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日記hibi/ 2018/10/1〜10/7

10月1日(月)
金曜日にタイムトライアルみたいな感じでイベントまでの時間ギリギリ作業できなかったことが、土日は店の仕事で手一杯で出来ず、そうして月曜日に持ち越しされたがしかしながら今日もできないかもしれない状況に追い込まれた夕方。一体何をしていたんだろうと思うのだけれど、仕事していたのであって、仕事をしている。
夜は夜で銀座に行くことになっており、そこの、衣装屋さんで、着せ替え人形的に衣装をとっかえひっかえしたのがちょっと前で、この日は小物合わせ的なものにでかけた。こういうとき男性というものはほとんどやることもないので、待ち時間のあいだに延々とパソコンで作業していたら、相方から「きみってそういう人だったよね、そうだった」という目で見られた。おかげさまで仕事は一つおわった。天丼をたべて帰った。

それでふと思った。『百年の孤独』が見つからない。ないなー、ないよなー、ということはうすうす数日前から気づいていて、というか、おそらく盛岡に行って帰ってきたときから見つかっていなくて、盛岡以降は『本を贈る』であるとか、仕事で必要な本をちょこちょこと読み進めることが長く、メインの本がないままけっこうな日数を過ごしてしまい、気になっているけれどもなんとかなるという状況がずっと続いていたのだった。
本の行方がわからなくなるなんて、なんてマジックリアリズム! と思わないでもなかったが、本の中に本が紛れてしまうなんてこと、日常茶飯事すぎる、という気がしたので、ただのリアリズムのような気もする。

10月2日(火)
10月2日オープンのお店の、インタビュー原稿を10月2日にやっていた。オープン前の話なので、オープン前に出す意味があったはずだか、それはそれとして原稿は深夜にまとめられ、「オープンおめでとうございます」的な挨拶とともに校正確認に回っていった。それでたいがい深夜になってしまって、いまの住環境でひとつ不満があるとすれば23時以降にお酒なしでご飯が食べられる店がラーメン屋くらいしかないことで、ラーメンを食べるとお腹を壊しがちでめったに食べないので、つまり24時に帰ってくるとスーパーという体裁を最低限保ったマルエツプチ(なぜかここは24時間やっている)かコンビニでなにか買うしかなくなるのだけどなるべくそういうものもおいしくないし食べたくないので、必然的に家でなにか作る比率が高まっていて、そういうことで家でごはんをつくって、お酒なしでごはんを食べる店がないことを嘆いているのに、結局家で日本酒を飲んで、そのまま倒れるように寝た。

10月3日(水)
今日はずっと火曜日だと思っている雰囲気がある。まだ火曜、火曜日なのであって、まだまだ今週は時間があるぞと思って、心の余裕を感じることのできる火曜。
昼に蔵前の店で打合せがあったので、その方と一緒にせっかくならごはんでも、という話になり、駅前に新しくできた「つばめ」?「とんび」?みたいな名前の店に、調べてみたら燕の難しい字で「えん」と読むみたいなんだけど、なんかそういうところに初めて入ってパスタをたべた。ここが前は長浜ラーメンだったことを僕は知っている。こういう、とりあえず古いビル潰してホテルにするか、あたらしい店に改装するかが相当この界隈は流行っている感じがある。コーヒースタンドと雑貨とごはん、というようなところで、なんだか昼なのにこんなに混んでいないのやばくない? という気がしたんだけれど、それでいいのかもしれない。そのあとソルズコーヒーに行って今日の豆、的なコーヒーを飲んでたいへんな酸味を感じた。今日の豆。一期一会でどうにもリピートしづらいやつで、もうすでにどこの豆だったかを忘れてしまっている。
打合せも終わったので、代々木八幡の事務所に向かい、しごとをして、両国まで帰ってきた。移動距離が相も変わらず長い。
当然、というか今日は火曜日じゃないんだ、ということはうすうす気がついていて、水曜日だったが、火曜だという気持ちで過ごしたので、だから今日は火曜日だった。

移転した新潟の英進堂が再オープンした。

10月4日(木)
粗大ごみをだす、という昨日の夜のタスクをすっかり忘れていて、なんなら粗大ごみの処理券すら買っていなかったので、朝起きてすぐに買いに行って、貼って、そうして家の前に出されたが、そこそこ回収の開始時間からは遅れてしまった。8:00から15:00くらいまでに来ます、というやつなので確率的には大丈夫っぽい雰囲気があるが、まだ間に合っているのだろうか。いつもの可燃ごみ、とかなら回収の有無がわかりやすいのだけれども、粗大ごみはウチしか出さないという代物なので、全く確認の手立てがなく、怖い、ただただ不安であったが、ほかにしようもないので開き直って放置し、打合せのため下北沢に赴いた。
本屋を始めたいのだ、という人の話を聞き、世の中にすてき本屋が増えるという夢を抱いたが、それはぼくの夢ではぜんぜんないというか、他の人が本屋をやるのは超応援したいので全力で支援したい気持ちがあるが、ぼくの夢を押し付けるというか、なんか超よさそうじゃん、ハッピーじゃん、やろうよ! みたいなアオリをするのも無責任な気持ちがあり、結局当人の人生なんだよなぁ、と請われる分は話すだけ話して、それで気持ちの上では全力で応援して、それから無力感に襲われて、無力、というか、なんか、何をどうしたってぼくがやるんじゃないんだもんなぁ、という、なんか、なんか心が落ち着かない感じがあって、アドバイスってほんと、どうにも性に合わないなぁという気持ちがしていた。コンサルタントとかでお金をとるのが、まじで出来なくて、つまるところお金を稼ぐのが苦手だった、や、今回は別にぼくはぜんぜんお金もらっていないんだけど、なんだかどうにも、そういうのに後ろめたさが超ある、ということまで思い出してしまって、無力、というか、無能感があったのであった。お店はたいへん楽しそうなので超応援したい。

夜、けっこうな夜まで作業をしていた結果、これまでなんかずっと恐ろしく仕事が終わらなかったんんだけれど、終わらないなりに終わった、という感じを得る瞬間があって、21時くらいから若干の虚無感があった。あ、いま「追われていない」と思った、がもちろん追われていた。追手の勢いが弱まったというたぐいのことであったが、ふっと、一瞬でも軽くなったのでビールを飲んだ。のんだらすごい勢いで回ってしまい、楽しくなって一人で飲んでいた。

トランプ占いなど信じるやつがあるか、と叱っておきながら、彼は黙って衣装だんすやトランクを掻き回し、家具を動かし、ベッドや板張りまで持ちあげて、お骨の袋を探した。それを見かけなくなったのは改装のころからであることを思いだした。ひそかに左官たちを呼んで聞いてみた。するとそのひとりが、仕事の邪魔なので、そこらの寝室の壁に塗りこめたことを白状した。壁に耳をあてて何日か聴診のまねごとをやっていると、コトコトという音が聞こえた。壁に穴をあけると、無傷の袋に入ったお骨があった。
一時はその心に重くのしかかっていた負担から開放された軽やかな気分で、ホセ・アルカディオ・ブエンディアはわが家へ帰った。台所を通りかかったついでに、レベーカの額にキスをして言った。

『百年の孤独』が見つかった。

「もう何も心配することはない。きっと幸せになれる」
(ガルシア=マルケス『百年の孤独』p.96〜97)

10月5日(金)
夜にイベントの案内をいただいていて、できれば行きたいなぁと思っていたが結局そういう余裕がないまま夜となり、そのまま仕事をしていた。けっこうな覚悟が、最近イベントに行くことについて必要になっている。そうなんだけど、田原町のリーディンライティンで、ツバメ出版流通の川人さんとTitleの辻山さんのイベントがあるそうで、

このトークイベントでは、ツバメ出版流通の川人寧幸さんと、荻窪の本屋Title店主の辻山良雄さんをお呼びします。
20年前、まだ20代だったお二人は、実はリブロ池袋本店の仕入課で仕事をされていました。
その後は取次、書店と別々の道を歩まれたお二人に、 当時のことを振り返っていただきつつ、この20年のあいだに受け取ってきた“贈りもの”についてお話を伺います。

とあった。なんだかとっても驚いてしまって、あのビシャモンの思い出を共有している人が身近にいるんだなということもわかって、ぐっと来てしまっていの一番に申し込んだ。けっこうな覚悟はあるつもりで、それは最近ではとても珍しいことだった。

10月6日(土)
要因は、と言われれば、おそらく今週の水曜日、いや火曜日、いや火曜日だと思っていた水曜日、にもとめられるのだと思うけれども、ぜんぜん朝から土曜日! という感じがしなかった。週間、を把握する唯一の指標は、「土日に店を開ける」というものであり、それで本日が土曜日であったことが正確に認識された。
わざわざ取次仕入の本を取りに来てくれるよ、という奇特な方がおり、ありがたいなぁ、送料がないというのはなんとありがたいことなのか、と。いそいそと準備をすすめた。箱詰めがないのはちょっと残念だけど多少の資材費も浮くし、なんとありがたいのだろうかと思っていたら、いらっしゃって、その場でお支払いいただき本は手渡された。

店を閉めたあと、今週も大好きホームセンター、に赴き、家の本棚用のブロックや板材が購入され、豊洲でビールを飲んで生姜焼きを食べて、月島でビールを飲んで刺し身をたべた。休日感があったので、今日は土曜日かもしれない。

10月7日(日)
店に入ると、小さな蜘蛛がいた。さっと倒してしまおうとおもって、ふと、そういえばこのまえ、誰だったかも忘れてしまったんだけれども、「蜘蛛は害虫を食べるから殺さない云々」という話をされたことを思い出して、害虫? 蜘蛛以外の? や、蜘蛛は害虫ではいのか、や、にしても、ではこの部屋に蜘蛛が駆除すべき害虫、つまり虫がほかにもいるのだろうか、いないのだろうか、どちらにせよいやだな、というか客商売だものなこの店は、とおもって、やはり! ここはやっつけねば、と思い再度見たら蜘蛛はすでに逃げてしまって、どこにいったのかもわからなくなってしまった。蜘蛛。よくわからんが、害虫駆除のこと、よろしく頼む、と新たな気持ちでポジティブに見送ることにした。

奈良県吉野郡から荷物が届いて、荷物を開けると時々、こもった、湿った空気が流れ出てくることがあるのだけれど、この荷物もそうで、なんか人の家というか、ここにはない香りというか、味というか、雰囲気の空気が流れ出して、奈良県からはるばるどうも、東京・蔵前の空気はどうだい? という気になった。空気さんはすぐに蔵前に馴染んだようで、それぞれ好きな場所に散っていった。
営業中に不動産屋のおじさんがやってきて、物件の更新契約にハンコをおして、名実ともに3年間の契約が更新された。ぼくもすっかり馴染んでしまい、蔵前の空気がどんな味だったのか、もうよくわからなくなっている。

#READING  『ルッチャ2號』

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