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本屋の本の本/『本の未来を探す旅ソウル』

当原稿は『H.A.Bノ冊子』第三号(2019/9〜11までH.A.Bookstore書籍購入者プレゼント)に掲載されているものです。現在の社会状況や無知で安易なヘイトの蔓延に憂い、本の本来の意味とちからを確かめるため、こちらで公開いたします。

『本の未来を探す旅ソウル』
編著:内沼晋太郎+綾女欣伸 出版社: 朝日出版社
ISBN: 9784255010014 発売日: 2017/6

 主語が大きいままでの思考は、だいたい見誤ると思っている。本屋とか出版に対してもそうで、「出版業界」とか言ってその言葉の複雑さを無視して、安易に全体を語る文章をぼくは信用していない。全体の話はどうでもよく、個人の思いや活動に惹かれるしそこからしか始まらない。なにごとも。

 本書は韓国・ソウルの本屋、出版、あるいはその周辺で仕事をする人々へのインタビューを収録した本だ。二〇一九年八月現在、韓国について国交をめぐる不和がとりだたされている。あいちトリエンナーレでの「表現の不自由展・その後」の騒動も大きく注目されたのは韓国(実際は韓国だけの問題ではないのだけれど)絡みの展示だった。人は「韓国」と大きな主語で語る時に、何を見ているのだろう。それは千差万別だと思うし、だからこそ、主語が大きすぎて漠然とした同調や反発だけで争っているように思える。国って規模を適切に想像するのには鍛錬がいる。それより私はまず友だちを信じたい。韓国に行ったことがないぼくにとっては、信じられる友だちは本でありその中の人でしかない(が、大体の人にとってもそうだろう)。韓国は本屋開業ブームだという。みんな経営に悩み、老舗は新興店の継続を心配し、新興店は新しい本屋の形を模索する。最近のZINEは商業出版に似てきたと憂い、出版社は儲からないといいながら出したい本を出すために奔走する。韓国独自の制度や歴史があり、街の歴史を残すための地域誌編集部がある。そしてなにより、みんな日本のことをとても勉強している。頻繁に日本の本屋を見に来ているし、出版事情にも詳しい人が多い。それは安易に、日本のほうが進んでいる、日本スゴイ、という文脈に消化されることではなく、むしろ逆に、私たちが韓国のことを知らない方が怠慢だ。勉強している人は美しい。実践している人はかっこいい。不勉強な私は国のことはまだよくわからない。でも、この本に出てきた人たちとはきっと友だちになれるし、いつかそうなりたいから、今日も本屋の本を読んでいる。

text:雅子ユウ

*書籍版(壱)には当書評は掲載されていません

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