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『形骸的認知が生み出す事件』

#創作大賞2022
#形骸的認知
#事実誤認
#認知症

或る迚も仲の良い親子がいた。

早くに父を亡くして
女手一つで息子を育て、
息子も母の期待に応え、
仲睦まじく暮らしていた。

息子はその後結婚して家を出る、
残された母に異変が訪れたのは
間もなくの事であった。

最初は誰も母の異変に気づかなかった、
其程昭和の肝っ玉母さんは気丈に振る舞った

然しその内誰もが彼女の変化に気づき始め、
そして遂に息子は決断し脳外科受診をさせた

結果は初期の認知症と脳梗塞であった。

其処から目に見えて彼女の記憶は衰え始め
息子もこのままにはしておけぬと同居を提案、だが何故か母は申し出を固辞し続けた。

其迄何処へでも一人で車で外出していた人 だが認知症と診断後は其も不可能となった。

息子は母を思い万が一無免許運転で
人身事故を起こしたら大変と車の撤去を
申し出たが烈火の如く怒り狂い暴れ回った。

其はこの車は亡き夫の形見だったから、
亡き夫が買ってくれた車だったから。

絶対に一人では乗らないと誓約書迄書かせ
やっと双方の合意を得て問題は解決した。

だが其から間もなく事件は起きた。

買い物先で近所の人が
車に乗っていた彼女の姿を見たからだ。

その話は直ぐ様広がり息子の耳にも届いた、
息子は烈火の如く怒り狂い母の懇願も無視し
車を撤去させた。

母親は失意の余り息子の不在の隙に家を出た
そして懸命な捜索の結果山で亡くなっていた

遺された遺書を読んだ息子は己の早合点を
心から悔い天へ昇った母へ土下座して泣いた

確かに母は車に同乗していたが
運転はして居なかった。

知人男性に代行運転を頼んでいたからだ、
裏もちゃんと取れ母は運転していなかった。

母が運転席に座っていたのは男性がトイレに立ち帰ってくる少しの間、懐かしさで運転席に腰を下ろしただけで運転はしてなかった。

だがその姿を運悪く近所の人に見られ、
早合点をして運転していたと吹聴した。

息子自身も真実を確認すべきだったのだが、
激しやすい性格故に其を怠っていたのだ。

何度悔いても侘びても母は二度と帰らない、
10年以上経過した今も息子は其を悔いながら
日々を暮らしているという。

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