トロピカルな計算練習(13)

さて、前回はこのnoteでもはじめて「よくわからん」と言い逃れしましたが、今回からはというと、トロピカルのグラフに戻ります。
嫌なことは忘れます。

今までは一変数のトロピカル多項式をグラフにしてきたのですが、今回からはしばらく二変数のトロピカル多項式のはなし、そしてそれをグラフ化していこうと思います。

むしろトロピカル幾何というと世間ではこの話がメジャーなんだと思います。
むしろ今まで12回もみんなを脇道に連れ込んでたんですね、コイツ最低だな。


一変数多項式といいますと、変数を$${x}$$として、

$$
F(x)=\displaystyle\sum_{i}a_i x^i
$$

と書けるものでしたから、トロピカルの場合、以下の対応でこれを書き換えたんですね。

・積は$${\otimes=+}$$にするんですよね?
・トロピカルな冪乗はただの掛け算になったから、$${tp(a^b)=a\times b}$$ですよね?
・$${+}$$は$${\oplus}$$なんだから、$${\displaystyle\sum_i}$$は$${\displaystyle\bigoplus_i=\max(\;\;\;)}$$ってことでしょう。

ここで出てきた$${tp(\;\;)}$$は中身をトロピカルの意味で計算するという、裃が第三回あたりで勝手に導入した記法です。
よそじゃ通じません。

以上から、

$$
\begin{array}{}F(x)&=&\displaystyle\bigoplus_itp(a_ix^i)\\&=&\max\bigl[a_0,x+a_1,…,ix+a_i,…\bigr]\end{array}
$$

みたいなことになるんでしたね。
つまり、トロピカルの$${x}$$一変数の$${n}$$次多項式は、普通の一次関数をたくさん集めて比べたものだったわけです。
ちなみに、指数はべつに0以上である必要もなく、負の数も許されます。ローラン展開みたいなものですね。

さて、そうなると同じことが二変数の多項式にも期待されます。

$$
\begin{array}{}F(x,y)&=&\displaystyle\bigoplus_{i,j}tp(a_{i,j}x^iy^j)\\&=&\max\bigl[a_{00},x+a_{10},y+a_{01}…,ix+jy+a_{ij},…\bigr]\end{array}
$$

うーん、一見するとちょっといかついですね。


ひとまず、一番簡単な一次式の場合を書き下すと、

$$
\begin{array}{}tp(x+y+a)&=&tp(1x^1+1y^1+a)\\&=&(1\otimes x^1)\oplus(1\otimes y^1)\oplus a\\&=&\max\bigl(x+1,y+1,a\bigr)\end{array}
$$

念のため注意なんですけど、このnoteでは一貫してトロピカル多項式の翻訳は係数1,0まで明示することにしています。

なので$${x^3\oplus 2}$$は$${\max(3x,2)}$$ではなく$${\max(3x+1,2)}$$としています。
つまり厳密には$${(1\otimes x^3)\oplus 2}$$をしているということです。
同様に$${0x}$$なんて表記もします。これは$${0\oplus x^1}$$なので$${x+0}$$を意味します。
それもそのはずでトロピカルの零元は0ではなく$${-\infty}$$なわけです。

ただ一方この表記だと、$${tp(4x^2+3)}$$みたいなべきを飛ばした多項式の扱いに悩みます。$${\max(2x+4,3)}$$とも取れますし、$${\max(2x+4,x+0,3)}$$のように一次の項の係数が0故書いていなかった可能性もあります。
一応本noteでは書いていない項は本当にないものとして扱うことにしています。

どんなものかイメージし易くするために、「定数項」$${a}$$を1にして、三次元空間上に書いてみましょう。

こんな感じの、納豆のパックの角みたいな形になります。
この面は全部で三つあるんですが、それぞれ以下のような意味合いを持ちます。

3枚はつまり、多項式の各項になっているわけです。最初の画像は、この各項のmaxをとったのでパックの角みたいになったんですね。

で、トロピカル幾何では、この三次元図形そのものではなく、その「角」に注目します。
つまり、折れ線、微分係数が不連続になってしまう場所をピックアップして、二次元平面上に描きます。
ようは、折線の影をスクリーンに落とすんですね。
こうすることで三次元の出来事を二次元で記述してしまうわけです。
こうして得られた図形はトロピカル曲線、トロピカルカーブと呼ばれています。

今回の$${\max(1x+1,1y+1,1)}$$の場合、トロピカルカーブは以下のようになります。
上の立体と比較して、ちゃんと折れ目が射影されています。

トロピカルカーブわちゃんと計算で出そうとするには、面を表す式(項)を連立させればいいはずです。

$$
\begin{array}{}x+1&=&1&\Rightarrow&(0,s,1)\\y+1&=&1&\Rightarrow&(t,0,1)\\x+1&=&y+1&\Rightarrow&(u,u,u+1)\end{array}
$$

ここで$${s,t,u}$$はそれぞれ任意の数で、$${(\;\;)}$$の中身は媒介変数表示です。
この上、この3本の交線から最も上にあるものを選びたいので、$${s,t,u}$$の関係が少しだけ制限を受けます。
つまり、

$$
1< u+1\Rightarrow u>0\Rightarrow s,t<0
$$

この条件通り各交線を書くと、図の通りのグラフが得られます。


以上のようにトロピカルカーブは得られるんですけど、正直これ、項が増えたらやってられません。

例えば、二次式

$$
tp(x^2 + y^2 + 3xy + 3 x + 3 y + 1)
$$

これは6項あるので、全部交線をチェックすると15通りの組を考える必要があります。

簡単にやる方法もありそうですが、結局僕らが欲しいのはグラフなので、例えばmathematicaなんかで書かせてしまうてもあります。
私は以下のコードでやってますね。

ContourPlot[Max[x + 1, y + 1, 1], {x, -4, 4}, {y, -4, 4}, 
 ContourStyle -> None, ExclusionsStyle -> Red, ContourShading -> None,
  Mesh -> 3, MeshFunctions -> {#1 &, #2 &}]

例えば上の二次式だと、

こんな結果になります。

この調子でいろいろなトロピカルカーブを書いて遊ぶだけでも楽しいのですが、もうちょっと数学的な興味も満たされたりします。それで世の中トロピカルというとトロピカルカーブに触れることが多いんですね。
端的な解説説明は巷に転がっているので、裃はひたすら具体例を出しながらそのあたり、遊びながら見ていこうかなって思ってます。


そういうわけでゆっくりやりますんで、ひとまず今日のところはトロピカルカーブで遊びましょう。

二次のトロピカルカーブは決して一つではなく、係数の取り方によって変わります。
例えば$${tp(x^2+y^2+xy+x+y+1)}$$なんてのは、トロピカルカーブの形状は$${tp(x+y+1)}$$と変わりません。
平面を全部描くとわかります。

こんな感じで、$${x,y,xy}$$の面$${x^2,y^2,1}$$の面より下に来てしまうので、見かけ上いないってことになるわけです。

仮に$${x\to 2x,y\to 2y}$$となると、この面がせりあがり、

トロピカルカーブは以下のようになります。

さて、このようにトロピカルカーブをかいていくと、いくつか疑問が浮かびます。
一つは、実のところこれは2次では出てこないのですが、穴ありのグラフは作れるのか、です。

いや、こうして作れるんですけど、どんな時に作れるのでしょう?

そしてもう一つは$${n}$$次のトロピカルカーブは何通りあるのだろうというもの。

こういった疑問に答えるのは後回しにして、次回はトロピカルカーブでもうすこし遊びます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?