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闇を超えたその先へ ~SAKANAQUARIUM2020 834.194光 仙台公演感想~

1.はじめに

 2020年2月25日。私は仙台に居た。目的はサカナクションのライブツアー「SAKANAQUARIUM2020 834.194光」の仙台公演に参加するためである。
無数の曲が転がるJ-POP界の中でも、生まれて初めて「この人たちが演奏するのを生で見たい」と強く思わせたのがサカナクションだった。人生初バイトの初給料で買ったのも魚図鑑だった。
 気が付けば新作のリリースを心待ちするようにもなっていた。
 初めて大学二年の冬にライブチケットを申し込み、当選した時は心の底からうれしかった。
 やっとこの人たちに会えるという感動を今でも覚えている。
 話を戻そう。
 14時を過ぎるころにはホールの入り口前に人だかりが出来ていた。並びながら待っているとスマホに通知。何だと思ったら一郎さんのインスタライブ。いつものメガネ姿に黒いマスクの一郎さん。どうも徒歩で移動中らしい。それを眺めていると、周りの人も次第にスマホを覗き始める。
 微笑ましい光景だ。皆サカナクションのことが好きだという事を目に見えて実感させられる。
 物販も無事に終わり、仙台サンプラザホテルのカフェで会場時間まで待つ。開場が17時30分の予定だったので17時には並び始めた。すると雲行きは怪しくなり、雨の曲が多いサカナクションらしく冷たい雨が行列に降り注ぐ。でもライブを待つ魚民たちはじっと待っている。まるで荒波にも動じない深海魚のようにじっと開場されるのを待っている。
 17時40分、10分押しで来場スタート。先にプラチナムチケットの人たちが優先で入る。次に自分たちが属する注釈付き指定席の人たちが来場。ドアを開けると、そこは霧に満ちた世界だった。会場内が濃いスモークで満たされている。あまりに濃くて足元がおぼろげになるくらいだ。座席は一階Ⅾ列の5番。サンプラザホールの座席表を見て貰えばわかると思うが、ステージから滅茶苦茶近い。しかもプラチナムの座席のすぐ近くだった。8500円で15000円のプラチナムの近くに座る。ちょっとお得な気分を味わ合わせてもらった。あとはスピーカーの真下だった。去年のライブもスピーカーの真下だったのだ。お陰で爆音を聞けたが、耳が一定時間聞こえなくなるというおまけつきだった。
 ステージの配置は事前に見たはやどきと同じく、楽器が横一列に配置。メンバーの姿が全員満遍なく見られるようになっている。
 会場内SEは去年の穏やかなかんきょう音楽ではなく、常に強風の音が会場内を駆けまわり、たまにSLが走り抜ける音が聞こえた。
 すれ違った人を見て驚いた。丸若さんじゃないか!GEN GEN ANの丸若さんじゃないか!そんな魚民的超有名人が隣を通り過ぎていったのに感動した。そして開演時間を15分ほど過ぎたところで客電が落ちた。ライブが始まる。

2.ライブ本編

(0)タイムパラドックス
客電が落ちてもSEがしばらくなり続けていた。しかし、ステージ全体の照明が次第に灯り始め、メンバーが現れる。照明の点滅が次第に早まると同時にSEも変化し始め、去年のライブOPと同じ音へと変化していく。一郎さんが登場。白のジャケットスタイルだ。一郎さんだけではなく、他のメンバーも白の衣装がとても似合っている。そして一郎さんが客席に背を向け両手を上げると同時に音も照明も頂点を迎える。客も無意識に手を上げ会場と演者が一体になった。この感動はやっぱり現地でしか味わえない。そしてエジーのドラムがカウントするかのように響き、次の瞬間
 『グッドバイ』のコーラスと共にサウンドが会場に響き渡る。一郎さんが手を下す度に音が鳴り響き、会場を震わせる。
 一郎さんがアコギを持ち、天井の照明パネルが下に降りてきた。照明はオレンジ色、メンバーはさっきまで会場を満たしていた霧によってはっきり見えない。
 いよいよ曲が始まる。
(1)グッドバイ
 去年のライブはアンコールの最後。だけど、今回はライブの最初。ライブでも最後に持ってこられることが多い、この曲を最初に持ってくるのに私はサカナクションの覚悟を感じた。このツアーは去年から地続きなのだ。834.194というアルバムを二つの側面で見るのだと実感させられた。メンバーの姿は夕陽を思わせられるような照明と霧によってよく見えない。それが歌詞の『不確かな世界へ舵を切る』というのにもリンクしている気がしてジーンとした。
(2)マッチとピーナッツ
 まさかのこの曲である。正直度肝を抜かれた。「グッドバイ」が来たら、しっとりとした曲が来るだろうと思い込んでいたからだ。だけどそんな予想はあっという間にひっくり返された。一郎さんの『皆自由に踊ってください』という言葉で会場のリミッターは一気に外れた。エロチックなベース、グルーブを生み出すサウンド。いろいろな要素がぐちゃぐちゃになって会場をかき乱した。
(3)「聴きたかったダンスミュージック。リキッドルームに」
 さっきまでの赤い照明が鳴りを潜め、代わりにステージに青白い照明と虹色のレーザーが現れた。それがメンバー全体を包んでいく。この曲は生で聞けるとは思わなかったので感動した。一郎さんもハンドマイクに変え、会場を煽る。キーも下がり、バンドサウンドにリメイクされていたのも美しかった。しかも、「週末恵比寿の」という部分が「週末仙台の」と変わっていた。ご当地ネタに代わっているのが微笑ましかった。そして曲が終わっても、リズムが途切れることなく聞いたことない流れへ。
(4)ユリイカ
 結論から言って、こんなに踊れたユリイカは初めてだった。いつもはしっとりと身に染みるメロディが体を揺らせられるようにアレンジされたのが印象に残った。バンドにとっての懐かしい景色と東京がハイブリッドされている曲だ。いつものライブだったら深海パートで演奏される曲。予想外過ぎる選曲に驚かされた。個人的には一番好きなアレンジだった。       
(5)ネイティブダンサー
 ユリイカからの神がかり的な繋ぎ。姐さんのベースからザッキーのピアノへの移行の素晴らしい。何か美術館に行って絵画を眺めるような滑らかさすら感じる。そして『ネイティブダンサー』と言えばレーザーの演出。これまでDVDで散々見てきたけど、生で見るレーザーはかなり迫力がある。そして手を触れたくなる。ちょっと手を伸ばして触れてみると光と自分が一体化されているような気がする。ライブ限定でしか味わえないラストの大サビでは会場全体で手を振り、背景の映像とレーザーも相まってボルテージが一気に上がる。
(6)ワンダーランド
 前曲のラスサビが終わるとドラムでリズムを維持したままノイズが入ったので薄々この曲が来るのはわかっていた。だが、ギターソロから始まるとは誰が予想しただろうか。この時のもっちは冗談抜きで神々しく思えた。前年にリリースされた曲をここまで普通弄るかと会場で口を押えて笑ってしまった。サビの部分は去年のツアーでは炎が使われていて度肝を抜かれたが、今回はすさまじい点滅だった。あれは本当に凄まじいとしか言いようがない。赤と白の点滅が滅茶苦茶続く。それでいて曲が終わると赤い照明が一郎さんを突き抜けるという演出があった。間違いなく今回のライブのハイライトだと思う。                              (7)流線
 さっきまでの激しい曲のパートから一気に落ち着いた曲。いわゆる深海パートに来たのだ。照明も赤で統一され、落ちついているけど少し切迫感もある曲の雰囲気とマッチしていた。ここで気になったのは曲中で大きなライトを持った黒子さんがメンバーの後ろを通り過ぎるという演出があったこと。ライブも人の手で作られている事を伝えたいというサカナクションのメッセージを感じた。途中で足されたもっちのギターソロも静かな曲中で目立っていてよかった。
(8)茶柱
アルバムで聞いているとザッキーのピアノと一郎さんの歌声が特に響く曲だったのでライブでやる光景が想像できなかったが、姐さんのベースが相まって郷愁的な雰囲気になっていて心に刺さった。それでいてステージに配置されて無数の灯りが曲の展開に合わせて光っていく演出。照明も最小限の明るさに抑えられたのが印象的だった。                  (9)ナイロンの糸
 ライブの最深部。深海パートの曲群の中でも最も深いところに位置する曲だ。光がツアータイトルになっているだけあって、今回のライブはとにかく照明が美しい。この曲もその一つだ。ステージ全体にスモークが焚かれ、青白い照明が幻想的な雰囲気を作り出していた。
(10)ボイル
 ナイロンの糸のアウトロが会場から遠のいていくのと対照的に次第に聞こえてきたのが、この曲のイントロ。大サビに行くと天井の照明が大きく動き、後方に隠されていたLEDパネルの幕が下りた。そして眩い限りの光りが会場全体を包み込む。
(11)陽炎
 ここから浅瀬ゾーン。これまでしみじみと躍らせた展開から一気に激しく躍らせる展開に移行する。イントロの「ドン」というエジーのドラムで一気に会場のボルテージは最高潮になる。一郎さんもジャケットを脱ぎ会場を煽りまくる。ここでなんとサプライズ。2番のAメロで一郎さんが歌いながら下に降りて最前列の観客と握手しているではないか。悔しい。次は絶対にプラチナム席で参加することを決意した。さらにサプライズ。途中の『いつになく煽る紅』が『いつになく仙台初日』に変更されていた。これは嬉しいサプライズ。
(12)モス
 陽炎で一気にスイッチが入った観客を盛り上げるのはこの曲。怪しげな照明と鮮やかなレーザーが曲のテンションとよく合っている。アップテンポな曲調とは対照的に背景のパネルに映し出されるのは上半身半裸の男女。映像はずっと白黒でありながら歌詞に合わせて口を動かすのが印象的だった。
(13)夜の踊り子
 「皆まだまだ踊れる?」という定番の煽りで始まったこの曲。BPMが速めながらも静かに展開する序盤から、一気に爆発する大サビが気持ちいい。今回いつもと違ったのが背景の映像。去年のライブまで使われていた舞妓さんが踊る映像が新しくなっていた。
(14)セントレイ
 まさかの選曲。正直やるとは一ミリも予想してなかった。だからこそイントロの部分が聞こえてきたときは新曲なのかと驚いた。演出では緑色のレーザーがピュンピュン飛び交うのが見ていて爽快感マシマシだった。    
(15)アイデンティティ
 もはや定番になった「アイデンティティ歌える?」という一郎さんの煽りからスタート。観客が声援で答えると、「じゃあ歌ってもらいましょう」と拍子をとって実際に叫ぶ。この時の叫び声が冗談抜きに会場全体が壊れるのではないかと思うほど大きかった。まるで声の塊をメンバーに向かってぶつけているような、そんな瞬間だった。
(16)多分、風。
 アイデンティティのアウトロから一郎さんがコートに着替える。今回はいつもの黒コートじゃなく、白いコートを羽織っていた。真っ白なコートがレーザーと風によくなびく。オレンジ色のレーザーがドンと会場に現れるのはかなり迫力があって圧倒される。 
(17)ルーキー
 「多分、風。」が終わると聞いたことないメロディが流れる。次はどこへ行くのかとドキドキしていると次第に強くなってくる「見えない夜の月の灯り引っ張ってきた青い君」というコーラス。これは!あの曲だ!あの曲だ!と驚いていると一気にあのシンセの音と一緒に緑色のレーザーが会場を満たす。ライブ映像で見ていて、いつかあの場所に居たいという思いは強かったが実際に見ると感激した。途中の姐さんとモッチのドラムも直に聞くと迫力がある。スピーカーがあるからかもしれないが、目の前で二人が叩く「ズンズンズンズン」という圧が腹にまで直に届けられる。
(18)新宝島
 イントロのドラムのカウントが着た瞬間で次に何の曲が来るかわかった。「来ました。待っていました」という感じが会場内から観客を見なくても見て取れた。思えば自分がサカナクションを知ったのはこの曲だった。この曲を聴かなければ自分はサカナクションを知らなかっただろう。だから新宝島を聞くたびにサカナクションには感謝したくなる。演出的には前回のツアーとがらりと変わっていた。前回はメンバーの周囲にチアガールがやって実際に踊るパフォーマンスがあったが、今回は背景のパネルに歌詞が表示される。歌詞の「丁寧丁寧丁寧に」というのが電光掲示板で表示されるのがとても面白かった。会場のボルテージが最高に上がった状態で浅瀬パートは終わった。
(19)さよならはエモーション
 本編ラストがこの曲。正直イントロを聞いた瞬間に鳥肌が立った。新宝島で終わりみたいな雰囲気だったのにこの曲である。でもとてもクールだし、エモさが凝縮されている。 演出も前回のツアーでの演出と同じように前半はグッと照明が抑えられ、メンバーの顔も見えない。しかし、「さよなら僕は夜を乗りこなす」という部分では激しい点滅を伴った演出に切り替わる。演奏もボルテージの上下が激しい。そして「AHミルヨルヲヌケ」という大サビ部分で背景のパネルに白で目を表す模様が表示される。この演出は個人的に好きだったから、またやってくれて嬉しい。
 曲が終わるとメンバーは挨拶せずに楽器を置いて舞台袖に帰っていく。
 しばらくアンコールを待っていると背景の映像が消える。そしてメンバーの四人だけが先に登場する。何が始まるのかワクワクすると四人だけで「ジャーン」と鳴らす。
(20)忘れられないの
 新曲と言うにはもうすっかりおなじみになっているこの曲。どちらかと言うと本ツアーの趣旨から外れた本気のおふざけモード的な演出だった。メンバーの足元にはスモークが焚かれ、背景のパネルには南国らしいヤシの木の映像と金紙がパラパラと落ちる映像が流れる。曲の雰囲気も懐かしさを感じる。さらにアウトロが長くなって、モッチのギターソロが差し込まれているのもカッコいい。
 ⅯⅭ①
 ここでMC。ステージも明るくなってメンバーもリラックスした雰囲気だ。一郎さんもワイシャツとサングラスを脱いで、ライブTを羽織った姿を披露。前に居たお客さんが「あら~」と口を押さえていた。するとすぐさま一郎さんが「ちょっとトイレ、エジー繋いでおいて」とそそくさと舞台袖に走り去る。困惑するメンバーと爆笑する会場。動揺していたメンバーたちも仙台で好きな場所で盛り上がる。エジーともっちはサウナ。ザッキーは牛タン屋さんを推していた。五分くらい話した後で一郎さんが戻ってくる。どうやらライブの前日の深夜に仙台入りしたとか。それで深夜のがらりとした商店街を歩いたらしい。ここで意外な企画。「あなたたちがアンコール曲、何を選んでも文句を言うのでくじ引きで決めようと思います」と笑いながら言うとバラエティでよく見る箱の中にボールが入っている物が運ばれてくる。中身は「仮面の街」、「enough」、「ame(A)」、「スローモーション」、「モノクロトーキョー」、「ライトダンス」が入っている。くじ引きを引いたのはプラチナム席に居た大学生。「enoughは気持ち入れるのに時間かかるからやりたくないなー」とちらっとプレッシャーをかける。するときっちり「enough」が引かれた。崩れ落ちる一郎さんと笑い転げる会場。よほどやらいたくないのか、「enoughのメロディでフクロウを歌っていい?」と無茶ぶりする一郎さん。ザッキーはローディーさんと急いで機材を調整をしていた。だが、サニーさんがNGを出したので結局歌うことに。
(21)enough
 一郎さんが冗談でやりたくないなーと言っていたが演奏は完璧だった。歌詞の展開に合わせるように序盤は暗く、サビは激しい点滅でステージが展開される。最後になって赤い一筋の光が一郎さんを貫くという演出がとても印象的だった。
 MC②
 ここで一郎さんからコンセプトの話。「今回のツアーはルックバックがコンセプトだったんです。だからツアータイトルも数字も逆で光という文字が付いています」と語る一郎さんを見て、サカナクションは音楽に対しても自分たちに対しても真摯なのだと改めて思わされた。
(22)セプテンバー‐札幌version‐
 ライブの最後はこの曲。昨年のツアーはセプテンバーに始まり、グッドバイに終わった。今年のツアーは逆だった。セトリの面でもしっかりとルックバックというコンセプトが貫かれている。演出も背後のスクリーンにデジタル表示で834.194という数字が刻まれていく。それが最後でひっくり返る。この曲でサカナクションにとって834.194というアルバムを表現することは終わったのだと思った。そして、また新しい試みを続けていくのだろうと直感した。

3.まとめ

二度目のサカナクション。文字通り骨の髄まで834.194というアルバムを実感させられるツアーだった。セプテンバーという曲で繋がれた去年のツアー。光という言葉で繋いでみせた今年のツアー。ただ音を鳴らすだけではなくて、音で光を浮き出させる素晴らしいライブだった。彼らが次にどのように我々の前に現れるのかということが楽しみである。

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