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日記hibi/ 2019/3/11〜3/17

2019年3月11日(月)
 朝が起きられない。10時。眠い。耳鳴りがする。

 台湾に持っていったけれども、一文字も読まなかったケンリュウ『生まれ変わり』を手にとって、台湾旅行を経験したアメリカ人中国系作家の日本語翻訳版の本、となんだか妙な属性づけによって感慨にふけってみるが、それはただ荷物に潰されてくたびれた新☆ハヤカワ・SF・シリーズ以外のなにものでもない。読みながら事務所。

 10日が日曜日だったので11日は納税日であって、バタバタと銀行に向かい、いざ窓口へというタイミングで通帳を間違えて持ってきたことに気づく。このまえ新しい通帳に繰り越したのに、持っているのは一つ前の繰越済みの通帳だった。カードだけで入金はできないかと問うてみたもののそれはダメのようで、実際に通帳の磁気セキュリティなんてたかが知れていると思うのだけれど、ダメなものはダメで、銀行でダメなものは理不尽にダメ、ということは過去の経験から明らかで、だから一度事務所に戻って、それは電車で二駅戻るということなのだけれど近隣のみずほ銀行の窓口は下北沢にしかないので、戻って通帳を改めてまた二駅電車にのって戻ってきて、ぎりぎり15時まえに納税は完了する。疲労。

 そうこうしている時間はなく、B&Bで百書店用に入荷した本をチェックして入荷と未入荷をあらためて入荷の満足と未入荷の不満足と不安を胸に得たあと、そこから市ヶ谷まで移動してDNPプラザ。10分ほど遅刻する。すでに竹田くんは来ていて、百書店の会場の下見で、現場の人から説明を聞いていた。しれっと合流して、さも最初から聞いていましたという体で、うんうんうなずきながらレイアウトと導線を確認する。ルノアール。ルノアールが駅前にあったので竹田くんと当日までの進行の打ち合わせをして、市ヶ谷駅前の文教堂書店に寄って、どんなときでも書店があれば入りたい、寄って、帰って、粛々と百書店大賞冊子のレイアウトをつくって、それから味噌汁。味噌汁をつくる。お湯と、だしと、味噌と、ささやかなあおさ、これだけで絶妙においしい汁ができるなんて奇跡か。味噌汁は天才なのか。あたたまるからだ、あふれるやる気。で、またレイアウト作業に戻った。

 おそろしいほどの疲労。

2019年3月12日(火)
 ねむいおきるねむい。レイアウト。本文はだいたいできる。できたはず。

 そこから事務で、事務作業だけが延々と出来る日が週に4日は必要なのだけれども、そんな週はいっこうに訪れない。だから事務は溜まっていく。その日の、一作業は15分程度の細かい仕事を、細かくすすめる。タスクをへらす減らすherasu。減。
 のち、レイアウト。途中で友田さんから送られてきた原稿をよんで、歩き出さないが歩いていることを意識する。タイトルには今井麗さんのフレンチトーストの絵があるのか。それは「かなわない」のやつなのでは。みたい。
 それからレイアウト。表紙のイラストがまだ来ない。レイアウトレイアウトばかりしているが、このイラスト待ちの間に、確定申告を優先してやるべきかなと思っている21時。

 だったが、作業しているうちにすわったまま寝てしまって、なにをどうしても寝てしまうのでもう寝ることにして就寝。

3月13日(水)
 入稿データ。この段階で初めて気づいたのだけれど、グラフィックの冊子印刷で対応しているフォントとしていないフォントがあるようで、パッケージしてフォント情報を一緒に入稿してもダメなものはダメらしく、まぁそれで仕方がないので、PDFデータでの入稿にする。テキストばかりの冊子だし、これで文字化けということにもならないだろうとは思うけれども。

 百書店の冊子は入稿しておわり、確定申告がはじまった。

3月14日(木)
 今日は家で作業をしていて、夕方過ぎ、溜まった出荷を処理しに店に出向く。その小一時間ほどの出荷作業の間に、奇跡的に日販の人が来て、それは営業日を知らずに近くまできたのでやっているかと思って初めて覗いた、ということで、まぁ営業日じゃないんですけどたまたまいますし、すごい確率だと思うんでせっかくならどうぞ、と店内に案内する。新入社員と二年目、とのことで研修でOffJTの面談を、職場を離れて本屋を見ながら近隣のカフェなどで行っているとのことで、それはたいへんいい活動に思われた。取次の話をしていたら、この人妙に詳しいな、と怪訝な顔をされ始めたので、太洋社に勤めていて……、というと、それはそれで怪訝な顔をされ、あ、知らない……かな、まぁ、そうかもね。数年前にね、まぁ、倒産したんだけれども……、というようなことから伝える。正直けっこう、それは知っとけよという気持ちにならなくもなくもなくもないのだけれど、それは知らないかもしれないというか、入社一年目、二年目だと、そこそこ勉強しないと知らないよね、と思うし、僕自身、じゃあその時期に「鈴木書店」のことを知っていたかと言えばしらなかったわけで、それだけの年月が経過しているということだった。簡単に大切な思い出が歴史になっていってしまう。

 平日の昼間に蔵前にあまり来ないのだけれど、蔵前の店は木曜休みが多いようで、どこもシャッターがしまっている。ホワイドデーだったので相方にケーキでもと、やっているといいなと、よく行くケーキ屋さんに向かうとそこはやっており、無事おいしいものを調達することができた。ちょうと、予約したケーキを取りに来た家族、学校帰りなのだろうか、年齢違いの兄弟を伴った二つの家族が一つのケーキを取りに来ていて、この中の、あるいはこれから訪れる家の子の誕生日なのだろうか、そのホールのケーキを受け取るなり、子どもたちは楽しくなったのか、バースデーの歌を歌いはじめて、小さな店内はその声だけで満たされる。クソみたいな疲労の日々にも、美しい瞬間は訪れる。

 帰って確定を申告するために作業、作業、作業しているともうゴールしていいよね? という気持ちになってきて、保険の書類がどうしても見つからない中、それはおそらく納税か還付に5000円程度の影響を及ぼす書類であったが、それでも、もう……いい…や、とゴールした。

 おめでとう、おめでとう、おめでとう。

 朝でもいいのに、ひとまず投函してしまいたくて夜の街に繰り出してポストに投函し、帰りにビールを買って飲む。ケンリュウを、大変良い、良いぞコレは、とウキウキしながら読んでいるのだけれど、今回はSF慣れした読者むけの難解な作品が多いと思う。毎年一冊、日本語オリジナル短編集が出ているので、これだけ短期間に掘れば当然そうなる、とも言えた。

2019年3月15日(金)
 なにがいけなかったか、といえばおそらく寝る前に飲んだ花粉症の薬がいけなかった。だるくてだるくて、喉が痛くて、しかし起き上がりたくない、というような、最悪の体調でうたた寝を繰り返していたらだいぶいい時間で、さいきんめっきり日差しが強くなったのを、眩しく感じながら起床。既に10時を過ぎており、今週はこんなことばかりだがしかし喉が痛い、という中で水を飲みさっさと出かけることにして、バタバタと動いていると血流が回るのか、だいぶ楽になって、家を出る。近所の猫が今日は日向ではなく日陰で寝ていて、そうかもう暑いのかと思いながら、寒がりな僕はまだコートを着ている。

 甜茶を買う。オムライスラヂオで、西尾勝彦さんが甜茶を飲んだら花粉症がよくなった、というのでぼくもぼくも〜、と安易に飛びつき購入するためにいくつか近所のスーパーをまわったが売っておらず、そんなにマイナーなお茶なのかと落胆していて、それで、もしかして事務所近くの東急ストアにはあるのではないか、だって高級そうなスーパーであるし、と思い覗くと、コーヒー、紅茶、緑茶ときて、その緑茶の一番上の、多分そこ、本来は在庫とか置く場所ですよね? といった上段の棚にその「甜茶ティーパック」は鎮座していた。金色のパッケージで、ちょっと高級な日本茶、中国茶には金色、というのはもうスタンダードなのだろうか、その金色のパッケージで、ちょっとだけ高いお茶を購入した。が、事務所に戻っていの一番に淹れようと思ったのはコーヒーで、そう思ったら豆がなかったので、出、近くのコーヒー屋さんでテイクアウトしてやっと一息つく。
 甜茶を淹れたのは17時過ぎで、あまい。甘い感じのお茶とは、しかし美味しいのか、なんだかお茶の印象で口をつけると別の味がしてびっくり、みたいな、慣れたら美味しくいただける気もする、を飲みながら事務作業をこなす。
 定期的に開催されている事務所の飲み会があったが、ぼくは実質ボイコットを決め込み、自分のデスクでひたすら作業したのち、だれとも話さずに脱出する。

2019年3月16日(土)
 起き、店開け。ちゃんと店を開けられる自分は偉い。最大限の賛辞。

 絵本を作る話をニ件伺う。久しぶりに店にやってきた方が、いま学生と絵本を作っているんですというので制作工程だとか原価だとかの相談を受けて。急に電話がかかってきて知り合いが絵本を作っていて流通に悩んでいるようなので相談に乗ったってください、というようなことで相談を受けて。それで前者は、うんうん、そうですね、そうなりますね、そうですね、そうです。というような頷いて話を聞く作業を繰り返して、聞くところによると作者の学生は絵本が好きとのこと。後者はもう作っていて、ご本人は音楽活動をしていてそれは仕事として実績もあり、本はライブの物販で売っているのだけれどといううことで、それならば無理に流通させなくてもいいし掛け率さえ設定すればあとは置いてほしいお店にご案内するとか、仕入れたい方が検索すればすぐわかるように卸売の窓口ページを作っておくとかで十分じゃないですかね、ということで、ご本人は絵本が好きとのこと。なぜみんな絵本を作りたいんだろうか。ぼくはあまり絵本を読んでいないし詳しくもないからなのかもしれないけれど、絵本に関しては恐れ多さがずっとあって、本のジャンルのなかでどれが一番作るのが難しそうですか、と聞かれたら断然絵本だと思っていて、本当に、いい絵本はつくるのが難しいと思う。おはなし、イラスト、文字デザイン、装幀、全てが調和しないとずれていくし、その調和は、絵がかければできるものでも、おはなしが作れればできるものでもないと思っていて、だからいつも恐れ多い。「大人向け絵本」というのが、いつのころからか、『葉っぱのフレディ』からだろうか、なつかしい、で言われ始めていて、はぁそうですかと誰向けとかは気にしないで生きているのだけれど、ぼくがみてうぁこれすごいと思う絵本は総じて大人向けには作られていない、というよりは、普遍的な、それは何歳向けとかの枠には収まらない良さがあって、いまぼくは少ない絵本ボキャブラリーの中から『よあけ』とか『どうぶつたちはしっている』とかをイメージしているのだけれど、つまりだからいいものは年代を超えていいのだけれど、その「いい」という感じが客観的に把握できないところがあって、だからいつもすごいなぁと思うだけで本を閉じる。絵本を作りたいというモチベーションはすごいものだと思うのだけれど、その絵本が好きというのが、そういう制作の深淵にふれるような好きさなのか、ただ絵本が好きなだけなのか、でぜんぜん出来栄えが変わってくると思っていて、あなたはどっちなんだろう、どこまで追求するのだろう、と思いながら二つのお話を聞く。
 偉そうにいっているだけで、要は絵本の良し悪しは、「すごくいい」しかぼくはわからないので、聞かれてもこまるわ、ということであったりした。

 来日したイチローの一挙手一投足がTwitterで言及されている。急な天気雨がやってきて、驚いてトイレの窓を締めに行くと、昨年度は建て替えで休校中だった小学校が、ずっとあったはずなのに、急にあわられたはずがないのに、初めて見たかのように新築された校舎が目に入り、その、更地だったはずのところは、いつのまにか4階の店の窓からだと、視線がすこし上向くくらいの位置に屋上が出来ていた。目をやったのは、その屋上からぴょこぴょこと、なにか人の頭のようなものが見え隠れしていたからで、あれはきっと子どもだった。雨の中、子どもがぴょこぴょこと動き回っているその奥で、夕暮れ直前の太陽はまだ綺麗に光っていて、急に、そうか新学期がもうすぐはじまるんだと気づく。

2019年3月17日(日)
 店をお休みにして、今日は家庭の日、という感じで相方と上野を散策する。普段歩かないのと、人が多いところにもいかないのが合わさって、土日に繁華街に外出するとすぐに足に来てしまうところがあって、上野公園をぐるっとさんぽするだけでもう座り込む程度には疲れてしまう。ベンチに座って、隣の遊具で子どもが入れ替わり立ち替わりめいめいの方法で楽しく遊んでいくのを眺めているだけで時間がすぎる。足が痛くて、夜はそのまま近所の銭湯に流れ込み、ふわふわとしながら体を伸ばす。百書店大賞の冊子も入稿したし、確定も申告したし、こう、なにか弛緩したい。弛緩したままずっと緩やかに伸びていく。ダラダラと。溶けてしまいたいが簡単に溶けられるはずもなく、湯船の中で覚醒。

#READING  『生まれ変わり』(ケンリュウ、早川書房)

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