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総合格闘技としての「事業承継支援」


診断士の研究会には「事業承継」と名のつくものがたくさんあります。それだけ中小企業界隈では事業承継がホットな話題になっているのでしょう。僕自身、中小企業政策研究会の中の「事業承継研究会」に所属しています。また「事業承継マネージャー」の資格も取得しました。

過日、板橋中小企業診断士協会(板診会)の中の「事業承継研究会」に呼ばれて1時間ほどお話をしてきました。支援事例もほぼなく、診断士のみならず弁護士や行政の方も参加している会と聞き、僕が話すのはおこがましいと思ったのですが……高校の後輩である診断士からの依頼だったので断れなかったのです(苦笑)

■事業承継の現場から

「事例について話をして欲しい」
との依頼でしたので、現在進行形で関わっている案件(具体名は特に秘す)について、言える範囲ギリギリのラインまで話をしました。また、ライターとしてインタビューをした二代目社長から聞いた話も手短にお伝えしました。

それほど多くの支援事例に関わっているわけではないので話せるネタが少ないのが今回の事例を取り上げた大きな理由です。しかし、もう一つ理由があって、それは「書籍に出てくるようなオーソドックスな事例でない」からというのもありました。

当初は「オーソドックスでないから参考にならないのではないか」と思っていたのですが、自分の経験やインタビューで聞いたこと、診断士仲間から聞く事例などからオーソドックスである方が希だと感じたのです。事業承継の形は千差万別です。一つとして同じ形はありません。一定の共通点はあるものの、そこに着目しすぎると痛い目にあいます。常にオンリーワンの案件として取り組む必要があります。

だとしたら、自分が関わっている事例を紹介し、その中でどんな問題が起き、どんなことに悩んでいるのか、赤裸々に話をした方がいいと思ったのです。学べることは形ではない。取り組む姿勢や心構えだと考えました。

■総合力を問われる

診断士試験は、広く浅くの知識を求められます。合格者は、幅広い分野に関する知識を一定程度、身につけているはずです。その上で、自分の得意分野を磨いて、「売り」を作っていきます。マーケティング、ファイナンス、IT、生産管理や物流などそれぞれの専門分野を持つようになる人は多くいます。

事業承継に取り組む場合、これらほとんどの知識が要求されます。その上、多くの利害関係者が絡みますから、コミュニケーション力-聴く力、伝える力など-が絶対に必要です。なにより「寄り添い、向き合う」覚悟が求められるのです。

「診断士にとって事業承継は総合格闘技だ」
と言った人がいます。素晴らしい喩えだと思いました。パンチだけならボクサーが得意です。キックは空手家やキックボクサーが強いです。投げ技なら柔道家だろうしタックルから寝技ならレスリングが有利です。総合格闘技の場合、これら全部をこなせないと闘えません。

むろん、得意分野を持つことは有利に事を運ぶ秘訣です。しかし、それだけでは勝てません。パンチが得意なのはいいですが、それだけでは、組み付かれ寝かされたら終わりです。関節を取られて早々に負けてしまうでしょう。

事業承継も同じだと感じます。相続という税務もあれば、法律上の問題もあります。親族間の人間関係を整理するための力も必要です。

時に、税理士や弁護士・司法書士などの専門家の力を借りながら全体を取りまとめていくのが診断士の役割だと思っています。そのためにはあらゆる分野に、ある程度、精通しないといけません。まさに「総合格闘技」です。
事業承継に対処できるようになれば、おそらくどんな案件でも対処できるようになると思います。それほど幅広く奥が深い分野です。

■先が見えないから楽しい

診断士に成り立ての頃の僕は、「再生とか承継には関わらない」と考えていました。怖いと思ったからです(苦笑) しかし、勤務先の事業承継が待ったなしになったこと、会社の上の方からは当然のように「診断士だから承継のこと、よく知ってるよね」という雰囲気を醸し出されたことなどから、避けて通れないと覚悟を決めました。ですから、事業承継マネージャーの資格も取りました。

勤務先での機会を活かして、診断士としての幅を広げるチャンスだと捉えました。同じく勤務先で「やらされている」財務・会計を切り口に、事業承継の分野で成果を出したいと思っています。

6年前から見ると、ずいぶん遠いところにきた気がします。先が見えないから人生は楽しい(笑) 

後継者の方にも「継ぐなんて考えていなかったかもしれないけど、想定外のことが起きるから人生は楽しいのだよ」と伝えられるようになりたいと真剣に思っています。 

*事業承継ってどんなこと? と思った人はこの動画を視てください。


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