見出し画像

トレイルの下りと老い


 これは、四捨五入すると五十路の自分の体験から痛感した話です。

 ラン歴として軽く干支一周するキャリアながら、「老い」をよく感じる今日この頃です。100kmを超すウルトラトレイルを趣向する中で、この10数年の違いとして下りの走り方が顕著なのです。

 明日、急に100km走れ!と言われれば、おそらく走れます。月間走行距離なるものを記録しなくなってしばらくが経ち、レース以外の走行距離が月間100km未満なんてザラながら、幸いにしてその地脚はできています。ただ、走りの内容がかつてと変わったのは否めません。それが下りです。

 ウルトラトレイルに必要な要素が多岐にわたることが、四捨五入すると五十路の自分でも走りきれるゆえんだと思うのですけど、ガンガンに飛ばすことが難しくなってきています。それは、下りに必要な大腿四頭筋のような筋力的なフィジカルの衰えではなく、反射系です。

 不整地であるトレイルは、その下りは特に、スピードへの慣れや細かいステップを高速で刻むスキルが必要になりますが、フィジカルで表現するための情報伝達として「老い」を感じるのです。つまり、反応が明らかに遅くなっている。

 反応とは大きく2つの情報処理です。

・目からの情報処理
・足裏感覚からの情報処理


■目からの情報処理

 加齢もあって、視力が落ちてきたことも一因と思われ、目から入ってくる情報を適切かつ迅速に捉え、表現手段である肉体に伝えるまでのスピードと、自分がかつて飛ばしていたランニングスピードとの間に”誤差”が生じてきました。

 裸眼だということもその一因かもしれません。眼球に異物を外から入れるという行為がというか、どうもコンタクトが苦手で(完全に食わず嫌いなだけ)、車の運転には支障はない程度の衰えですが、夕暮れ時のトレイルを疾走していると、よくつまずきます。

 きっと、動体視力が低下しているのでしょう。何かトレーニングした方が良さそうです。ちょっと調べてみました。

スープリュームビジョン


パンチングボール



■足裏感覚からの情報処理

 裸足系ではないけれど、足裏の接地感を大事にしてきた僕は、流行りの厚底シューズにはやや抵抗があり、厚底ではないシューズでも、わざわざインソールを除いた状態で足入れをしてフィッティングを試します。

 その方がトレイルのふわふわ感、ゴツゴツした岩場、ツルツル状態などなど、トレイルの接地感をよりダイレクトに感じられて楽しいと思うからです。そして、その足裏からの情報はリスク回避にも最短で対応できると自分の中で培ってきました。

 足裏は第二の心臓と呼ばれるほど重要な器官とされ、かのレオナルド・ダ・ヴィンチの「足は人間工学上の最高傑作である」との発言を聞いたことがあるかもしれないですね。

画像2

 足裏には感覚受容器が複数あるとされ、足底メカノレセプターと呼ばれる運動遂行と状況変化に対する情報源だそうです。

 このメカノレセプターの話で興味深かったのは、上半身の解放を促す話です。トレイルの下りは上半身を緩めろ!と言われるその動作保証として、足裏感覚は重要なわけです。

 でも、その接地感から得た情報を瞬時にフィジカルに伝え、反応するスピードもまた、”ズレを”覚えてきたのです。



 この反射系の衰えの結果、下りのリスクが高まり、かつてのようにガンガンに飛ばすことが難しくなってしまいました。そんなとき、50歳を超えた鏑木さんと立ち話をしていて、「老い」の話になりました。

山田「最近、老いを感じ始めましたよ(笑)」
鏑木「あはは。例えばどういう?」
山田「体力とか気力じゃなく、反射系の老いですかね」
鏑木「あー、僕もそうです」
山田「やっぱそうですか。反射スピードというか、情報処理能力が明らかに落ちてきている気がするんです」
鏑木「ということは、下りがかつての自分と違ってきますよね?」
山田「まさに! 鏑木さんも変わりました?」
鏑木「ええ。最初は戸惑いましたね。受け入れるのが難しかった」
山田「年齢を重ねることで、かつての自分との違いを思い知らされるのは精神的にもキツいですよね?」
鏑木「今は吹っ切れましたよ(笑)」
山田「そうなんですか? まだ抗っているように見えますよ(笑)」
鏑木「自分で人体実験しているのかなぁ、人体の可能性を探しているのかもですね」
山田「僕らに希望を与えてくださいよ」



 僕は、アラフォーのランナーと話をするとき、先輩面して「できるうちにガンガンやったほうがいい」と言います。「それが難しくなってきたとき、暖かく迎えてやるから(笑)」とも。

 タイムやスピードを更新し続けられなくなっても、ウルトラトレイルに楽しみ方がたくさんあるのは勿論ながら、少し抗ってみようかなと思い始めてもいる今日この頃で、残り少しの40代のうちにもう一度100マイルを走ってみようかなと、コロナ禍で思ったものです。

 直近1ヶ月の走行距離は0kmだけど。

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?