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44歳でリングに上がった元Jリーガーが、試合前日に漏らした言葉。

安彦考真をご存知だろうか。40歳にしてJリーガーとしてデビューし、今度は43歳にして格闘家デビューしたという変わり種だ。今年1月には、テレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』にも出演していたので、もしかしたらご存知の方もいるかもしれない。

彼のチャレンジ精神とそれを支える努力の積み重ねについては、とても「変わり種」だとか「激レア」などという言葉では言い表せないほど激烈なものがあるので、ぜひ彼の生き様についてはこちらの動画を観てほしい。


私が安彦さんと出会ったのはJリーガー時代。そこから何度か対談させていただいたり、一緒に食事をする機会をいただいたりしてきた。とても熱い、それでいてどこまでも謙虚なナイスガイで、ここ数年、たがいに刺激し合う友人としてお付き合いさせていただいている。

そんな安彦さんが格闘技に挑戦すると聞いたときには、ひっくり返りそうになった。もちろん、40代になってからJリーガーに挑戦するというだけでも並大抵ではない努力を要するチャレンジだが、さらに43歳から格闘技に挑戦するというのは、無謀というだけでなく危険ですらある。そのチャレンジを応援したいと思うのと同時に、同世代の友人の身を案じる気持ちも湧いてこないわけではなかった。

ところが、そんな心配をよそに安彦さんはアマデビューを2連勝で飾り、ついにプロのリングに立つこととなった。『RISE FIGHT CLUB』という格闘技イベント。対戦相手は、かつて西武ライオンズからドラフト2位された元プロ野球選手。年齢は、相手より17歳も年上。身長は、相手より10cm以上低い。

「安彦さん、何でこんな対戦、受けちゃったんだよ……」

思わず、そんな感想を抱いてしまうほど、不利な対戦カードだった。それでも私はこの目に安彦さんの戦いを目に焼きつけておきたくて、事務所に頼んでスケジュールを調整してもらい、当日、現地へと向かった。

これまであまり格闘技を生で観戦する機会がなかった私にとって、会場の殺気立った雰囲気はとても異様に感じられた。試合前に対戦チームが一礼する野球文化で育った私には、これから対戦する2人がメンチを切って一触即発になる場面もヒリヒリとしたものに感じられた。

第5試合、いよいよ安彦さんの試合が始まる。職業「挑戦者」と名乗る彼が登場曲に選んだのは、サンボマスターの「できっこないを やらなくちゃ」。ここで、もう、私の涙腺が決壊してしまった。もちろん、無謀な挑戦を続ける安彦さんにこの曲がとてもマッチしていたのもあるけれど、私が4年前から続けている義足プロジェクトで、勝手にテーマソングのように心の支えとさせてもらっている曲なのだ。

サンボマスターの曲に背中を押されてリングに上がった安彦さん。そして、対戦相手の相内誠選手。ああ、データ上わかっていたこととはいえ、こうして並ぶと体格差がえげつない。相内選手は、余裕の表情で安彦さんを見下ろしている。

ところが。

試合開始直後はリーチのある相手に対して距離を取り、様子を見ていた安彦さんだったが、開始から数十秒後に間合いを詰め、そこからたたみかけるように連打。そのうちの一発が、見事に顔面を捉え、相内選手は膝から崩れ落ちた。開始早々、ダウンを奪ったのだ。

なんとか立ち上がった相内選手に、安彦さんはここぞとばかり猛ラッシュ。電光石火で安彦さんの膝蹴りが相手のボティに決まった。またもや崩れ落ちる相内選手。ゴングが鳴っている。え、え、どういうこと。リング上で安彦さんが何度も飛び跳ねて、喜びを爆発させている。勝った、勝ったのだ。若くて、大柄な、元プロ野球選手に、華奢な、44歳のおじさんファイターが、勝利を収めたのだ。それも見事なノックアウト勝利を。

リング上で安彦さんが泣いていた。その姿を見て、あらためて私の目にも涙があふれてきた。それは、試合前夜に安彦さんとLINEでやりとりしていた時に目にした「ある言葉」が脳裏によぎったせいかもしれない。

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