第2回 共同創業者への選択肢

第2回は、第三者から出資が入る前に行いたい、株式を1株も持っていない共同創業者の持株比率を高める方法について、考えてみましょう。

方法は主に以下の3つになります。

①創業者株主の株式の譲渡

②新株発行

③ストックオプションの付与

ここには画一的な回答はなく、会社の状況によって選択肢は変わってきます。そこで、それぞれのメリット、デメリットを見てみましょう。


①創業者株主の株式の譲渡

・メリット

(ⅰ)手続が簡単

株式譲渡契約を締結して、譲渡承認の手続を行うだけですので、手続は非常に簡単です。一人株主の場合は、そもそも譲渡承認手続も不要とされています。そのため、その場合は株式譲渡契約書を作成するだけです。ただし、気をつけるべき点としては、共同創業者が会社を辞めるリスクに備えて、創業者間株主契約書のような株式譲渡契約書を作成する必要がある点です。具体的な内容については次回以降に回しますが、ここは重要な点ですので、気をつけていただければと思います。

(ⅱ)登録免許税がかからない

他の2つの手続は、登記が必要となるので登録免許税が必要となりますが、株式譲渡では登記が不要なので、登録免許税が不要です。

・デメリット

(ⅰ)共同創業者が議決権を保有する

意見が一致している間は問題ないですが、考え方の方向性が変わってきてしまった時に、議決権を持たれていると持株比率によっては自由に決議が出来ないことがあるかもしれません。そのため、渡す持株比率には注意が必要です。

(ⅱ)税務上のリスクがある

締結する株式譲渡契約の中で、共同創業者が退職するときに株式を買い戻す条項を入れるのですが、通常、取得価格による買い戻しとなるので、ラウンドが進んで株式の時価が上がっていると、時価と取得価格の差額について、贈与税等の税務上のリスクがあり得ます。この点は顧問税理士に要確認です。

(ⅲ)会社に資金が入らない

株式譲渡の場合、資金が入るのは譲渡人の創業者株主なので、会社の資金にはなりません。そのため、株式譲渡で創業者株主が受け取った資金を会社に入れるためには、会社に貸し付けることとなるので、少し手間がかかります。


②新株発行

・メリット

(ⅰ)会社に資金が入る

会社に対して払込を行うので、会社に返さなくてよい資金が入ります。

・デメリット

(ⅰ)共同創業者が議決権を保有する(前述のとおり)

(ⅱ)税務上のリスクがある(前述のとおり)

(ⅲ)登記手続が必要で登録免許税がかかる  

登録免許税は増加する資本金にもよりますが(増加資本金(千円未満切り捨て)×0.007円、百円未満切り捨て)、最低でも3万円かかります。また、株主総会議事録等、書類の作成が諸々必要となります。


③ストックオプションの付与

・メリット

(ⅰ)共同創業者が議決権を保有しない

新株予約権なので議決権がありません。通常は上場まで行使できない条件を付けるので、議決権ベースで創業者株主の比率は変わりません。また、ストックオプションの内容として、「会社の役員や従業員を辞めた場合には会社が無償で取得できる」という取得条項を規定するため、共同創業者が会社を辞めた場合は、会社がストックオプションを無償で取得することが可能であり、税務上のリスク等は発生しません。

・デメリット

(ⅰ)会社に資金が入らない

役員に付与する場合、通常、税制適格ストックオプションとなるので、付与時に払込金がなく、会社に資金は入りません。また、創業者株主にも資金が入らないので、創業者株主の貸付による会社への資金の提供もできません。

(ⅱ)登記手続が必要で登録免許税がかかる

新株予約権なので登記が必要です。登録免許税は一律9万円。税制適格の要件を満たす必要があり、書類は難しいので、専門家に任せた方が無難です。ただし、当然それなりの報酬は発生します。

(ⅲ)将来のストックオプションプールの割合が減る

資金調達を行っていくと、株主間契約等においていわゆるストックオプションプールの規定が入ります。これは、発行済み株式の10〜20%程度の枠であれば投資家の承諾なく自由にストックオプションが発行できるというものですが、ストックオプションを共同創業者に発行するとこの枠が減ることとなります。そのため、付与する比率によっては将来のインセンティブプランの設計やCXO獲得等に大きな影響を与える可能性がありますので、割合には注意が必要です。


上記のとおり、それぞれの方法にはメリット、デメリットがそれぞれ存在します。表にまとめると下記のとおりです(なお、創業者株主及び会社にとって有利な順に「◯→△→✕」となっています。)。

上記をみると、①創業者株主の株式の譲渡が最も優れているように見えます。確かに②新株発行との関係では、「会社への資金の流入」の点以外は①の方が優れており、②との関係では、①を採用するべき場合が多いと思います。もっとも、③ストックオプションの付与の絶対的な強みとしては、議決権を保有されないということです。そのため、共同創業者の属性に応じて、①と③のいずれを選択するか判断することとなります。

なお、上記以外にも、有償ストックオプションの付与、信託型ストックオプションの付与等、議決権の比率を調整するための方法は諸々あります。IPOを前提とした場合、最終的に手続や書類の適法性等を調査されることとなりますし、資本政策については後戻りが出来ないので、専門家と相談の上、判断されることをおすすめします。

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