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この絵はこの童話から生まれました  ──童話の世界をアートに [第64回]


小川未明 「金の輪」 礒部晴樹・画


小川未明 「金の輪」
 
小川未明の童話「金の輪」はごく短い作品です。
文庫版でわずか4ページほどですから1、2分で読めるショートショートです。
しかし一読、印象深く、心にささります。
 
あらすじです。
太郎という病弱で長く寝ていた子供が、ちょっと具合がよくなったとき、起きて家の外に出てみました。
ポツンと立っていると、道のむこうから知らない少年がひとり、輪まわししながらやってきました。
金色に光るふたつの輪を上手に回し、輪と輪がふれて鈴のようないい音がしています。
少年は太郎の前をとおりすぎるとき、なつかしそうにちょっと微笑しました。そしてそのまま道のむこうへ消えていきました。
次の日も、おなじ時刻、またあの少年が通りかかり、きのうよりももっとなつかしそうに笑って、なにかいいたげのようすだったのですが、そのまま行ってしまいました。
太郎は、あしたこそその少年に話しかけて、友達になろうとおもいました。
しかし、また熱がでてきて、2、3日して七つで亡くなりました。
 
これがあらすじです。
あらすじというか、ほとんどメインストーリーです。
もし、太郎と少年が、口をきいて、
「どこから来たの?」とか、
「どこまで行くの?」などと話したら、
この作品はたちまち凡庸な童話になっていたでしょう。
会話がなく、本筋だけで些末な要素などないから、
なにか象徴的なおもむきが現れているのです。
「目は口程に物を言う」といいますが、
なにも話さないからこそ、心ひかれてしまうのでしょう。
 
少年に輪をひとつわけてもらい、
ふたりで、赤い夕焼け空のむこうまで走っていく夢を太郎は見ました。
夕焼け空のむこうはどこなのでしょうか。
この夢の場面を絵にしてみました。
ふたりで輪まわししながら、E.T.の映画の一場面のように、
夕焼け空のかなたに飛んでいきます。
原作の神秘的、深く象徴的な感じをあらわせたか、
ちょっと自信がありません。

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