24枚目「 雨の日の煙草 」

今年は梅雨が早く来てしまったのか
暫くの間雨が続いていたが

近頃は晴れの日が多く
どうやら落ち着いたらしい

ただとても暑いので
じっとりと汗が滲む


雨音や雨自体は比較的好きなのだが
雨の降り続く間は気が滅入ってしまう

傘を差しながら水溜りを踏む
大きく息を吸いこみ肺がゆっくり膨らむ

普段とは違い湿度が高い分
肺の膨らむ感覚がより鮮明に分かる(気がした)

今となっては吸わなくなった煙草が
少し恋しい気もする

過ぎてしまったかもしれない梅雨を
思い出にして更に過去を思い出す


世間を賑わす病が流行りだした頃
無職だった私はよく川沿いまで傘を差し

流れを眺めながら
一服するのが日課だった


湿った空気と小さな火が
煙草の先を焦がす音は雨音に掻き消され

湿度をまとった煙が
質量を得たかのように肺を満たす

煙は口から吐き出されると
雨に打たれてうねうねと形を変えては消えていった


その様を今でも
ふとした時に思い出す

一本の煙草に押し込められていた
実体を持たない何かが解放されたようで

私の口から出ていくそれらは
私の思いを連れて行ってくれたのだろうか

思いは雨に打たれて溶けていき
言葉は雨音に混ざりあって

どこか遠くの方まで連れて行ってくれと
そんなことを今でも考えることがある

その逆も然りで
雨は誰かの声を運んで来ているのかもしれない

そう考えると地面を叩く無数の雨音も
更に愛しく思える気がする


今は煙を吐くことは無く溜息を吐くことが増えたが
この溜息をも溶かして運んでくれるだろうか

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