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フェルナンデスのギターは死なない

26年前の今日、彼は死んだ。

その彼の名は、松本秀人。Xのギタリストhide。事故か自殺か、わからない。それでも多くのファンが嘆き悲しんだ。

そのときの私は、ロックを聞くには幼すぎる年齢であった。でも、兄の影響もあって様々な音楽を聞かされていた。

時代は、ヴィジュアル系バンド全盛期。

兄の部屋からは、常に音楽が聞こえていた。今思うと、私の音楽好きの影響は、この兄から受けたものかもしれない。

とても身近にあったロック。幼い私には歌詞の意味なんて全くわからない。それでも、嫌いじゃない…そう感じていたんだ。

始めてhideを見たとき、女の人だと思った。ピンク色のきれいな髪の毛の人。小さな私の世界では、考えられなかった。男の人でもお化粧するんだって。衝撃を受けた。

それから、学校から帰ってくるとランドセルを放って兄の部屋に入り浸った。そしてhideのCDをかける。帰宅した兄に怒られる、を飽きもせず繰り返していた。

まわりの女子たちは、ジャニーズとかで盛り上がるお年頃。やっぱり私は変わり者だった。

当時のお気に入りは全部なんだけど、どれかかひとつだけあげるとしたら『DICE』かな。10年後くらいにこの音楽と再会するんだけど、その時にはじめて歌詞の意味を理解して泣いた。

そして、その日はやって来た。
朝のニュースでhideが死んだ、というのを聞いた日。自殺というのが、わからなくて母に聞いたっけ。聞いても、よくわからなかった。

私は、死というものが理解出来なかった。子供だったのだ。ふーん死んじゃったんだこの人って感じ。身近にいたわけでもないし、会ったこともないその人が世界からいなくなったと知ってもピンと来ないのは当然。

燃えるような恋心なんて無かった。だから、すぐに、忘れた。それは、ランドセルの似合う幼い子供の頃の話。

時は経ち、女子高生と呼ばれる年頃になった私は、活字中毒で辞書まで読むほどに文字に依存していた。その頃のお供はもちろん音楽。

何聞いていたかな?やっぱりビジュアル系だったかな。洋楽にハマってた気がする。パラモア、エヴァネッセンス、マリリン・マンソン、レディ・ガガ、ブリトニースピアーズあたり。レッチリとかサム41もこの時期?
邦楽だと…宇多田ヒカルや椎名林檎、坂本真綾、ELLEGARDEN、マキシマムザホルモン、あたりかな?

とにかく、ピンク色のiPodnanoの二世代の中にパンパンに詰め込んだお気に入りの音楽たちを毎日聞いていた。

毎日、毎日飽きもせず。爆音で音楽を聴いて、小説を読む。そんな女子高生。勉強を頑張った記憶は全く無い。今思うと、よく卒業出来た。

私が女子高生であったとき、兄は既に家を出ていた。年末に帰省する程度であるため、彼の部屋に残された音楽CDは、宝の山であった。

LUNA SEA、L'Arc~en~Ciel、GLAY、SIAM SHADE、SOPHIA、黒夢…。そのあたりが兄のどストライクだったようで、私もそれをそのまま拝借して聴いていた。

そんな中、目に止まったのは『zilch』というバンドのアルバム。

うわ、コレ好きだわ…と幾度となく聞いた。リピート機能が壊れるほど、聴いた。そして、それがhideであることを知る。調べていくとマリリン・マンソンとの共演も予定されていたとか。

そこで、はじめて私はhideという人間を知りたくなった。そして、調べていくうちに、幼きあの日死んだピンク色の髪の男がhideであると、わかったんだ。

そのとき、私は泣いた。

こんなにも、恋い焦がれるメロディ。それを生み出した男はもういない。もっと知りたいのに、もう増えないレパートリー。その事実は残酷すぎた。

そして、死んだ人間は、誰かの心の中で生き続けるなんて嘘だと思った。

ただの骨となり、人々から忘れられる。それが死というものじゃないのか。

その当時、私の周りの人間でhideの話をしている人はいなかった。みんな忘れている。そしてオリコンランキング1位の音楽に夢中ななり、iPodに入れて持ち歩く。所詮は他人。誰もhideなんて聞いていない。死んだら終わりだ。

生きていれば、きっと人々を震わせる音楽を生み出してくれたに違いない。

それが悔しかった。

こんなにも才能溢れて、こんなにも人を魅了する存在なのに事故でも自殺でも、理由はどうあれ死んでしまった。ズルいとさえ思った。

だって私には何も無かったから。ただ本を読んで、音楽を聞くだけの女子高生は楽譜も読めないくせにhideというアーティストに嫉妬した。

そして、勢いに任せてフェルナンデスのエレキギターを購入した。2万くらい。アンプも1万円くらいの安いやつを買った。そしてギターの教本というのも買った。

シャープとフラットの違いもわからない。そんな女子高生は案の定、GだかFだか理解できず、全く弦を抑えられなくて、1日も経たずに押入れに仕舞い込んだ。

文字通り、衝動だけの買い物。

しかし、なぜだか押入れにギターが置いてあるという事実だけで私はhideをずっと覚えていられるような気がした。

完全なる自己満足。

女子高生は時々よくわからない行動をする。まさにその通り。私はギターを購入して何がしたかったのだろう。今、振り返ってもまったく意味がわからない。

そのあとの私は、何でもない顔をしてやっぱりiPodでhideを聞いて、泣いたり怒ったりしていた。だが、そのうち就職して忙しくなり私はまたhideを忘れた。

そしてゴールデンウィークのこの頃になると、ふと思い出す。フェルナンデスの真っ赤なエレキギターは今も私の家のクローゼットの中で眠っている。

ギタリストが聞いたら怒るだろう。

弾きもせず、飾りもせず、ただクローゼットにしまっておくだけのギター。申し訳ないほど日の目を浴びない真っ赤なフェルナンデス。

それでも私は、今年もhideを思い出す。ピンクのiPodは壊れてもう音が出ないけれど、髪の毛をピンク色にはできないけれど、目の周りを真っ黒に塗だぐってヒョウ柄のテンガロンハットでも被ろう。

そして、私は歌う。

誰にも真似出来ない度肝を抜くような世界観。MVもライブ映像もガンガン回して私の中をいっぱいにする。何度も聞いても永遠の33歳は、やんちゃだ。

黙とうなんかしないよ?花を手向ける気も無い。

過激で野蛮な言葉を綴って、今までの常識を全部ぶっ壊わそうとした。そんな破天荒な男が、普通の弔いを望むなんて思えない。

f××kでもしてた方が、hideは喜ぶだろうサ。

そして私はきっと、暑くなったらまたhideを忘れるんだ。真っ赤なギターを買ったことも、仕舞い込んだことも忘れる。仕事に追われ、他のアーティストに心奪われ、時々小説を読んで、お酒を飲んで、寝てまた仕事をする。

それでもいい。愛のカタチなんて人それぞれ。そんな風に言ってくれるんじゃないかな?言わないか。それも、どちらでもイイ。

何はともあれ『また、春に会いましょう。』私はここで笑って詠うから。

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