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黒人女性が演じる『007』を、私たちはどのように受け止めるのか。

このマガジンでも何度か紹介している手塚マキと、オペラの勉強を始めた。

勉強といっても、友人が主催する勉強会で過去の海外上演をのんびり見て、それと同じ演目を実際に都内の劇場で観劇して、ああだこうだと感想を語り合うという、ただそれだけの遊び。

手塚は私よりも格段に感性が豊かだし、奥様も現代アーティストということもあって、アートそのものに精通している。だから、彼の目線や感想などを聞くと、「なるほどなあ」と気づかされたり、考えさせられたりすることが多くある。

先日の勉強会では『カルメン』を観た。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で2010年に上演されたときの映像だった。主役を務めたのは、エリーナ・ガランチャというメゾソプラノ歌手で、妖艶なカルメン役を演じるにふさわしい美貌の持ち主だった。

2時間40分の映像を見終わって、また感想を語り合った。オペラというのは音楽と演劇という二つの要素が融合した芸術だと思っているが、「今回はより演劇の要素が強く感じられた」と私は語った。

というのも、前回、前々回と勉強会で鑑賞した『蝶々夫人』も『トゥーランドット』も、主人公を演じていたのがかなり恰幅のいい女性で、「可憐な10代の日本人女性」という設定の蝶々夫人、「絶世の美女と謳われる姫」という設定のトゥーランドットからは、ずいぶんかけ離れたイメージの迫力あふれる歌手が演じていたのだ。

そのため私はいまいち物語に入り込めずにいたのだが、今回の『カルメン』はさっきも書いたように、役のイメージ通りのとても美しい歌手が演じていたため、これまでの二作に比べるととても感情移入して見ることができるようになったのだ。

それを手塚に伝えると、彼はまったく思いもよらない答えを返してきて、私を唸らせた。そして、その唸りにはちょっとした嫉妬も入り混じっていた。彼がどんな感想を語ってくれたのか。それはこの記事の本旨とも関わってくるので、いちばん最後に記すことにしようと思う。

昨日はこんなニュースに驚かされた。

英国スパイであるジェームズ・ボンドが活躍する映画『007』シリーズの最新作で、コードネーム「007」を受け継ぐスパイ役に黒人女優であるラシャーナ・リンチが起用されることが明かされたというのだ。

あくまでジェームズ・ボンド役を演じるのはこれまで通りダニエル・クレイグで、おそらく映画の主人公までがラシャーナ・リンチになるわけではないようなのだが、それにしても「『007』といえば白人男性」というイメージが定着しているなか、黒人女性である彼女が起用されるというニュースにはやはり驚かされた。

このニュース、みなさんはどのように受け止めただろうか。

「まったく気にならない」という方もいれば、「ちょっと違和感がある」という方もいるだろう。なかには、「ポリコレに配慮しすぎた配役にげんなりさせられる」という方もいるかもしれない。

では、もう少し話を進めてみよう。もしも、バレエ『白鳥の湖』の主役であるオデット姫を黒人ダンサーが演じていたとしたら、みなさんはどのように受け止めるだろうか。

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