見出し画像

司法試験って圧倒的に「理系」の試験な話

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。

一般的な民事事件・刑事事件全般のほか、スポーツ選手・団体の法務や、SNS利用のコンプライアンス講師、テニス練習会の主催なんかをしています。

今日は、司法試験って圧倒的に「理系」の試験な話をします。

色々な資格雑誌などで、弁護士のことを

『文系最高峰の資格』

とか、司法試験のことを

『文系最難関の試験』

と紹介されています。

皆さんも聞いたことありますよね?

でも、実際のところ、司法試験は、もっと言うと法律学は、おもっきり『理系』です

ですので、数学から逃れるために、英語・国語・世界史の3科目を主戦力とした入学試験で、大学の法学部に入り

就職活動よりもテニスを優先したばかりに、機会を逸して、法科大学院に間違って進学した私には

かなーり辛い勉強になると思われました。

(ところがどっこい、たまたま私は、論理的な思考、楽しかったんです。)

ちなみに、今でも数学は大の苦手で、他の先輩方が、パーセンテージ計算をサクッと暗算でしたり、損害賠償の計算をサクサク行うのを尻目に、Excelに寄り掛かり、たまに、せっかくの計算式を壊してしまって、事務局さんから「エクセルクラッシャー」と揶揄される始末です。

論理的な思考や文章のコツは、自分の意見に反論可能性があるかどうかで測れます。

つまり、何個かルートがあるうちの、どこか一つをこれこれこういう理由で取りますよと説明する行為。

例えるなら、目の前に3本の道があり、1本目のルートは、たしかに目的地まで最短だけれども、途中渡り切るのが困難な激流の川があるため、このルートは取らない。

2本目のルートは、目的地まで最も遠いので、取らない。

3本目のルートは、目的地までは1本目と2本目の中間の距離で、途中、砂漠地帯があるものの、自分の装備的に枯渇を乗り切れそうだからこのルートを取るというものです。

水を装備していない人からは、「3本目のルートは砂漠があって渡りきれないので、取り得ない」と批判されるかもしれませんし

あと数日の命の人からは、「3本目のルートでは、目的地にたどり着く前に死の可能性がある」と批判されるかもしれません

これが論理的思考が上手くいった時です。

つまり、「批判できない」文章や思考は論理的ではないことが多いのです。

実際の事件では例えば、

交通事故に遭ったせいで、働けなくなった

という命題は、場合によっては批判できますよね

例えば、交通事故に遭う前から、退職予定で、退職届で準備していたじゃないか

とか。

思考回路としては逆順でたどります。

「働けていない」という事実を固める

「働けていない」直接の原因は、出勤していないこと

出勤していない理由は、、、?

ここでルート分けができます。

①交通事故の怪我のせいで物理的に動けない

②交通事故の怪我のせいではなく、退職寸前で稼働してない

で、被害者の弁護士としては(もちろん、嘘はつけませんが)、②だったとしてもこう文章にします。

「被害者は、たしかに、退職予定ではあったものの、〇月〇日(事故日)時点においては、会社と退職の合意に至っておらず、翻意して退職しないこともできたものである。

加えて、被害者は、当時45歳であるところ、△社の定年は、65歳で、さらに、希望すれば再雇用を70歳まで続けられる可能性も存在した。

このような状況下において、単に退職届を準備したことのみをもって、被害者を実際に退職した者と同様に取り扱うことは相当でない。

仮に、このような場合にまで退職したことを前提と認定してしまうと、いつ退職をしてもいいように退職届を準備していた場合にすべからく休業損害が認められなくなって不当である。」

※あくまで作り話で、実際にはこんなこと、ほぼあり得ないと思います。

どうですか?なんとなくそうかも?と思いましたか?

でも相手からは、

「事故日時点において、被害者は既に稼働しておらず、実際の退職日までの仕事も割り当てられておらず、出勤日も設定されず、賃金も、数日前までの計算で終了することが合意されており、既に退職合意は〇月〇日時点で成立していた。

退職届の提出は、単に自己都合にて退職をしたことを証するための手続的な行為に過ぎない。」

とか反論されると思います。

これで良いのです。こうなると争点は、退職の合意がされていたかどうかに集中し、その周辺事実として、いつまで会社に来ていたか/来る予定だったかなどなど、焦点が定まります。

正しく、批判できないパターンはこんな感じ

「被害者は、本件事故により、△△の傷害を負い、稼働不能となったことは明らかである」

これだと、△△の傷害は、被害者の業務上致命的で、配置転換なんかも難しいから働けないという前提なのか、先程上に書いたような、既に退職合意をしていた風の事実関係をもとに主張しているのか、はたまた別の理由なのかわかりません。

こんな感じで、論理的な思考は、複数のルートのうちどこを通ったかを説明する問題です。

懐かしの数学で、「逆」「裏」「対偶」とかやりましたよね?

あれを駆使します。

なので司法試験はおもっきり理系なのです。

個人的には、その先がありまして。

文系・理系というラベリング自体は、大学の入学試験科目を設定する時以外に、何の効力も発揮しないと思っており、さっさと廃止したほうがいいと思います。

ヒトは、代表性ヒューリスティックと言われる、物事の一つをその人や物事と強く結びつける傾向にあるらしいので。

理系と言われると、突然、研究室にこもって研究する職業だったり、エンジニアさんを思い浮かべ、文系と言われると営業マンとしてあちこちで宣伝をして商機をうかがうというのは、いうまでもなくて誤解でしかない。

偏見以外の何者でもないので、さっさと撤廃すればいいのに・・・

以上、司法試験って圧倒的に「理系」の試験な話でした。

では、また。

記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。