『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

尾道での上映開始から5日後、広島は横川シネマで映画『逆光』が封切られた。この日は14：00と18：40の2回上映が行われ、その両方で須藤蓮と渡辺あやが舞台挨拶に立ったが、夕方の回の挨拶で渡辺はしみじみとこう話した。

今日が終わって初めて初日を迎えたという気がして、ほっとしています。尾道と広島で公開をはじめたいという想いでやってきて、今はそれが『こんなにもいいものなんだ、こんなにもあたたかい気持ちになれるものなんだ』という気持ちになってて。これまでさまざまな作品の舞台挨拶に立ちましたけど、初めての気持ちです。

尾道と広島、両方終えて初めて初日という感覚は真実だろう。渡辺は物語の舞台となった街に「地産地消」で作品を届けられたことに感慨深そうな様子だった。

広島配給宣伝活動のひとつのピークとなるこの日、須藤は劇中の〈晃〉と同じ衣装で横川シネマ前に立っていた。初回の公開は14：00だったが、館主の溝口徹がシャッターを開けた9時半ごろにはもう整理券を求めて劇場を訪れた観客がいたという。この日も尾道シネマ同様、須藤は来場者に挨拶し、広島で知り合った仲間たちに囲まれた。

そして迎えた14：00。横川シネマはいっぱいに埋まった。70席のシートがすべて埋まり、補助席にも人が座る。初回はトータル80人。後に須藤は「シネマ尾道が満席にならなかったから心配してた」と漏らしたが、強気な表情の裏では安堵していたようだった。

広島初日の目玉は、なんといっても合計100分にも及ぶティーチインである。映画本編が60分強であることを考えると、それ以上に長いティーチインなど聞いたことがない。しかし結論から先に言うと、この「映画60分＋トーク1時間40分」というセットはこれ自体がひとつのイベントパッケージであるほど充実していた。

エンドロールが流れ客電が付くと、映画の興奮冷めやらぬ中、須藤と渡辺が登壇する。須藤は映画から抜け出したような〈晃〉の格好で、渡辺は紺のシックな和装である。

このティーチインで面白かったのは、通常の撮影裏話、客席からの質問に加え、撮影中のメイキング映像などを惜しげもなく公開したことだろう。観客はいま観たばかりの作品がどう作られたのか、現場の様子に引き込まれていく。さらにポスターの別案を見せ、どのように決定案まで至ったのか詳しく説明する。こうして映画完成までの過程を丁寧に共有することで、トークが終わる頃には観客も「須藤組」の一員になったような連帯感が生まれていた。

また、トークでは須藤の利発さも垣間見られた。機材トラブルで映像が出なくなるハプニングがあったのだが、その際も壇上からテキパキと指示を飛ばし、「サイン会のときロビーにパソコンを置いておきますので、興味のある方はそこでご覧ください」と即座に収拾。この迅速な対応力で撮影現場をまとめていたのだろうことが感じられた。

広島公開初日のこの日は、実は須藤25歳の誕生日でもあった。トークの最後には溝口支配人がケーキを持って登場。須藤は照れ臭そうにローソクの火を吹き消した。ちなみにこの日、溝口が来ていた古着シャツは、映画のスタイリスト・高橋達之真が広島ref.で行われている「ジャパニーズヌーヴェルバーグ展」のために持ち込んだアイテムから須藤がセレクトしてプレゼントしたもの。もしかしてそれは『逆光』の上映に合わせて、須藤と渡辺の2人の出会いのきっかけとなった『ワンダーウォール　劇場版』の同時上映を決めた溝口に対するお礼だったのかもしれない。

ちなみに、その高橋は夜の回のトークショーに飛び入り参加し、『逆光』の見どころのひとつである衣装のこだわりについて語った。渡辺が「絵画的スタイリング」と評する衣装について、実際のスタッフから話が聞けるのも『逆光』宣伝活動の面白さである。

ミニシアターって衰退していくしかないとみんな感じてると思うんです。今は誰も映画館に行きません。でも僕はミニシアターに足を運ぶことがカッコイイと思われるような状況をもう一度立ち上げたいんです。そのためには効率性の中で消えていったものを、ひとつひとつ丁寧にやっていくことで可能性が開けていくと思ってます。

最終的に広島初日、『逆光』を観に劇場を訪れたのは合計110名。須藤と渡辺は2回の上映後、そして『ワンダーウォール　劇場版』公開前の全3回、舞台に立ち作品について熱く語った。

こんなに嬉しくて緊張する誕生日はないですよ。感情の混線がヤバいです……。

須藤蓮25歳の誕生日は、映画監督としての仕事に忙殺されてすぎていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
映画『逆光』は現在、配給活動を支援するためのクラウドファンディングを行っています。