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オフコース愛を止めないで!【5】NHK「若い広場」でみる、メンバーの素顔

突然「オフコース沼」にはまった 1976年生まれの著者がお送りする、連続コラム【オフコース愛を止めないで!】

【1】すごいのは小田和正さんだけじゃない。隠れた名曲「きかせて」で、その魅力にはまる
【2】大ブレイクの5人時代。強すぎる「Yes-No」の歌詞と「さよなら」の本当の魅力
【3】80年代シティポップもあり?名曲、英語曲多数。聴かなきゃもったいない4人時代
【4】1982年解散騒動、伝説の武道館コンサートから40周年。改めて解散について考える
【5】NHK「若い広場」でみる、メンバーの素顔 ←今回はこちら

※他の回は、下記リンクよりご覧いただけます

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「若い広場 オフコースの世界」って何?

「若い広場 オフコースの世界」は、NHK教育テレビ(現Eテレ)で1982年の1月に放送された、単発ドキュメンタリー番組。前年12月にリリースされたアルバム「over」の制作過程を記録している。
放送から約20年経った2001年に、担当者の熱意によりDVD化されたという。

アーティスト・ドキュメンタリーの傑作

約40年前の、しかもNHK教育テレビのドキュメンタリー。バラエティ色はゼロで、余分な演出は一切ない。ナレーションすらない。話してることを補うようなテロップもないので、何度もリピートしないと、何を話しているか聞き取れないことも。いくつかインタビューはあるが、スタジオでのトークもない。
そんな超シンプル設計だけど、ファンにとっては、観るほどにみどころ満載。今や映画のように、お気に入りのシーンがいくつも。
アーティスト・ドキュメンタリーの傑作、と個人的には思っている。

撮影時期

撮影時期は、アルバム「over」が製作された1981年の8月~10月。【4】でふれた通り、オフコースが解散騒動に揺れながらもバンドとしてはまとまりを見せ、充実していた時期のこと。

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レコーディングリハーサル

レコーディングリハーサル1 初日

曲を先に作る、いわゆる「曲先」で、編曲も自分たちで行っていたオフコース。番組の前半は「MACスタジオ」で、曲の演奏部分(カラオケ)を制作する。
作曲の担当者(小田和正さん、鈴木康博さん、松尾一彦さん)が作った曲の原型に、皆で演奏しながらアレンジを考えていく。

派手さもなく、粛々と音楽に向き合う姿が映されていて、音楽のことが全くわからない私が見てもとても面白い。ピッとしたいい緊張感が漂っていて、とてもかっこいいと思う。音楽は特殊な業界だけど、やはり物づくりの現場なのだなぁと思う。

かと思うと、あれこれ雑談する場面も出てくる。鈴木さんが、観た映画の話なのか何か、楽しそうに話す場面も。この話の説明は全くなく、残念ながら何を話しているのかよくわからない。でも、笑顔で話す様子が、なんだかとってもうれしくなる。
そして鈴木さんがギターを弾く姿は、完全に「素」なレコーディング中なのに、本当にかっこいい。

画像はイメージです

レコーディングリハーサル2

1と同様のレコーディング風景だが、ここでやっとメンバー紹介のテロップが入る。
「目の前に開けていた建築家の道を棄て、音楽の世界へ飛び込んだ」などという紹介とともに画面に映る小田さん。かっこよさにびっくり。

小田さんはずっとコンスタントにメディアに出ていて、現在の姿を見慣れているから、ちょっと衝撃を受ける。声と体力は超人的なんだけど、現在の風貌は、とても自然に歳を重ねているようにみえるので。
小田さんも鈴木さんも、素の姿がステージと同じくらいかっこいいってすごい。ちょっとした身のこなしとか。やっぱりスターなのだ。

メンバーの皆さんは引き続き、淡々と制作に励んでいるが、ちょっとした議論の場面がある。アルバムの曲構成に関して、小田さんがあれこれ迷っている所にメンバーが意見する。【4】に書いたような解散騒動のあれこれを知っていると、何となくピリピリした雰囲気にも見えてしまうけど(特に小田さんと鈴木さんの間が)、健全な意見交換の範疇ともいえる。
この場面でも、若い三人のざっくばらんな調子はとても和ませてくれる。最年少の松尾さんと大間ジローさんの、軽口やちょっとしたおふざけもいい感じ。「Give Up」で読んだような場面が実写で観られ、ファンにはたまらないのだ。

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ライブ映像

いくつか挟まれるライブ映像もとても貴重。「若い広場」に収録されているライブ映像は、1981年2月10日の武道館公演のものを使用している。
ライブ映像と、気取りのまったくない制作風景と、ハレとケ、という感じでどちらも引き込まれる。

愛を止めないで

番組のオープニングが、いきなりこの「愛を止めないで」のノーカットライブ映像ではじまる。よくぞノーカットでみせてくれた!と、ファンとしてはうれしくなる。

Yes-No~のがすなチャンスを

「Yes-No」オープニングのトランペット。往年のファンの中には、このトランペットが欠かせないという方もいるよう。私にはとても新鮮。

「Yes-No」から「のがすなチャンスを」へとつながる部分の、大間さんのドラムソロが圧巻。大間さんは雑談場面では、温厚でバランスのよさそうな人柄を感じるけど、演奏する姿は情熱的で、ギャップがとても魅力。

その後「のがすな」のオープニング。ギターが印象的で、ちょっと宇宙っぽいサウンドがとてもかっこいい。
同じ鈴木さん作の曲でいえば、終盤部分の、空港へ移動するシーンで流れる「メインストリートをつっ走れ」も硬派でいい(このシーンにピッタリというのもある)。小田さんの曲を清水仁さんがディレクションしていたように、鈴木さんの曲は大間さんがディレクションすることが多かったよう(作詞などに大間さんの名前がクレジットされているものもある)で、この二つを聴くと、お二人のカラーを色濃く感じる。これももちろん、5人オフコースの個性の一つだった。

画像はイメージです

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ボーカル・コーラスレコーディング

番組後半は「フリーダムスタジオ」で、前半完成させた演奏部分に、歌をレコーディングしていく。

哀しいくらい

とても好きな場面のひとつが「哀しいくらい」のボーカルレコーディング。これはファンにとってお宝映像、といって間違いない価値がある。
それはこの映像で歌われてるのが、実際世に出ている「哀しいくらい」とは微妙に違った、仮歌版だから。
仮歌版を(ディレクションする清水さんの言葉を借りると)「探り探り」歌いレコーディングに臨む小田さんの姿は、とても貴重だ。

そしてその後小田さんが、清水さんに隣で見守られながら歌詞の仕上げに入る場面も面白い。
あれこれ書きなぐったメモを見ながら「君の間違いは…僕の間違いは…で来てるから」と歌詞を練る。そして「でもやっぱ、別れ歌あんまかきたくないしな」とつぶやく。

鈴木さんのこともあり、これ以上悲しい別れの歌は書きたくない、という気分だったんだろうか。いや、冷静な小田さんのことだから、単にアルバム内でのバランスを考えて、別れの歌はもういらない、ということだったんだろうか。
どちらなのかわからないけど、とっても興味をひかれてしまう。

画像はイメージです

「哀しいくらい」はとても切ないメロディなのに、別れの曲ではなかったのだ。たしかに最後「幸せになれるね」と言っている。ますますこの曲が大好きになった。

愛の中へ

とてもメロウでキラキラしたサウンドの「愛の中で」。このコーラスレコーディング場面は、鈴木さん、小田さんの美しいハーモニーを堪能できる。でもこの場面は、曲とは対照的に、とてもクールに撮られている。
歌の流れを確認する鈴木さんと、説明する小田さん。適度な緊張感のある物づくりの現場という感じがする。
美しいハーモニーと、物づくり的なクールな場面の対比がとても面白い。

そして音楽とは関係ないところで、好きなシーンがある。
本格的に歌い始める前に、鈴木さんがスタッフにコーヒーを頼む。
鈴木「コーヒーを。」
小田「私も」
鈴木「コーヒーをふたつ」
…結局、コーヒーはすぐ出せないとかでぐだぐだになるのだけど。
コーヒーください、コーヒーお願い、とかじゃなく、「コーヒーを。」なんだな。洋画みたい。この時代って、30代でもこんな大人でダンディな雰囲気を出せたんだな。

そして、この時既に袂を分かつことが決まっていて、おそらく心が通い合ってるともいえない状況だったのに、この時のお二人の出してる空気感がすっかり同じだった。「しっくりなじんでる」とはこのこと、というくらい。
これがずっと一緒にやってきたお二人の、理屈じゃないつながりの深さなんだな、と思った。

鈴木さんの代わりはいない、と最終的に解散を望んだ小田さん(というのは私の見立てだけど。詳しくは【4】を参照)。その気持ちが、少しだけど理解できた気がした。

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終盤部分

写真撮影

シングル「言葉にできない」のジャケット撮影。メンバー5人が並んでほほえむ写真。メンバーがふざけてじゃれ合いながら、口々に冗談を言いながら、カメラの前に立つ。
「これ証拠写真になるね、撮影に協力してるって」「オフコースは機嫌悪くありません」「オフコースは愛想悪くありません」

こんなに自然体で、軽口を叩きながら撮られた写真だったんだな。この写真は、40年経った今でもいろんなところで目にすることができる。

エンディング

エンディングは、「over」収録の「言葉にできない」がBGMになっている。

生命保険のCMで採用され、今よく聴かれている「言葉にできない」は、後年出た小田さんソロのもの。小田さんのピアノと、ストリングスの音色と、何より年輪を重ねた小田さんの、圧倒的な歌声がすばらしい。
小田さんは、フォークシンガーからロックを経て、いまや日本を代表するソウルシンガーになったんだなぁ、と、この曲を聴くと思う。

「若い広場」エンディングで流れるオフコースの「言葉にできない」は、これとは全く違う。歌っているのは同じ小田さんだけど、年輪を重ねた大人の圧倒的な歌ではなく、青くて苦い、青春の味がする「言葉にできない」。ストリングスではなく、松尾さんのハーモニカが印象的で、はかなくて哀しくて美しい。
「言葉にできない」はいろんな人がカバーしているけど、この曲はできればずっと、小田さんとオフコースのものであってほしいなと思う。

終わりに

「若い広場」を観終わって

「若い広場」を観終わってしばらく、40年前の世界から戻りたくないような、世知辛い(?)令和の現代にぽつんと放り出されたような、不思議な感覚になった。誰かに感想を話したくて、仕方なかった。

40年前のオフコースファンの若者たちは、この番組を観た後どうしただろう。
やっぱり誰かに感想を伝えたくて、友達と長電話をしたかもしれない(ネットもSNSもない昭和時代、直接会えない時の友達とのコミュニケーション手段は、電話か手紙しかなかった)。
レコードショップに「over」を買いに走ったり、ファンクラブに入会したり、どうにかしてツアーのチケットを入手できないかと奔走したかもしれない。
私はどれもできないけど、ここ数ヶ月オフコースにはまることで、40年前の若者の疑似体験をしたんだなぁ、と思った。

40年前へのタイムトラベル

オフコースの数々の曲を聴いて、「若い広場」を観て、関連の本も読んで、どっぷりオフコース沼にはまり、40年前の世界をタイムトラベルしてみて。
この時代はやはり勢いがあって面白い、と思った。だから私は、80年代の音楽が好きなのかもしれない。

オフコース沼にはまだ片足をつっこんだままなので、時々また語り出すかもしれません。その時はよろしければどうぞ、おつきあいください!

オフコース愛を止めないで!【終】

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