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次世代の制作者をつくること、それがパズルのミッション。

2006年のパズル設立にあたってどんな会社をつくるか考えをまとめた設立趣意について。時代の変化をびんびん感じながら、一人の制作者としてもこれからどうあるべきか考え抜いていた頃の、昔話です。

ビジュアルコミュニケーション、始まる

以前、パズルを設立した当時の時代背景を書きました。

インターネットによって世の中が、世界が、生活様式が、そして我々の仕事の内容、仕事の仕方が変わり続けていた時代でした。そんな1990年代後半から2000年代前半の話をもう少し。

電話とFaxで仕事をしていたところ、メールやFTP(さらに今ならクラウドのデータストレージサービスや動画共有サービスなど)でコミュニケーションや資料のやりとりをし始め、コンテや企画書などの資料はパソコンで作り始めて、定規やカッターもだんだん使わなくなっていきました。

海外制作の仕事ではロケ地やオーディションの資料を数日かけて国際宅配便でやりとりしていたものが、日本時間の夕方にメールで頼むと翌朝出社したら返信で資料が届いているようになり、時間と距離が一気に縮まった実感がありました。

新入社員たちも当然のようにカメラ付きの携帯電話を持っており、資料探しを頼むと出先から確認を求める写メが送られてきて、次世代の感覚を見せつけられた思いをした記憶があります。通信によるビジュアルコミュニケーションの始まりでした。

それでも、身近な未来として予測されたことの多くはまだ実現しておらず、変化の“のりしろ”がよく見えていました。たまたまエレクトロニクス企業の仕事を担当することが多く、テジタルカメラのTV-CMを制作している時にコレで電話もできればねと冗談を言い合いながら広告主が「そのうちカメラも電話も手帳もパソコンも、(手のひらを指して)こんな小さな一つのモノになるよ。」と言っていました。それは数年後、パズル設立の翌年にスマートフォン(iPhone)として現れました。残念ながらその広告主は一番手ではなかったです。。

また、2004年にその広告主の仕事で高性能な監視カメラの技術を遠隔コミュニケーションへ応用するサービスのプロモーションビデオを作ることになり、しかもその技術が2008年には実用レベルになると聞きました。当時テレビ電話会議システムはすでにあったものの、ストレスなくスクリーン越しにコミュニケーションする時代が、わりとすぐに、来ることを知りました。そのプロモーションビデオは通信によるビジュアルコミュニケーションが飛躍的に進歩して、世界から時間と距離の障壁やストレスがなくなりビジネスのスタイルが一新されることを伝えるものでした。現実はその通りにはなりませんでしたが、狙いは違うものの昨今のテレワークが推進されている状況は近いのではないかと思います。

街でも電車でもCMが流れている

インターネットのブロードバンド化でwebサイトの表現はより映像的に楽しめるものが増え、動画共有サービスも現れてパソコンのブラウザで映像を視聴する状態が増えました。広告業界では北米のBMWのプロモーションが大きな話題になり、自社のwebサイトで公開するショートフィルム制作が流行りました。

一方、街へ目を向けると例えば渋谷のスクランブル交差点に面した屋外ビジョン(2000年代初頭はまだ3面だったけれども今は何面あるのだろう?)をはじめ街中に、商業施設の店頭やエレベーターにも、様々な映像表示装置が設置されていきました。騒音のレベルが上がったと思います。

電車の中に映像モニターが設置されたのもこの頃です。CMも多く入りましたがこちらは音を出せず、字幕を入れたり文字情報を多めにするなど工夫が必要でした。web、屋外ビジョン、店頭、電車内ビジョンなど、映像制作者にとって納品先が増え、納品フォーマットが増えていった時期です。

この頃にファーストフード企業が店舗をメディア化すると宣言して全国の店舗へ店内モニターを設置し、そこへ放映するオリジナル番組を制作する仕事を手伝いました。店内で食事する客の平均滞在時間25分に合わせて映画や音楽、スポーツ情報等とCMで構成してループで放映する仕組みで、どこから観始めても食事中にだいたい一通りを“ながら視聴”する計算です。メディアのビジネスとしての面白さとは別に、この仕事を通じて生活シーンに応じた情報体験の作り方を考えるきっかけになりました。映像制作者の出番がもっともっと増える予感がしました。

フィルムが無くなる?!

入社当初から普段仕事で使うビデオカメラはHi8のアナログビデオカメラでした。1995年、インターネットブームと同時期にソニーからデジタル(DV)規格の家庭用ビデオカメラVX1000が発売され、その評判を聞いて会社で1台購入してもらい、試し撮りしてビックリしました。業務用のビデオカメラもまだアナログの時代で、これはハイエンドながらも家庭用のビデオカメラです。普段見る社内の様子、窓から観た景色、Hi8で撮ったものとはまるで画質が違います。デジタルなので編集やコピーをしてもほとんど劣化しません。(もしかしたら今どき世代はコピーすると劣化するという感覚すらないでしょうか?)

つい、「これでフィルムが無くなる!」と叫んでしまい大ヒンシュクをかいました。そんなわけ無いだろうと怒られました。そのくらい当時のCMはフィルム撮影が当たり前で、フィルム面の持つ情報量を全て電気信号に置き換えることなど不可能というのが常識でした。確かに情報量はフィルムには及びませんが、当時はあらゆるものがアナログからデジタルへ置き換わっていっている時代です。自分の仕事の領域でテクノロジーの進化する方向が見えた瞬間でもありました。

さらに1998年にはTRV900が発売され、ちょうど始まろうとしてたCSデジタル放送の番組制作のために(確か)5台購入し、カメラマンだけでなくディレクターとPMもこのカメラを持って撮影するチーム編成で国内外のロケに行きました。パソコンの編集ソフトも性能が良くなり、ディレクターが一人で撮影から編集までこなす映像制作スタイルが始まった頃でもありました。市販の民生機なので学生も使い始めていました。デジタル化によって参入障壁が下がった例の一つです。

当然のことながら業務用のデジタルビデオカメラも性能が上がっていき、2002年には長編で初めて完全にデジタルで(フィルムを使わず)撮影されたスターウォーズの新作が公開されて話題になりました。撮影技術のデジタル化は止まらず、パズル設立後の2008年にはキヤノンからEOS 5D Mark Ⅱが発売されます。さっそく購入して、これからはこれがパパやママが撮るホームビデオの画質になるんだねと話したりしてました。このセミプロ向けの民生機であるデジタル一眼レフカメラの登場によって撮影環境は激変し、パズルの仕事にも大きな影響を与えました。

一人二役、三役は当たり前

「続きはwebで。」とマス広告と連動するwebコンテンツをCMと一緒に作りながら、web制作のスタッフは仕事をカバーする範囲が広く、一人何役もの役割を持つことが気になっていました。当時のwebデザイナーはコーディングもすることが一般的で、実制作の前の企画や設計も担います。

CM制作は役割分担が細分化されて関わるスタッフの人数が多く、責任の範囲もはっきりしています。一方、web制作では役割分担が明確になっていないことが多くて、少数精鋭というよりも分かる人やできる人が他にいないから全て少人数でやるしかないような状態です。しかも若い。広告業界にある大人の事情を消化しきれず困ってしまう若手も多く見てきました。

パソコンさえあれば誰でもできると言われて多くのweb制作者が誕生しましたが、一人ひとりへの負荷が高いことはリスクにもなりました。実際に完成間近で体調を崩して納品に支障が出るケースもありました。過渡期だから仕方がないとは思えず、この未熟で不完全な状態をどうにかできないかと考え、CM制作の体制や進行管理の方法をweb制作にも持ち込みながらチームのあり方を模索していました。

ただ、この状態を前向きに捉えれば、やりたいことがある人は何をやっても良いとも考えられます。CSデジタル放送の番組制作の時に全員でカメラを回したことも良いきっかけでした。自分の仕事の範囲を肩書きで制限せず、むしろ役割をカバーし合いながら制作することの面白さを感じていました。web制作ではデザインやプログラミングは充分にできなくても、企画や構成、表現のディレクションなど、映像制作出身でもできることはたくさんありました。

もちろん納品するクオリティへの責任もあるので生半可な仕事はできません。勉強も練習も充分にするのですが、パソコンやDVカメラなど仕事に使う機材はすでに民生機なので誰にも使いやすくできていて習熟は早いです。しかも全て家電量販店で買えます。これからのプロダクションは金銭的な元手が必要なくなります。そして50年ぶりに商法などが大改正されて新しい会社法ができ、会社も作りやすくなりました。環境は整いました。

パズルの設立趣意

ミッション
インターネット時代にあるべき広告制作会社になること。
インターネット時代にふさわしい表現と手法を追求すること。
インターネット時代に活躍する制作者を育てること。
インターネット時代の制作者として喜び楽しむこと。

このwebサイトに掲載しているパズルのミッションは内部向けの設立趣意を外向けへ少し言い換えたものです。上述の通り、2006年の当時はインターネットとビジュアルコミュニケーションの発達でビジネスのスタイルが一新されると予想され、街中のあちらこちらに映像が溢れ始め、デジタル化によって撮影技術に変革が起きていました。そして、マス広告が届かなくなっているのではないかと広告業界には不安感が募り、制作者にとっては少し重いムードを感じられました。時はテレビ時代からインターネット時代への変わり目でもありました。

以下はミッションの元となった2006年の設立趣意です。本文はもうすでに古さを感じます。

【これからの映像プロダクション】

これまで試行錯誤してきたインターネット時代のCMプロダクション・プロトタイプは、試行段階を終え実施段階へと進みます。TV-CMを含む映像コンテンツは様々な広告のタッチポイントに現れ、webコンテンツ上の表現は加速度的に映像化しています。我々のコンテンツ制作スタイルは、従来の方法論を引き継ぎながらも多様化するニーズに応え、また提案性のあるものでありたいと考えます。そして収益構造の大きく異なる映像制作とweb制作のビジネスを合体したモデルの構築を目指していきます。

CM制作とweb制作を同時にするチームを次世代プロダクションのプロトタイプと位置付けていました。パズルはインターネット時代にますます多様化する見たこともない表現のアイデアを実現するためのプロダクションとなることを目指しました。また、映像制作に特化したCM制作会社ではどうもweb制作がしづらい面があると考えていて、そこを最適化する狙いもありました。

【インターネット時代の広告制作】

パズルのフィールドはあくまで広告業界です。その広告業界も大きな変革の時期にあります。インターネットの加速する普及について、しばしば産業革命中と表現されますが、様々な産業において業態の在り様が変化しています。それにより生活者の行動様式にも変化は起こり、広告もまた変化し続けています。重要なのはアウトプットの変化ばかりが注目され、プロセスの変化にアイデアが回っていない現状の改善と考えます。インターネット的思考によれば時間や距離のボーダレスという変革が広告制作プロセスにもっと反映されて良いと考えます。アウトプットの自由度が広がる中、プロセスの自由度も広げていくことを目指します。

今のパズルは広告制作だけでなくさらに活動領域を広げています。ただ領域がどうあれ、テクノロジーを駆使して従来の方法にとらわれない自由な発想で作り方をつくることは変わりません。設立後間もなくスマートフォンが登場し、EOS 5D Mark Ⅱが発売され、普段の生活も制作環境も一変しました。そしてその時期にパズルにとって転機となる代表作をいくつも作り続けました。これからも変化に敏感でありたいと思います。

【次世代の人材育成】

CMプロダクションのインターネット時代におけるサクセス・ストーリーはこれまでのTV時代のサクセス・ストーリーとは異なると考えます。広告業界も黎明期から成長期、成熟期へと産業の成長プロセスを辿ってきた経緯があり、我々が共有できた成功事例の多くは成熟期に起きた現象と考えられます。このインターネット時代に成長プロセスの一部は衰退期へ移行し、新たな分野が黎明期から成長期へと移行しています。その分野が成熟する前にその時代におけるスター(成功者)を今から育成していきます。その候補となりうる者は10代の頃からインターネットや携帯電話のある生活をし、デジタル技術を皮膚感覚で享受してきた世代、つまり今の20代前半よりも若い世代です。その世代から向こう10年間を見据えてスタープレイヤーの輩出を目指し、グループとしての独立支援をしていきます。

まだデジタルネイティブという表現がありませんでした。その世代が消費の中心となった頃、その時代にふさわしい感性を持つ人材を育てること、これが最も重要なミッションと考えました。これからも変わりつづける時代を見届けるために個々人が“世代の役割”を果たしながら組織も適切に新陳代謝していく必要があると考えていました。まだシニア層がいないデジタル領域でのキャリアのあり方も考え始めていました。

また、一社で拡大して規模のメリットを目指すことはこれからの時代に合わないと考えていました。インターネット時代は“個の時代”でもあり、個々の繋がりが組織力よりも強くなるケースもあると思います。有能な人材は独立を支えながら関係を続けて、ゆるやかなグループ体となることがこれからの潮流と考えていました。当時はまだ“シェア”という価値観が殆どありません。古いタイプの組織で育った自分とは違う、新しい感覚の人材を育てたいと思っています。

【制作者意識の原点回帰】

いつの時代においてもモノを作ることの根源的な楽しみや喜びは変わらないはずです。時代の変化に振り回されたまま疲弊しているばかりではその喜びを実感することが難しいと考えます。パズルではスタッフがポテンシャルを100%発揮できる環境を作り、仕事の充実感を持ち続けて、楽しみ続け、共に喜び続けられる会社作りを目指します。そのために社員にはモラルを高く持ち続け、お互いを尊重できる関係作りを求めます。我々は純粋なプロフェッショナルであり続けることを目指します。

時代の変わり目で多くの広告制作者が不安を感じ、疲れ、好きで始めたはずの仕事に自信を失っていたようにも思いました。そこで、少なくとも自分たちはどんな困難な状況にあっても楽しんで面白がる気持ちを持ち続けたいと考えていました。新しい仕事の仕方を柔軟に取り入れながら、これからのプロフェッショナルの姿を示していきたいという気持ちでした。

完成形のない会社

これら設立趣意を掲げてパズルはスタートしました。以来、一人ひとりが最新状態を保って最高のクオリティを目指すこととしています。個人としても組織としてもアップデートを続け、時代の変わり目にはためらいなく変われるように心がけていきたいと思います。そして、どんな時代であってもその時代に必要とされる人材を輩出し続けることを目指します。

会社説明会で学生から「御社のビジョンは?」と質問されたら「無い。」と答えます。「強いて言うなら、完成しないこと。」とも。変わり続けるためには将来像をあまり具体的に定義しないことも大切かなと思います。好奇心の趣くまま、面白いと思うこと、やりたいと思うことを、次々と純粋な気持ちで取り組める会社であり続けたいし、そんな志向の制作者を育て続けたいと思います。

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2006年当時の設立趣意書です。

将来像を示さないままでは無責任で何でもありの会社と思われるかもしれません。パズルを作った当人としてはそれはそれで良いと思っていて、一人ひとりがなりたい者になること、それが設立趣意の核心であると思っています。

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