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パズルのPMノート

パズルでは社員向けに仕事の補助ツールとして「PMノート」を作っています。お付き合いあるスタッフにも配ってパズルの仕事ぶりをチェックしてもらうようにもしています。まずはPMノートとは何か?と、作り始めたいきさつを紹介します。

また、パズルはプロデューサーやPMたちによる進行管理の仕事ぶりを高く評価いただくことがあり、そんな仕事の縁でPMノートを使った「PMセミナー」を頼まれることがあります。業界団体で会員社向けにしたこともあり記事にもなっています。同じような話をあちこちでしているので、この機会にPMセミナーの内容も紹介します。

先輩から後輩へ

2006年のパズル設立当初から、歴史の浅いデジタル領域では体系的な人材育成ができておらず、様々な業界やプロダクション各社の課題にもなっていました。いろんな業種が参入して形成された領域でもあるので、仕事の作法や役割分担、スケジュール感覚や予算感覚まで各社各様に、時には発注側と受注側でうまく言葉が通じないようなこともありました。

パズルが軸足をおく広告業界はTV-CM制作やグラフィック制作など属人的な職種ではノウハウの伝承が難しいと言われながらも、仕事は先輩が後輩に教えることで制作上の細かいことまで共通認識を持つことができていました。それが縦や横にも広がり立場も超えて人材も業界全体も育ってきた経緯があります。

その、先輩が後輩に仕事を教えるような体裁で、人材育成の一助となるツールを目指して作り始めたのがパズルのPMノートです。ヒントにしたオリジナルは後述のJACによるPMノートです。

毎年表紙の色も変えていて、2021年版はグレー。

決して秘訣やコツを語るノウハウ本やハウツー本ではありません。ただ、結果的に基本的な仕事の仕方を説く内容となって、PMに限らずどんな職種にも通じることばかりと思っています。

JACのPMノート

CM制作会社の業界団体 JAC(日本アド・コンテンツ制作協会)では、90年代に変化の早い時代に対応した人材を育成すべく、所属する会員各社から知見を集めてCM制作に従事するPMたちの教材として「PMノート 〜CM制作現場での実践コミュニケーションノート〜」を発行していました。そこには基本的な用語解説とならんで様々な局面で注意すべきことが先輩たちのアドバイスとして記載されています。それをベースに2011年からパズルで独自にweb制作版を作り始め、改訂を重ねてきました。

JAC PMノート 〜CM制作現場での実践コミュニケーションノート〜から引用した「PMの仕事とは」

パズルの仕事の仕方や方法論が全ての正解ではありませんが、デジタル領域も含めて全てのコンテンツ制作に関わる人たちが認識の相違なく同じ言葉を話し、同じ手順を念頭に、同じスケジュール感覚、同じ予算感覚を持って、高いクオリティを目指して高いレベルで楽しく仕事ができるようになることを目標にしています。

主な構成

制作フローチャート
すべての物事には順番があり段階(フェイズ)がありタイミングがあります。企画から納品まで一連の流れを示し、各ステップで行うことを記載しています。また、フェイズは決定を経て次のフェイズへ進むことが原則で、後戻りは一度決めたことのやり直しを意味し、時間的にもコスト的にも大きなロスとなるので要注意です。

ステップ、用語の解説
フェイズごとに制作フローチャートで示したステップや用語を流れに沿って解説します。

pzlマーク注釈
ページの下段に進行上で常に気を配りたいことを先輩たちの言葉で記載しています。たまに失敗談もあります。同じようなことが繰り返し出てきますが、それほど大切なことでもあります。ここに記載してあること全てが体に染み込んで自然に振る舞えるようになったらPMノートを卒業する時、PMとして一人前になった時です。

左ページ下段が先輩たちの言葉

PMセミナーから

ここからPMセミナーで話していることを紹介します。

そもそもPMとは?
映像制作の流れをくむパズルではPMはプロダクション・マネージャーの略です。企業や業界によってはプロダクト・マネージャー、プロジェクト・マネージャーのように相当なキャリアを積んだ人が担うような責任あるポジションです。また、その役割からWeb制作の現場ではWebディレクターやディレクターを名乗る人もいます。

いずれにせよ、制作進行の責任者としてプロジェクトの中心人物であることに変わりはないと考えています。

4つの管理

PMの仕事はJACのPMノートで説かれている通り、

  1. スケジュールの管理

  2. 予算の管理

  3. スタッフの管理

  4. クオリティの管理

この4つへ集約されると考えています。このいずれもモノ作りの仕事をするならどんな職種でも気にしないわけにいかないと思いますが、PMは能動的に全てを組み立てて管理します。

まず、スケジュールを管理するということは、

予定を立てておしまいということはなく、日々の変化に対応しながら、時には先回りしながら、最終的なゴールへ関わる人たち全員を導くツールとなります。

スケジュール表にもいろんなスタイルがありますが決まりはありません。見る人の立場によって注目するポイントも変わります。どのタイミングで誰が何をするか、誰に何をしてほしいか、自分の考えを伝えて分かってもらう意思疎通のためのツールとして使いましょう。

続いて、予算を管理するということは、

これまた立てておしまいということはなく、追加や削減に対して限られた予算の中で上手にやりくりし、いかに利益を上げるか知恵を絞り出します。

日本では子どもの頃からお金の勉強をすることがないせいか、ビジネスシーンでも「カネの話」は嫌がったり面倒くさがったりする傾向が強く、後回しにされやすいように思います。はしたないと言ってまるで下品な話をするかのように思われたりすることも。仕事とは商売で、利益を上げなければ給料も出ません。たくさんの利益を出すことによってボーナスが増えるかもしれません。そんな当たり前で生きるために必要なことをPMは躊躇なく取り仕切ります。特に「カネの話」は事前に済ませておくことが重要です。

また、予算はその仕事への向き合い方、何をしたいかがとてもよく表れます。反対に考えが読み取れない予算は面白くありません。自分の感心事をどれだけ予算へ取り込めるか、予算組みの醍醐味でもあるでしょう。

次に、スタッフを管理するということは、

場合によっては何ヶ月も何年も、これから一緒に仕事をし続ける相手をまずはよく知ることが大切です。同時に、PMとしてチームの中心で仕事を取り仕切るためには自分のことをよく知ってもらう努力も必要です。

チーム作りにおいて、いろんな才能を集めて組合せの妙を楽しめるのもPMの特権だと思っています。そこで起こる化学反応のようなクオリティのジャンプを味わうと楽しくて仕方がありません。これこそが仕事の醍醐味であると感じます。

そのためにも常に誰がどんな仕事をしているか情報収集の癖をつけることが大切と思います。一度うまくいくと、つい同じスタッフへ偏ってしまいがちです。レギュラー化は悪くありませんが、馴れ合いは良くありません。なぜこのメンバーか、必然性あるチーム作りを心がけたいです。

最後に、クオリティを管理するということは、

様々に専門的な判断を下すディレクター職(映像監督、アート・ディレクター、テクニカル・ディレクター、クリエイティブ・ディレクターなど)へ判断材料を揃えるのもPMの仕事です。つまり、適切な判断を導くためにはPMがどうしたいか、PMが描くゴールイメージがまず必要です。

このゴールイメージを描くことが全ての仕事のスタートだと考えます。途中、いろんな事情によってゴールイメージが変わっていくことは構いません。ただ、変わるタイミングでも毎回、自分なりのゴールイメージを詳細に描くことによって、その時にすべきことが分かり、相談する相手も分かります。

自分がどうしたいかを決めることは難しいかもしれません。間違っているかもしれないことが怖いかもしれません。そんな時は「違ったらやり直せば良い。」と考えるようにしています。クオリティを上げることはチャレンジによるトライ&エラーの繰り返しです。自分の頭の中だけでも、作りながらより良い方向へチャレンジする、ダメだったらやり直す、そんな考え方で気持ちが楽になると思います。

そのためにも日頃の勉強や情報収集が大切です。ベースの知識量によってチャレンジの幅は大きく変わります。こうしたチャレンジを続けることでPMは成長し、やがてクオリティを握る自負を持ちます。そして良い仕事ぶりから次の機会を増やしていくことになります。

PMとプロデューサー

業界によってプロデューサーの役割はだいぶ変わります。デジタル・コンテンツ制作の現場におけるプロデューサーの仕事は、

  1. スケジュールの管理

  2. 予算の管理

  3. スタッフの管理

  4. クオリティの管理

そう、PMと同じです。多くの場合でプロデューサーとPMは上司と部下の関係ですが、職種としては独立した対等な関係です。その二人で役割分担しながら4つの管理をします。

あらためて「管理」とは何か?どんな役割分担なのか?

チームの中心で4つのことをコントロールする立場がPM、チーム・リーダーとしてPMに示された4つのことを判断する立場がプロデューサー、と考えます。そもそも「管理」という言葉が具体的に何をするのか分かりづらい気がするのですが、制作現場における管理とは、状況や状態を把握・分析・掌握し、そこから目標を示して実行することと解釈しています。

3つの道具

4つ管理にあたって、3つの道具を駆使します。

どんな仕事でもやることを示す設計図のようなものがあると思います。映像なら画コンテ、Webサイトは構成書やワイヤーフレーム、システム構築するなら仕様書などです。これらを作る(まとめる)人の考えがこれによってスタッフへ示され、各スタッフが自分のやるべきことを考え始めます。4つの管理で述べた通り、スケジュール表は時間軸で考えを理解し合うもので、予算書は予算配分によって仕事への考え方を示すものです。

これらはドキュメントとして示されますが、PMにとっては道具です。仕様を実現するためスケジュールと予算を立てます。仕様に変更があればスケジュールも予算も変わります。スケジュールが変われば仕様を変更しなければならないし、それによりまた予算も変わります。あまり歓迎したくありませんが予算が削減されれば仕様も削らなければならないし、スケジュールは短縮されるかもしれません。仕事は朝と夜でまったく違う状態になることもあります。何が起きても3つの道具を同時に使いながら正解を探します。

一般的なプロジェクト管理

ところで、これまではパズルの活動する領域でのPMの仕事を紹介してきました。冒頭に紹介したような、ブランド企業や事業会社、他業界のPM(プロダクト・マネージャー、プロジェクト・マネージャー)には馴染みの薄い話もあったと思いますが、一般的なプロジェクト管理の教科書的な説明ではよくこんな図が出てきます。

どんな分野においても、モノ作りやプロジェクトを進行する立場には共通する考え方が多いと思います。

5W1Hを決める

新入社員研修などで教えられて誰もが知る5W1Hと思いますが、仕事の場ではなかなか活かしてもらえません。例えば、打合せではトピック(議題)に結論を出す際、何かが抜けていることはないでしょうか?

全てのトピックで一つひとつ5W1Hを埋め、全員の共通認識にすることで迷いなく次のステップへ進めます。PMは打合せで司会進行に追われることもありますが、ここに抜け漏れがないか注意です。

知っておく

アイデアを生み出し具現化していく上で、気がつかないうちに権利を侵害していることがあります。その可能性に気づき、早く手を打つことでトラブルは防げます。

企画を検討する場や音楽やデザインの制作過程で、類似するものはないか、表現に使って良いかなど、少しの知識や情報さえあればPMに判断できることも多いです。時には「分からない」という判断も必要で、その場合は専門家に頼り、そのために必要な時間を確保するなど、考えることはたくさんあります。

仕事の流れをつくる

web制作フローチャート(パズルのPMノートより)

ここからは制作フローチャートを使って、仕事を進める上で留意したいことを紹介します。これはパズルのPMノートに掲載しているweb制作フローチャートで、企画から設計、制作、公開後の運用など制作業務の一連と各ステップの主なタスクを記載しています。また、これはPMの為だけのものではなく、発注主や関わるスタッフとも仕事の進め方で共通認識を持つためのツールになります。近年はここで躓くことはほとんどありませんが、担当が制作業務に不慣れだったら仕事を始める前に確認し合っておくことは大切です。

まず初めに、

当たり前ですが、仕事には守らなければならない手順があります。企画打合せで実制作で起こりそうな問題が気になりその解決へ夢中に…、というようなことあると思います。もちろん実現性の検証は重要ですが、打合せなど限られた時間で決めることの優先順位を間違えると仕事は進みません。今すべきこと、後でも良いこと、を判断しながら進行しましょう。

そして段階を進む時には、

それぞれの段階で決まるべきものが決定しているはずです。企画段階なら企画案が、設計段階なら仕様書や構成書が、発注主によって決裁されています。もちろん決定するための材料はその段階で充分な検討がなされます。ところが進んだ先で前段階に戻ってしまう、戻りたくなるケースが稀にあります。この後戻りは前段階にしてきたことのやり直しとなり時間もコストも大きくロスします。そうならないために、決定に際してはあらゆるリスクも検討しておきたいところです。

次に流れの中で最も気をつけたいのは、

タイミングです。例えば上図で赤印をつけたのは見積を出すタイミングで、一つのプロジェクトでも見積は何度でも出します。しかもそれらは何か事が起きてからでなく、必ず起きる前に出します。物事の検討中には変更も多くありますが、その度に見積は出すべきです。

予算の管理で触れましたが「カネの話」は後回しにしやすいです。残念ながらよくあるのですが、作業が増えたからと言って事前よりも増えた見積を見るとたいていの人は気分を害します。後で出して良いのは飲み屋のお会計だけとセミナーでも毎回話しますが、作業が増えたなら取り掛かる前に見積の承認を取るべきです。外注先に対しても追加作業を頼めば費用がかかるのは当然なので、都度確認するよう配慮が必要です。

見積だけでなく、データ形式やサーバーの仕様、細かな演出、成果物のバリエーションなど確認のタイミングを間違えると取り返しがつかないこと、それこそ段階(フェイズ)の後戻りになることもあります。何事も早めの確認を心がけたいです。

求められる人材

パズルではよくあることで、映像、Webサイト、グラフィック、イベントなどの制作が同時に動き、それら領域を横断して進行管理する場合があります。全てを制作することもあれば、一部だけ担当し他班と連携しながら進行することもあります。

同時進行する複数領域の制作フロー俯瞰図(パズルのPMノートより)

この時、広告主や向き合っている広告会社のアカウント担当は少人数かたった一人で全てを見ていることがあり、制作チームがみんな別会社のために連携していないと二度手間、三度手間の確認でストレスがかかります。全体の動きを意識しながら進行することで自分のチームのロスを減らせることもあります。予算や時間の使い方も取り合うのでなく全体のクオリティを高められるように効果的で効率的な配分を目指します。このような考え方ができて、自身の専門性は高めながら領域を横断してコントロールできる、いわばゼネラル・プロデューサーやゼネラル・ディレクターが今とても求めらています。この指向はパズルの人材育成方針でもあります。

司令塔としてコントロールする

ここからはパズルのPMノートに記載してあるpzlマークの注釈、先輩たちの言葉を少し紹介します。ほとんどがアドバイスでもあり注意喚起でもあります。

まずは打合せを何度も積み重ねて答えを出していく企画フェイズから。

打合せの振り返りや資料の整理など当たり前のことを釘刺すのは、できていないことが多いからです。また、企画段階の打合せはアイデアを出し合って議論する楽しい場でもあるはずです。決して手ぶらで出席することのないよう戒めます。

次はアイデアが具体的な骨格となって見えてくる設計フェイズです。

企画フェイズと同じようなことが書いてありますが、大切なのに忘れがちなことでもあります。特にこの段階(フェイズ)ではWeb制作はもちろん、映像制作なら撮影前の制作準備期間として、もっともPMの出番が多く、稼働時間も長い期間になります。ここでのPMの働きぶりがその後のクオリティを大きく左右します。先輩たちの言葉も多いです。

続いて、多くのスタッフが一斉に動いて完成を目指す制作フェイズです。

スタッフの中心、仕事の中心であることを実感させられるかのようにPMには情報も相談も報告も集中します。壁にぶつかることもありますが、結局は自分がどうしたいかを起点に判断し続けるのが正解に一番近いと思います。

設計フェイズにあったように、PMの仕事の9割は何かの準備ではないかと思うくらい、準備と確認の繰り返しです。それだけに、良い準備ができた現場は打合せでも撮影でも自分の思い通りうまくいったと実感できることが多いはずです。デザインや編集でもスタッフへ安心して仕事を任せられて自分の想像以上のものが出来上がったと実感することがあるはずです。こうして得られる実感がPMの仕事の面白味そのものではないかと思います。

先輩たちの言葉全体を通して言えるのは、どんな仕事でも当事者意識を持って取り組むこと、決して他人任せにしないこと、を繰り返しいろんな言葉で説いています。これはモノ作りに携わるPMに限らず、仕事をする上では普遍的で大切な心構えかと思います。

先輩PMの教え

最後に、PMノートの巻末に掲載してある、CM制作会社の制作部で先輩から後輩へ何十年も言われ続けている教えを紹介します。(CM制作の現場では撮影部や照明部などと並んでPMたちのセクションを制作部と呼び、部署名にしている会社も多いです。)1つ目は3つの道具で説明したことです。

フレーズ化したような言い回しも多いですが、それだけ何度も繰り返しくり返し、励まされながら叱られながら言われ続けてきたことばかりです。先輩たちの言葉も元をたどればここへ行き着くような気もします。

やや精神論っぽく今の時代に合わないような雰囲気もありますが、思い起こすと尊敬した憧れの先輩方はみんなこれらが体に染み込んでいました。

終わりに

PMセミナーの内容は以上です。
1時間半くらいかけて話す内容なので長くなりました。。

冒頭にPMノートの紹介で述べましたが、パズルのやり方や考え方がすべて正解とは思っていません。できるだけ誰にとっても正しく思えるような、普遍的な内容を心がけています。これが業界全体の底上げの一助になればと偉そうなことを思ったりもしますが、もっと単純に、関わるみんなが楽しく最高の仕事をできるようになればと思っています。その楽しさと面白さをどんどん広げていきたい。

そしてそんな楽しくて面白そうな世界を、新しい感覚を持った次世代にどんどん目指してほしいと考えています。

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