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連載:傍聴席の向こう側①〜まえがき

 45年も生きていると、“人生初”に出くわすことが少なくなっている気がする。それがいいのかわるいのかよくわからないけれど、日常のほとんどがデジャブで、拙い過去の経験則で乗り切れてしまうことが多い。

 昨年、裁判を傍聴する機会があった。人生で初めてだった。壇上には裁判官が3名。その下に書記官が1名。傍聴席から見て左手が原告側で、右手が被告側。それぞれ弁護士を2名従え、真ん中に証人席がポツンとあって、双方が退治する位置関係は、ドラマや映画で見たことがある“馴染み”の風景だった。
 傍聴席側は左に連結した4席が4列。真ん中も4席が4列。右は出入り口と重なるからか、1列目だけが4席で、残りの後方3列が3席ずつ。合わせて45席あり、ざっと見渡すと傍聴人は自分も含めて13名だった。


「それでは、原告、被告ともに中央へ。今から宣誓をして頂きます。みなさん、ご起立ください」

 中央に陣取るベテラン風情の女性裁判長が口火を切り、人生初の裁判の傍聴が始まった。2017年12月26日午後1時30分、東京地方裁判所第527号法廷。

「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」

 争っている原告と被告が肩を寄せあうように立ち、声を合わせて宣誓を行なった。毎回行われている裁判冒頭の通過儀礼なのだろうけれど、ドラマや映画で見たままだったからか、そのデジャブ感を滑稽に受け取る自分がいた。当人たちはもちろん真剣なのだけども。余談だが、この宣誓は裁判所によって微妙に違っているそうだ。


【東京高裁/地裁/簡裁/大阪地裁】
「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
【神戸地裁】
「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、また何事も付け加えないことを誓います」
【福岡地裁】
「良心に従い、知っていることを正直に述べることを誓います」
【名古屋地裁】
「良心に従って本当のことを申しあげます。知っていることを隠したり、ないことを申しあげたりなど決していたしません。右のとおり誓います」

飲み屋のネタまでに。

「トレイル裁判」と自称される裁判の尋問の幕が上がった。聞いたところによると、原告と被告が出廷し、尋問を受けるということは、双方の弁護士同士による事前協議で折り合いがつかなかったことを意味し、第三者である裁判官が大岡越前ばりにお裁きをすることだそうだ。
 まず、原告が中央の証人席についた。原告側弁護士による尋問が30分。その後、被告側弁護士による尋問が30分行われ、次に被告が証人席について、同様に30分ずつの時間が与えられた。

 ここで基礎知識として自分のような傍聴人に与えられた権利や制約を残しておこう。
 傍聴時、携帯などは電源を切るか、マナーモードにするなど配慮が求められ、メモを取ることは許されているが、裁判中の録音や録画は禁じられている。
 また、訴訟の記録は誰でも閲覧できる。手数料150円ぶんの収入印紙、認印、身分証明書を用意して、裁判所窓口に備え付けられている閲覧申請書を出せば、訴状・答弁書・準備書面・証拠説明書・陳述書・判決正本あるいは和解調書なんかも閲覧可能。
 ただし、あくまでも閲覧だけが許可され、写メを撮るなど撮影は禁止。新聞記者も含めて、ひたすらメモを取るしか記録方法はない(ただし、利害関係者のみ申請した後にコピー可)。言っちゃあ何だけど、めっちゃアナログな世界。

 なお、裁判所の建物に入るときは、手荷物検査とボディチェックのゲートをくぐる。空港の保安検査場で行われていることと同じように。また、敷地内(もちろん、建物の内部も)撮影は禁止されている。
 初の傍聴にアドレナリンが出たのか「東京地方裁判所なう!」とでもSNSに投稿したかった僕は、それを知らずにスマホでパシャ!としたところ、すぐに注意され、目の前で削除させられてしまった(多くの人の視線を浴びて「あいつ、素人だな」と思われたんじゃないかと忖度してしまい、我ながら恥ずかしかった)。


 さて、そもそも、この裁判の争点は何のか? 原告は何を求め、被告は何を訴えられたのか、次回はその内容も入れつつ、尋問風景を振り返ってみようと思う。さながら赤提灯の話題のように、あくまで「一寸いっぱいお気軽に」な感じで(笑)。


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