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【SL大樹5号 乗車記】フカフカ座席の14系客車【東武鉄道】[2022.4 日光鬼怒川②]


東京の八王子から「スペーシア八王子日光号」に乗車して、はるばるやってきたのは東武日光駅だ。改札外にある待合室の近くで、先ほどの列車に乗った人しかもらえない記念の硬券を配布していたから、私も切符を係員に見せて頂いた。

さて、日光に着いてからどのような行動をとるのかについては、事前に2つのプランを練っていた。
プランAは、奥日光の湯元温泉まで乗り放題になる「湯元温泉フリーパス」を購入して、東武バス日光のバス路線をできる限り乗車することと、いろは坂の上り下りを体験することを目的として実行を目論んでいた。しかし、駅前のバス停に目をやると、大勢の観光客が蛇のように並んでおり、たとえ始発であるJR日光駅から座れたとしても、立ち客がいるのが容易に想像できるため、十分に景色を堪能できる確率が低いと判断し、取りやめにした。
そこで、プランBに今後のすべてを委ねることとした。これは簡単に説明すると、今市および鬼怒川地区の観光を時間の許す限りおこなって、東武日光駅に戻ってくるというものだ。この中に今回記す「SL大樹」が含まれている。

駅の一角にある特急券や座席指定券を主として扱っている有人の切符売り場へ向かい、乗車予定のSL大樹5号の券を購入。南栗橋行の普通列車がもうそろそろ発車する旨の放送が流れたために、足早に列車へ乗り込む。
SL大樹に乗る前に今市地区の観光をしたが、それに関しては鬼怒川地区とまとめて紹介させていただければと思う。

普通列車の車中でSL大樹の編成について調べていると、私の指定された座席は希望していた14系ではなく、12系が担当する2号車であることに気が付いた。12系はボックスシートとなっており、他の人と相席になってしまう可能性が十分にある。配慮しながら車窓を眺めるようになってしまい、存分に楽しめるとは言い難い。国鉄急行列車を懐かしんで乗られる人であれば、12系のほうが愛着が湧くかもしれないが。
それに対して、14系客車は2列がけのクロスシートとなっており、足もノビノビと伸ばせる。1時間もかからないといえども、同じ料金なら楽なほうを選んでしまうのが人間の性ではないだろうか。
そのように考えていたところで下今市に到着。改札を出てすぐに、有人窓口で座席変更の申出をした。駅員は快く対応してくださった。

旧今市市内の観光を終え、下今市に戻ってきたのは13時すぎ。もうそろそろSLを目当てに来ている人々がホーム上に集い始めてくる頃合いだと予想していたが、見事に的中した。私がそこに着いたと同時にSL大樹が入線するとのアナウンスが入り、灰色の煙を吐きながらゆっくりと滑り込んできた。ドアが開くまで少々時間を要したが、その間にこれから乗客となる人々が列車とともに写真を撮ったり、煙の匂いを嗅いだりといったように、短い間ながら、各々が興奮を高める時間を過ごしていた。
皆が写真を撮り終えた頃に客車のドアも開いて、14系の席に座すことが叶った。フカフカの座席でリクライニング機能も十二分に働き、まるで特急に乗っているかのような感覚に陥った。私自身は14系に乗るのはこれが初めてとなる。このSL大樹の中に組み込まれている12系には、秩父鉄道の「パレオエクスプレス」で堪能した記憶があるが、やはりやや窮屈で暑苦しかった印象だ。その時は夏だったから当たり前ではある。

13時30分、定刻どおりに発車。SLからのけたたましくも勇ましい汽笛が鳴り響く。動き出してしばらく経ってから、黒煙がわずかばかり流れてくると同時に匂いもやってくる。いよいよSLに引っ張られる旅が幕を開けたかと思うと、高揚感で心が埋め尽くされる。
下今市を出ると、終着の鬼怒川温泉までほぼ上り勾配であり、SLは慎重に上らざるを得なくなる。そういった事情もあり、猛スピードで走ることは全くなく、平均30km/hで常時進む結果となった。観光列車だから、その速度感が車窓を楽しむのには最も優れているはずだ。
次の停車駅は東武ワールドスクウェア。そこまで30分ノンストップで行くのだから、機関士はさぞかし大変だと推察できよう。対照的に私は半分寝ぼけつつ、車窓を眺め続けていたが、面白いことに気が付いてしまった。並走している道路に1台のレンタカーがピッタリとくっついていて、後部座席からは一眼レフを構えた人物がはっきりと見えた。しかし、その道路は40km/h制限。こちらは30km/hで走っているわけだから、後ろがつかえているのだ。この現象は各地で走っているSL列車でも起きているようである。
新高徳(しんたかとく)付近に差し掛かると、地元住民と思われる方々がこちらに向かって懸命に手をふっている姿が見え、こちらも嬉しくなってついふり返してしまう。清々しい気持ちになっていたら、すぐに次駅の小佐越(こさごえ)で停車をした。どうやらここで列車交換を行うようで、しばらくすると普通列車がやってきた。信号が開通して再び動き出したのもつかの間、すぐに東武ワールドスクウェアに停まり、SLは最後の一踏ん張りを迎えようとしている局面に達する。発車してしばらくすると、「ハイケンスのセレナーデ」の車内チャイムが流れて、鬼怒川温泉の到着放送が始まる。このチャイムを聴くだけでも乗りに来た価値があるほど、ひたすらに感動した。
そして14時06分。終着の鬼怒川温泉に到着した。36分という短い時間にもかかわらず、身体ともども非常に濃密にさせられた。魔法にかけられたという表現が適切かもしれない。後ろ髪を引かれつつ、ホームへ降り立つ。
ただし、これで終わりではなく、デザート的立ち位置になると考えられるが、SLが転車台で一回転する光景を堪能できるのだ。転車台は改札外の広場に存在し、その周りにはすでにたくさんの見物客がいた。私は遠目から眺めていたが、そこからでも迫力があったのが印象深い。
SLの回転ショーが終わりを告げ、人もまばらになったところで、私は鬼怒川の観光地へ歩を進み始める。



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