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月は世々の形見

月はいつも変わらずにそこにある。
どれだけ世界が変わってしまっても必ず。

あのときどうしてうんと答えられなかったのだろう。

あのときどうして素直に好きと言えなかったのだろう。

どうして嫌だと言ってしまったんだろう。


そうしなければもっと楽しい時間を過ごせたのに。


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「ねぇ」


「どうして郷愁って言葉には秋が入っているんだと思う?」

きみは静かに、抱えた自分の膝に頭をコテッとのせながら問いかけてきた。
それがきみとの出会いだったね。

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昔おじいちゃんが教えてくれた。
「お月さんはね、昔からの贈り物なんだ。」
「今まで私達を照らし続けてくれている。」
「だからお月さんに願いごとをした人もいたんだよ。」
「どうしても叶えたいことがあったらお月さんにお願いしてみるんだよ。きっと答えてくれる。」


ぼくは月にお願いをした。

どうかこの恋を叶えてください、
彼女と一緒に笑っていたいだけなのです。彼女の笑顔を一番近くでずっと見ていたいのです。と。
おじいちゃんの話は本当だった。



いろんなことがあったけど
本当に楽しい時間を一緒に過ごした。
安いアイスクリームを半分こして食べたり
映画館で大盛りのポップコーンセットを買ったら案の定食べ切れなくて笑ったり
休日の公園で遠くの子供連れの家族がゴールデンレトリバーとフリスビー投げをしてるのを見たり。
だから、こんな夜はお月さんに願わずにはいられないのである。

「どうか、どうかもう一度だけ彼女が笑った姿を見たいのです」


いくら歳をとっても、こんな月がきれいな、
汚したいと思えないほど澄んだ空気の夜は願ってしまう。

彼女が亡くなってもう十三回忌。
お月さんは確かに色んな人の想いを受け取っている。
けれどもその願い全てが叶うわけではない。

月は誰かの叶わなかった想いも背負う。
そうして月という存在は昔から受け継がれてきたのだ。
また私も身勝手に想いを託す。

どうかもう一度だけ彼女が笑った姿を見たいと。

だから月は誰かの形見なんだ。


思い出すあの日のこと。


「愁いという字に秋が入ってるのはね?」




「秋がそういう季節だからよ。」


月は夜々の形見最終


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1.あれば嬉しい。なくても別に問題ない。ちょっと自由がなくなるだけ。 2.あったらあったで意外と困る。暇してるときに無駄に使いがち。 3.使えばいろんなものが手に入る。何をするにも必要。 以上、『時間』の説明でした。