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麹屋の仕事

秋田県南の冬は降雪量も多く、厳しく長い。
春の山菜、秋のきのこ、雪解けから雪降りまでの間にとれる畑の野菜、とにかくありとあらゆる食材を乾物にしたり塩蔵したりして、冬に備える。私たちのところに限らず、雪の深い地域ではどこでも当たり前に保存食を作って冬を乗り越えてきた。そのほかの季節は、無事に冬を超すための準備期間と言ってもいいくらいに思う。

米どころ秋田の中でもとりわけ良質の米がとれるこの地では米を使った独特の嗜好品も数多くあり、保存食にも麹をふんだんに使う。一年食べ繋ぐ味噌は大豆の三倍もの麹を使い、漬物と言えば麹漬け、ごはんと麹を使って床を作るハタハタすしや甘さけで漬ける鉈漬けなど、たっぷりと贅沢に麹を使ったものが多い。私たち麹屋もおかげさまで商売がなくならず続いている。人口9万人世帯数僅か3万の横手市に、麹屋が20軒以上あると言えば、私たちの食卓に麹を使った料理がどれだけ登場しているかも想像してもらえるのではないだろうか。

もともと麹屋の仕事は委託加工業だったそう。
米農家さんが多いこの地域では、麹を「買う」という感覚が生まれたのはごくごく最近のこと。自分の田んぼでとれた米を麹屋に預けて麹に加工してもらい、一年分の味噌は家で手作りしたし、その時作った麹を塩切りして保存、またなくなったら米を預けて…の繰り返し。つまり、販売用の麹や味噌の需要はなかった、ということ。それが、じいちゃんの代では味噌も加工する仕事を頂くようになり、父の代では出来合いの味噌の需要も生まれ、いつの間にか麹や味噌は「買うもの」へと進化してきた。

これから、私たちの仕事はどうなっていくだろう。
発酵の世界的なブームがここ数年続いているけれど、本当に麹を自分のものにして使いこなしているおばあちゃんたちは、私たちの地域ですら少なくなっている。麹のチカラを知って、現代の食卓へ生かす。良質の麹を作り続けることと同時に、使い手を無くさない、増やしてゆくことこそ、麹屋の使命のように思う。

秋田のお祭りは豊作を願ったものが多い。写真は「増田の梵天」。2月の寒い寒い朝に毎年行われている五穀豊穣を願った神事。激しく競り合って奉納するけんか梵天とは違い、肩や手のひらに乗せて持ち上げる妙技を競う。

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