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【義足プロジェクト #15】 『超福祉展』と、母の涙。

この記事は、今月14日(日)に「FRaU×現代ビジネス」にも掲載されます。

 十一月十三日の十八時半、渋谷ヒカリエ八階のシンポジウム会場は百名を超える参加者で膨れ上がっていた。

「たいへんお待たせしました。この回が、二〇一八年超福祉展の最後のシンポジウムとなります。『JST CREST クロスダイバーシティ』と題して、たくさんのゲストの方をお招きしています。まず最初にご紹介するのは、この研究の代表を務める筑波大学准教授の落合陽一先生です」

 司会者の紹介に大きな拍手が湧き上がると、いつものようにヨウジヤマモトの黒い服を身にまとった落合氏が登場した。

「我々の社会は少子高齢社会化が進み、人口も減少カーブを描きはじめました。人間には年齢を重ねていくにつれて、歩くことができない、目が見えない、耳が聞こえないなどの身体的な問題が発生します。我々に取りうる手立てには何があるのだろうということを考えました」

 落合氏は「クロスダイバーシティ・プロジェクト」の全体像を語りはじめた。

 動かなくなった身体にロボティクス(ロボット工学)の技術を入れれば、高齢者が高齢者でなくなる、障害者が障害者でなくなる。落合氏はそのための研究だということを力説していた。

 研究テーマはおもに四つ。そのうちのひとつが遠藤氏の義足プロジェクトだが、並行して、落合氏による車椅子などのプロジェクト、菅野祐介大阪大学准教授による人工知能の研究や、富士通の本多達也氏による聴覚支援技術を開発する研究も進められている。この日は四人の研究者がみな登壇し、それぞれの研究の成果や今後の見通しなどを語った。

 だが、この日の主役はなんと言っても遠藤氏だ。

「今日は遠藤さんのほうから、いままで取り組んできたプロジェクトの発表があると思うので、よろしくお願いします」

 落合氏がマイクを置いて次の予定のために会場を去ると、司会者がこう続けた。

「それでは次のゲストをお招きしたいと思います。ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員の遠藤謙さんです。よろしくお願いいたします」

 義足プロジェクトはそれまで一切公表されていなかった。シンポジウムの参加者には、何が始まるのかまったくわからなかったはずだ。

「新しいプロジェクトのローンチ(立ち上げ)としてこの場所を選ばせていただきました。まずは映像を見てもらいたいと思います」

 壇上の遠藤氏の一言で、プロジェクターに映像が映し出された。ランニングスタジアムでの撮影からたった三日で、鎌田氏が仕上げてくれたものだった。

 ロボット義足を紹介するズームアップの映像からスタートした。続いて、画面いっぱいに、遠藤氏のMIT時代の恩師であるヒュー・ハー教授の言葉が映し出される。

「障がい者というものは存在しない。ただ肉体的障がいを克服するテクノロジーがないだけなのだ」

 続いて、「OTOTAKE PRIJECT 2018」のタイトルが浮かび上がった。

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「乙武洋匡の七転び八起き」
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