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2019年2月に読んだもののメモ


『現代思想』2019年2月号:「男性学」の現在

海妻径子「CSMM(男性[性]批判研究)とフェミニズム」の、「男性性について研究する上で研究者自身の男性としての被抑圧経験を重要視する当事者主義」を本質的な特徴とする日本の男性学のあり方は特異的だ、という指摘はとりわけ重要だと思う。
欧米様が偉いわけではないけれども、少なくとも日本の男性学はガラパゴス的であるということ。総論的な位置に置かれた論文が、「個人的経験を通じて」「日本における男性学の成立と展開」と題されていることからもよくわかる。

金田淳子先生と澁谷知美先生の対談。「あれほどよくある生理現象なのだから、女性でいう生理ナプキンのように“夢精パッド”的なものがあってもいいはずなのに[…]一体どんな力学が働いてそうなるのか」と話しているけれども、単に発生が極稀でランダムだからではと思う。
一方、前立腺開発は「『俺はこれくらいヤバいんだ』(…)ということを ――『まあ俺はゲイではないけどな』というエクスキューズをつけながら ――誇りたいだけ」の「イキり」=男らしさの誇示にすぎず、これだけではファルス中心主義から抜け出せない、という金田淳子先生の指摘には膝を打った。

深澤真紀さんと清田隆之(桃山商事)さんの対談は、『ユリイカ』に載ってたらふむふむと思って読むけど、『現代思想』でしなくてもねえという感じが……。

あと、古川タクさんのイラストは何なのか?
「男性」というジェンダーに特有で取り除くべき抑圧が確かにある、というところから男性学は出発していると思うけど、それを「女性専用車は空いてていいよなァ」みたいなしょうもない不満に矮小化する描き方は、男性学特集で絶対にやってはいけないのでは。


出口剛司,2019,『大学4年間の社会学が10時間でざっと学べる』KADOKAWA.

東大の出口剛司先生が、社会人向けについ最近書いた教科書で、ものすごく分かりやすい。見開き半分がポンチ絵なので、ナツメ社の図解雑学シリーズに近い。10時間といわず1時間半で読めた。

だからまあ、社会学の大学院生が読むもんでもないといえば、そう(ただし非常勤講師をやるときに参考になるっぽい)。しかし、上記の『現代思想』のキーワード「ヘゲモニックな男性性」(ロバート・コンネル)が紹介されてたりと、たまーにややマニアックなところまで踏み込んで書かれていて、勉強になる。

コントがブラジルの建国への影響、スペンサーが日本の自由民権運動への影響とともに紹介され、今じゃ役に立たない社会学者の理論でも教科書的に一応押さえておく……ってだけじゃない工夫があり、退屈しない。

他にも、ゾンバルトの愛妾経済論がウェーバーによって乗り越えられたものとしてではなく、ウェーバーと並列させて説明されていたりと、要所要所でこだわりが見える。


吉川孝,2018,「ブルーフィルム鑑賞者であるとはどのようなことか?――土佐のクロサワのために」『フィルカル』3(2): 86-139.

非常に面白かった。
堀辰雄の小説でもジブリ映画でもない傑作、『風立ちぬ』。それは、1951年に高知で「土佐のクロサワ」と呼ばれる人(人々)によって撮られたブルーフィルムである。

無修正の性器が映されるブルーフィルムは、視聴する「内容」ではなく「視聴そのもの」にこそ違法性=不道徳性がある。このことが、劇場公開されるピンク映画や、覗き見趣味の絵画、盗撮モノAVといったものの鑑賞と異なるどのような体験をもたらし、それはまたどのような価値を持つか。

自分のテーマに引きつけるなら、無修正AVの視聴体験の分析に援用できそう。その場合、
・ブルーフィルムより視聴が一層「プライヴェート」であること
・ブルーフィルムと異なり鑑賞者が「勇敢な美の探求者」と評価されづらいこと
・視聴の違法性がかつてより感覚されづらいこと
の差異を考える必要があるだろう。


真木悠介,2003,『気流の鳴る音――交響するコミューン』筑摩書房.

通勤・通学時、気楽にKindleで読める社会学本がないかと思って探したら発見。言わずもがなの名著。

具体的な体験の次元から理論の次元に至る、抽象化のアクロバティックさ。これは、本書で言われるところの、2つの「世界」の間に立つことが可能にさせているのだろう。
つまり、具体的な生活者の「世界」と、理論的で頭でっかちな社会学者の「世界」の間に立つ実践こそが、社会学の「世界」だけにとどまりがちな社会学者たちよりも深い考察を可能にしている。

が、言うには易く行うには難しい。いわゆる「職人芸」の領域を見た。
文学的に面白い社会学的研究の文学的側面を、社会学的な面白さとして素朴に誤解することは警戒しなければならないと最近思うのだけども、見田=真木先生クラスになると2つがこの美しさで両立するのだな……と思う。


◆おまけ

shoko,2017,『狭くても 忙しくても お金がなくてもできる ていねいなひとり暮らし』すばる舎.

研究室の先輩(男性)が読んでおり、AmazonのPrime Readingで無料だったので、通勤・通学中に読んだ。先輩や私にもある「ていねいな暮らし女子」の部分がすごく満たされた。無印良品のトタンバケツ買ってベランダ掃除したくなる。

6畳の1Kでも部屋を広く見せるために「家具は最小限に、床を見せて」とアドバイスが書いてあったのだけれども、写真を見ると部屋におしゃれなロードバイクが置いてあって「いや、まずそれを外に置くことから!!!!」と思った。


マキヒロチ,『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』講談社.

双子が営む吉祥寺の不動産屋に訪れた客に、「だったら吉祥寺やめよう!」と穴場物件を進めていく、基本的には1話完結もの。

俺が住んでる赤羽回は絶対にあるぞ~なんせ「本当に住みやすい街2019」1位だからな~、と楽しみにして読んでたら、3巻に先に十条が出てきた。読者の一手先を読んでいて巧い……。




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