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輸出管理の実務

機材を日本から海外の工事現場に持ち込む場合、日本国の法令に基づき輸出許可が必要に
なる事があります。無許可で輸出すると罰金や輸出禁止の行政罰を受ける可能性があり、会社の事業継続に多大な影響を与えます。ここでは調達の視点から理解しておくべき点をハイライトして解説したいと思います。

  1. 輸出管理の基本

    日本からの輸出は全ての貨物を対象に外為法(具体的にはその関連政令の輸出貿易管理令等で規定)の規制を受けます。輸出する度に許可の要否を輸出者が確認しなければなりません。確認する義務を負うのは輸出者であり、不正輸出があった場合は罰金、関係者の禁固刑、輸出禁止等の重大な刑事罰・行政罰が適用されます。

    規制は大きく分けてモノによる規制(リスト規制)と用途・使用者による規制(キャッチオール規制)に分けられます。

    リスト規制はモノに基づく規制であり、用途が何であれ、使用者が誰であれ、法令で定められた機材に該当する場合は経産省から輸出許可を取得する必要があります。海外の工事現場に所在する自社の現地法人向けに輸出する場合であっても許可は必要です。

    対象貨物は基本的にハイスペックな機材が対象で、例えば内面がニッケルで被覆されたバルブやポンプといった具合です。ハイスペック機材は悪意のある使用者の手に渡ると化学兵器製造等の不適切な用途に転用される恐れがある為、販売先・用途、使用者等を厳正に審査されます。

    特定の貨物を特定の国や特定の販売先向けに繰り返し輸出する場合、都度輸出許可を取得するのは手間がかかるため、包括許可制度も認められています。不正転用の懸念が少ない国(ホワイトカントリー)は許可要件が緩和されています。最近韓国がホワイトカントリーに復帰する事になりましたが、半導体部材の輸出許可の手続きが主な関心事になっていました。まさにここが関連しています。

    キャッチオール規制は、基本的にリスト規制の対象外となる貨物全てが対象となります。貨物の性質上不適切な用途への転用リスクは低いですが、販売先との確認の結果、化学兵器製造等のの不適切な用途に使用する事が判明した場合や(用途要件)、または貨物の使用者が過去事案等から疑念が強いと経産省が指定した者である場合(需要者要件)、経産省から輸出許可が必要となります。顧客との確認で用途要件、需要者要件とも該当しない事が確認できれば輸出許可は不要です。尚、ホワイトカントリー向けの輸出の場合、キャッチオール規制は適用されず、法令上はチェックも不要です(各社の運用思想に基づきチェックする事もあります)。

    上記の規制の枠組みは日本独自のものではなく、主要国も同様の規制を実施しています。リスト規制の対象貨物は各種の国際合意で取り決めたもので(ワッセナーアレンジメント、NPT等)、他国も概ね同じ貨物を規制対象としています。

  2. プラント調達における輸出管理
    プラント調達の立場では、用途(プラント建設)、需要者(施主)は当然問題がないはずですのでキャッチオール規制が問題になる事はあまりありません。たまに海外のサプライヤーが自社でのチェックのため発注者に対し用途証明書の提出を求めてくる事があるくらいです。実務で問題となるのはサプライヤから調達する機材のリスト規制の該非判定となります。

    リスト規制の対象機材・仕様は輸出貿易管理令別表、貨物等省令等で規定されており、機材の該非は規定に照らして確認する事になります。以下のMETIのサイトで対象機材・仕様を確認する事ができます。確認時、法令上の呼称が社内・業界で通常用いられている呼称と異なることで検索できず見逃す可能性があります。いくつかの呼称で検索したり、以下サイトにある読み替え表を参照するとよいでしょう。とはいえ見逃しを防ぐのに一番よいのは規制貨物リストを一通り読み込み、どのような機材・仕様が規制対象となっているか全体的に把握しておく事です。

    https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html

    該非判定は後日の監査等に備えて判定根拠とともに輸出者が記録を残しておく必要があります。記録としてはCISTECが刊行している項目別対比表(パラメーターシート)を用いることが多いです。規制内容の改訂がたまにあるので最新法令をカバーしたバージョンを使用しなければなりません。

    https://www.cistec.or.jp/publication/shoseki/b01_taihihyou.html

  3. 該非判定は実務上、貨物の仕様をよく理解しているサプライヤに依頼する事が多いです。但し法令上サプライヤに対応義務はないので、契約書でカバーしておくべきです。また不慣れなサプライヤは対応できなかったり、誤った判定を行うリスクがあるため、法令上の責任を負う輸出者である発注者が自分事として判定できるような体制や知識習得が必要です。対象機材に関連する規制の有無は調達・プロジェクトチーム・もしいれば輸出管理チームで確認し、仕様の該非は設計で確認する形が通常です。判定結果に不安や疑念がある場合、経産省の担当部署に相談する事も考えられます。

  4. 米国輸出規制
    米国から輸入した機材を工事現場などに向けて再輸出する場合、その再輸出について外為法だけでなく米国の輸出規制も受けるので要注意です。日本からの輸出に何故米国の規制が適用されるのか?というのは正当な疑問ですが、これが米国の運用実態です(域外適用)。米国と何も関係がない会社は無視すればよいと思いがちですが、不正輸出が発覚するとブラックリスト(DPL)に掲載され米国企業と取引ができなくなったり、社員の米国入国時に拘束される可能性があるので危険です。

    規制内容は複雑で分かりづらいですが、基本的には日本の法令と似た構成になっています。実質全ての貨物が規制対象でありEARといあ貨物リストで記載されています。その中でリスト規制品に対応する貨物はECCNという番号が振られ、キャッチオールに対応する貨物はEAR99という番号が振られています。ECCN貨物を再輸出する場合、原則米国当局からの許可が必要です。EAR99は原則許可不要ですが、販売先がDPL・SDN等のブラックリストに載っている場合や禁輸制裁国(イラン、北朝鮮、ロシア等)向けの輸出は許可が必要です(申請しても不許可)。

    米国の輸出規制については以下の資料が体系的かつ分かり易いです。

    https://www.cistec.or.jp/service/webseminar/open/data/houjin/5005_ear.pdf


    本記事では輸出規制の概要と実務を見てきました。実務でよく聞くが実際はよく分からないという方も多いかと思います。一度事故が起こると深刻な事態となるので、法令を理解し、プロアクティブに必要なアクションやチェックができるようになるべきでしょう。興味がある方はCISTECが主催している実務者向け認定試験を受けてみてもよいかもしれません。

    記載内容の正確性には気をつけていますが、間違い・勘違いが含まれている可能性は否定できませんのでご留意ください。

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