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歌舞伎町のホストクラブで語り合った「SNS時代の教師像」。

先日、ユニークなイベントが開催された。

歌舞伎町のホストクラブで、ホスト役に扮した私と、本物のホスト数名、そして参加者のみなさんと読書会を行うというものだ。

テーマとなる本は、私が『五体不満足』出版直後の苦悩と戸惑いについて描いた第4章を書き加えた『五体不満足 完全版』(講談社)

7つのテーブルに分かれた30名近い参加者のみなさんと約2時間にわたって語り合う時間は、とても楽しく、そして刺激的だった。

たった2時間で296ページもある本を語り尽くせるはずもないので、あらかじめ主催者であるハフポスト編集部さんが、3つのブロックを選定してくださっていた。そのひとつが、小学校時代の「王座陥落」という箇所だった。

小学校入学後、私が操作する電動車椅子のめずらしさもあり、多くの子どもたちが私に群がってはあれこれと質問したり、体に触ったりした。そんな光景を見た当時の担任・高木悦男先生は、私が“特別な存在”になってしまうことを危惧して、あるとき私に校内での車椅子の使用を禁じてしまった。

車椅子を取り上げられてしまった私は、自分の短い足を交互に動かし、お尻を引きずるようにして、ずりずりと移動しなければならなくなった。当時、小学校一年生だった私にとって、自分で移動しなければならない校舎や校庭は、果てしなく広く感じられた。

それを見た他の先生方は「さすがにかわいそうなのでは……」と声を上げてくださったという。真夏や真冬になると、その声はより強くなった。炎天下や酷寒の中、私はずっとアツアツの、もしくはキンキンに冷えた大地にお尻をつけていなければならなかったのだ。

それでも高木先生は、決して首を縦に振らなかった。

「乙武君に優しくすることなら、いくらでもできる。だけど、社会に出て、自立する力を身につけることが私の役目だ」

「高木先生は怖い先生だと思われてもいい。いつか、『あの先生に受け持ってもらえてよかった』と振り返ってもらえれば、それでいい」

最後まで、ご自身の信念と指導法を貫かれたのだ。

こうした高木先生の厳しい、しかし愛情あふれるご指導についてのエピソードが描かれているのが「王座陥落」というブロックだった。

じつを言うと、私は著者として、自分の本が出版された後にわざわざ著作を読み返すということをほとんどしない。正直に言えば、この箇所を読み返したのも、十数年振りだったと思う。ホストクラブで読み返す、若かりし頃に私が書いた文章は、懐かしくもあり、どこか新鮮でもあった。

ところが、参加者のみなさんと話し合っていると、私にとって思いもよらぬ論点が提示され、私は大いに狼狽した。それは、できれば認めたくない思いがあったが、みなさんのご意見を聞けば聞くほど、認めなければならない論点であると納得させられた。

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「乙武洋匡の七転び八起き」
https://note.mu/h_ototake/m/m9d2115c70116

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