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船上のカウントダウンパーティーで目にしたのは、あまりに美しい世界だった。

すっかり涙もろくなった。まさか2020年を涙とともに迎えることになるとは夢にも思っていなかった。

話の発端は、前年のカウントダウン。仏教国のブータンで見事な肩透かしを食ったこともあり(それはそれで、いい思い出になったけれど)、今年こそ「カウントダウンらしいカウントダウン」を楽しもうと、年越しクルーズに参加することにした。1週間をかけて、中東諸国を巡る船旅だ。

このクルーズ会社のツアーに参加するのは今回で2度目になる。2017年の夏にイタリアやスペインを巡るツアーに参加したことがあった。その際、世界各国から集まるスタッフたちのホスピタリティあふれる手厚いもてなしに、私はいたく感激した。

今回の旅でも、スタッフたちは陽気であたたかく、フレンドリーに話しかけてくれた。以前に日本にも寄港するクルーズ船で働いていたというスタッフは、「コンニチハ」「オハヨウゴザイマス」「ゲンキデスカ?」と声をかけてくれる。自分にも日本語を教えてほしいとせがんでくるスタッフもいた。細やかな気遣いとあたたかな笑顔は、私たち乗客をとてもハッピーな気分にさせてくれる。

世界中から集まるのはスタッフだけではない。幼い子どもを連れたファミリーから熟年夫婦まで、じつに様々な年齢層にまたがる乗客は、その数2000名近く。出身地も様々で、船内には英語だけでなく、「ボンジョルノ」「ダンケシェン」「メルシーボークー」など、これまたじつに様々な言語が聞こえてくるのだ。

大晦日の23時30分。11階にあるプールサイドでは、新年を迎えるカウントダウンパーティーが開かれることになっていた。乗客もスタッフも待ちわびたように甲板に集まり、“その瞬間”を待っていた。それまでダンスミュージックで盛り上げていたDJが、23時59分になるとカウントダウンを始めた。60秒からスタートした数字は、あっという間に10カウントに。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……0」

新年が訪れた瞬間、プールサイドに設置された大型マシーンから大量の泡が噴射された。中央で踊っていた人々は、歓喜の声を上げながら泡まみれに。オペラ歌手が登場し、オペラ『椿姫』で有名な「乾杯の歌」を歌い上げる。そして、またDJの誘いによって人々が踊り出す。黒人の若者も、白人の老婦人も、そして私のようなアジア人の車椅子も——。

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私の目には、涙が浮かんでいた。それは、嬉しさと、悔しさが入り混じった涙だった。私がこの光景に思わず涙したのには、じつは伏線があったのだ。

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「乙武洋匡の七転び八起き」
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