きまぐれ小説『牛丼屋にて(23/12/05)』

深夜の3時過ぎくらいに牛丼屋に入ったら、店員と客が談笑してて、さっそく気分が滅入った。飲み屋街からも離れた店に、こんな時間に来る客も少ないようで、俺とその客以外には誰もいなかった。

券売機で食券を買ってカウンターに置くと、店員が雑談を切り上げてめんどくさそうに歩いてくる。厨房に向かって「並一丁」と声をかけると、また元の客の近くに戻ってベラベラと喋りはじめた。

少しして、牛丼と豚汁のセットが俺の目の前に届く。その後も相変わらず続いている雑談をBGMにモソモソと食べる。あの客、もう食い終わってるんだから、さっさと帰ればいいのに……。

そんなことを思っていたら、不意に自動ドアが開いた。

「あちゃあ、またか」

そう言うと、店員は自動ドアの方へと歩いていく。センサーの辺りをチェックしたり、ドアの鍵を見たりしているが、どうも腑に落ちていなさそうだ。

「なに、壊れてんの?」

例の客が声をかけると、店員が「そうなんすよねえ」と困った顔で笑った。

「最近、こんな感じで急に開いちゃうんすよ。本部にも報告したんすけど、修理会社の手配も全然で」

「そういうの困るよなあ。あれじゃない、オバケがそこに立ってるとか?」

やめてくださいよお、げらげら、と笑い声が店内に響く。こいつらは、他に客がいるというのに遠慮を知らないのだろうか。まあいい。もうこの店に来ることは二度とないだろう。

ドアの前に立っている女は、俺にしか見えていないようだから。

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