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【義足プロジェクト #17】 理学療法士という“魔法使い”がやってきた。

 十二月十九日。よく晴れた日の朝、ひとりの理学療法士が遠藤氏に伴われてわが家にやってきた。内田直生。二十五歳。

「おはようございます!」

 人当たりのよい笑顔で、元気いっぱいに挨拶をする姿に好感が持てた。だが、大学生と言っても通用しそうな若々しさ。経験もないだろうし、だいじょうぶだろうかと心配になったが、遠藤氏の人選を信じるしかない。

 二十分ほどストレッチを受けたあと、いよいよ義足の歩行を見てもらった。これが驚いた。

「乙武さん、腰、痛いですよね」

 歩き始めた途端、内田氏は言いあててみせたのだ。

「そうそう。腰の痛みと、背中の張り。義足の練習を始めるまではこんなことなかったんだけどね。あと、身体がLの字に固まってしまっているらしく、どうしても前のめりになって倒れてしまうんだ」

 そう答えると内田氏は、真剣な表情で私の目を見つめた。

「乙武さん、そうしたら、ふたつだけ意識して見てください。まず身体の中に棒を入れられて、その棒が上へ上へとひっぱられるイメージを持ってください。次に、いままでは前に体重を移動させて歩くイメージを持っていたと思いますが、それだと前のめりに倒れやすくなってしまうので、試しに身体を横に振るイメージで歩いてみてください」

 言われたとおり、身体の芯を意識して背筋を伸ばしてみる。ペンギンが歩く姿を思い浮かべながら、重心を左右に振る感じで前に進んだ。するとどうだろう。それまでは一歩ごとに前に倒れそうになったのに、ずっと安定した姿勢を維持できるではないか。

「これはすごい!」

 まるで魔法にかかったような気分だった。

 転ばない! 身体が前に倒れない!

 平行棒の外で歩いてみた。もちろん転倒することへの恐怖感は高まったが、ふたつのイメージのおかげで、前ほどガチガチに緊張することはない。リビングのフローリングの上を歩きながら、私は大きな前進だと感じていた。

 内田氏も喜んでくれた。

「乙武さん、抜群の感覚の持ち主ですね。言ったことをすぐに身体で表現できる人なんて滅多にいません」

 論理的な説明と、やる気を出させるひと言。内田氏は私のツボを心得ている。そう、私はほめられて伸びるタイプなのだ。

「いやあ、内田くんが来てくれて、なんだか希望が湧いてきた」

「よかったです。僕のことは、気軽にウッチーって呼んでくださいね」

 こうしてウッチーは、乙武義足プロジェクトの新メンバーとなった。

 ウッチーこと内田直生氏は、三人きょうだいの長男として、一九九三年、新潟県長岡市に生まれた。両親は熱烈なJリーグファン。アルビレックス新潟のシーズンパスを家族全員分購入し、ホーム戦の開催日は必ず一家で新潟市まで応援に駆けつけていたという。


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「乙武洋匡の七転び八起き」
https://note.mu/h_ototake/m/m9d2115c70116

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