恋の心のざわめきにとても似ているようでした。

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