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ニューマン製品の年代特定の手がかりとシャープペンシルのJIS規格について

かつて存在した文具メーカーであるニューマンの製品について、販売時期が分からないという質問を頂くことがよくあります。

特許(実用新案)権の登録情報をもとに開発時期が割り出せるものもありますが、ロングラン商品が少なからずあるため、機構や技術が同一でも、販売時期がかなり異なるものもあります。

そのため、現存する製品の箱や説明書、特許庁の公表している特許(実用新案)権の登録情報、JIS規格の情報、株式会社ニューマンの会社情報などの多角的な視点から製品を比較して、販売時期を絞り込めるものは情報発信を行いたいと思います。

なお、筆者は、かつて存在したニューマンという文具メーカーを創業した、皆川辰三の孫です。

今なお、ニューマンの製品を収集されている方の一助になれば幸甚です。

なお、ニューマンの創業者である皆川辰三は、シャープペンシルの日本産業規格(JIS規格)の制定と、そのシャープペンシルのJIS規格を国際的な規格であるISO規格に押し上げる事業を行っており、このノートで文具に関するJIS規格の制定の歴史も同時に紹介しています。

まず、年代特定の手がかりとして、箱と説明書が大きな手掛かりになります。特に、次の写真にあるオレンジ色の箱は、かなり古くから使用されており、ニューマンが個人経営の製作所から法人になり、更にNEWMANという商標が、シャープペンシルのブランド名であったのが、法人名として採用されるまでの過渡期に使用されていたため、法務局に登記されている公的な記録と比較できて、年代特定に役立ちます。

ニューマン製品の箱にみる販売元表示の実例

ニューマンの会社沿革は次のとおりです。
|1946年    ニューマン創業(辰和製作所)
|1954年8月 株式会社 辰和として法人登記
|1963年    株式会社ニューマンに商号を変更

ニューマンは、最初は個人経営の製作所として事業を開始し、その後に法人として登記しています。今は1円の資本金でも株式会社を設立出来ますが、昔は株式会社の設立には資本金などの高いハードルがあったため、個人として事業を開始して、事業が成長したら法人として登記するのが一般的でした。法人になるということは、法務局に登記する必要があり、公的な記録が残るため、時期の特定において信頼性が高くなります。

また、製品の商標名であったニューマンを法人名に変えるということをしていて、法人名の変更も法務局に登記されており、年代特定において同じように信頼性が高くなります。

昔は、会社名には漢字名を使うのが一般的でしたが、戦後に英語が普及してくると、社名を横文字にすることが一種のブームとなりました。

私は、祖父と同じように会社経営をしていた母から「昔は、横文字の会社は伸びるという一種のジンクスがあった」と聞いています。母も、横文字の会社を設立していますが、そのようなジンクスにあやかったと言っていました。

ブリヂストンが、創業者の石橋さんの名前を英訳した「ブリッジストーン」が元になっていたり、キヤノンが観音が元になっていたり、ダスキンが雑巾という社名にしようとしたところ社員の反対にあい、英語で雑巾を意味するダストクロスと雑巾を掛け合わせて社名にしたという例があります。

蛇足ですが、1915年に早川式繰出鉛筆(シャープペンシル)を開発したシャープさんは、1935年に株式会社早川金属工業研究所として法人化していますが、戦後の1948年にシャープ商事株式会社に社名を変更しているように、世間で認知されている製品名などを社名にする例は他にもあります。

製品の箱や説明書に、株式会社 辰和と記載されていれば、1954年8月から1963年の間に販売された製品とわかります。
製品の箱や説明書に、株式会社ニューマンと記載されていてば、1963年以降の製品とわかります。

難しいのが、完全に無地の製品です。法人組織になる前の製品かと思っていましたが、そうとも言い切れません。

筆者も、過去に社名変更した経験がありますが、封筒やパンフレットなどの発注をする際に、あえて法人名を記載しない版下を使用した経験があります。社名変更は、様々な影響があることから、ある程度の期間を置いて実行することが多いと思います。しかし、印刷物を発注する場合に、ロットといって同じ印刷の版元を使用して、一度に大量に発注しないと1枚当たりの印刷単価が高くなる傾向にあります。そこで、法人名の変更が決まってから、印刷物に法人名を入れず、ゴム印のスタンプ等であとから法人名を追加できるようにしました。

このような理由から、無地の箱が存在すると考えられます。もし、個人経営の製作所時代に製作したものであれば、「辰和製作所」と記載しているのが自然だと思われます。なお、個人事業主の時代に対外的に辰和製作所と称していたことは、シャープペンシル工業会の発行する「シャープペンシルのあゆみ(P130)」で確認できました。また、法人名を株式会社 辰和として、法人化した後も、英語名ではThe Tatsuwa MFG CO.,LTD.と称していたことが箱の記載からわかっています。MFGとはmanufacturingの略で、製作所を意味します。和訳すると「株式会社 辰和製作所」となります。

そうなると、無地の箱は商号の変更される1954年の前後数年の範囲に販売時期が特定できるものと考えられます。しかし、個人事業主時代のものかもしれないため、無地の箱の製品をより多く収集して、結論を得たいと思います。写真の無地の箱にあった製品は、比較的後年のもので、同封の説明書には株式会社ニューマンと記載されたものが入っていましたが、説明書にJIS〄マークがり、流石に近年するぎるのと、このオレンジ色の箱の時代は、説明書の紙が薄紙で大きいものが入っていることが通例のため、販売者の手で入れ替えられている可能性も否めないためです。

以下に、ニューマン製品の箱に書かれた字体と、ニューマンの会社の沿革とを並べて年代を比較する図を掲載します。

ニューマン製品の箱にみるロゴの記載の変遷

NEWMANの英語表記のロゴは、頭文字のNの字の先端が伸びていて、文字全体の上を覆うようなデザインが特徴です。しかし、上記の図のとおり、初期のNEWMANのロゴは、緩やかにカーブしているデザインとなっており、株式会社 辰和の時代の末期に尖った鍵型になったことが分かります。

説明書に印字されている、NEWMANの字体については、少し状況が異なります。箱に印字されているよりも、NEWMANの頭文字のNの字の先端が、より強くカーブしており、U字型あるいはJ字型のようになっています。
(但し、ものによっては前述の箱に印字されている字体と似たような、Nの字の先端が緩やかなカーブになっているものもあります。)

株式会社 辰和時代の二色リレー式シャープペンシル
株式会社 辰和時代の回転繰り出し式シャープペンシル
株式会社ニューマン時代初期の箱に入ったノック式式シャープペンシル
株式会社 辰和時代のノック式シャープペンシル

説明書に表記されているNEWMANの英語表記のロゴが、上記の画像のように、頭文字のNの字の先端が、より強くカーブしており、U字型あるいはJ字型のようになっていれば、非常に古い製品であることが分かります。

また、説明書の紙質は、薄紙で比較的大きい場合にも、古い製品であると判断できるポイントになります。なお、株式会社ニューマン時代初期の箱に入っている説明書のNEWMANの字体が、このような古い字体である場合がありますが、既に記載しているとおり、説明書などの印刷は印刷業者に外注するのが一般的であり、印刷はロット数が多いほど印刷単価が安くなるため、箱の字体が変更されたあとも、一定数の説明書のストックがあったためと推測しています。

下記の説明書は、JISの記載があることから1975年以降と判断できます。更に、1978年に統廃合により消滅した中央区宝町(現在の中央区京橋1~3丁目)の住所が記載されていることから、1975年から1978年の間という非常に狭い範囲で時期を特定できる説明書です。

JISの記載のある初期の説明書

次の説明書は、比較的新しいものになります。それぞれ、年代を見分けるにあたり、ポイントを図にまとめました。


比較的新しい製品の説明書(JISの記載のある説明書を含む)

シャープペンシルの日本産業規格(JIS規格〄)から年代を判断できる理由を次のとおり説明します。
日本シャープペンシル工業会の刊行している「シャープペンシルのあゆみ」からシャープペンシのJIS規格の制定経緯と、製品の販売時期特定ができることが判明しました。

私の祖父である皆川辰三を含めて、委員会が発足し、1956年にシャープペンシルのJIS規格〄が制定されました。制定当時は、シャープペンシルのJIS規格番号であるS6013にハイフンで制定年である1956をつないで、S6013-1956という規格が割り当てられていたようです。
しかし、制定当初のJIS規格では0.9mmより細い芯は規格化されていなかったようです。

日本シャープペンシル工業会の刊行「シャープペンシルのあゆみ」よりJIS規格の制定

その後、1961年に0.7mmなどの新しい芯をJIS規格に追加するか否かで議論となり、結局追加されなかった経緯があったようです。


その後、1966年にもJIS規格改定について検討されたようです。

皆川辰三理事長よりJIS規格に0.7,mm,0.5mm等の細芯の追加について説明

ニューマン創業者の皆川辰三は、当時はシャープペンシル工業会の理事長であり、JIS規格の改定について提言をしていたようです。当時、国家の権威というのは絶大で、0.7mmや0.5mmの細芯をJIS規格に追加するのが「当局の意向」であるとして、祖父が説明していたとありますが、これは国家の権威を背景に、工業会の同意を取り付けようとしたものと、個人的には思っています。国に働き掛けて、そういった意向を引き出しのではないかとも考えています。しかし、結局はJIS規格の改定は見送られました。

その後、1974年にJIS規格がついに改定されて、0.7mm、0.5mm,0.3mmのシャープペンシルが追加されることとなりました。

通常、この当時のJIS規格は、シャープペンシルのJIS規格を示すS6013に、制定あるいは改定年をつけて、S6013-1974となるはずですが、実際に記載されているのは、S6013-7455です。一般財団法人 日本規格協会が不明というので、これは、あくまで筆者の推測ですが、新たに機構等によって種類が分けられたという趣旨の記載があるので、7455のうち74は改定年の1974年を意味していて、55は種類か芯径による区分番号だと思われます。
 いづれにしても、0.9mm以下のシャープペンシルがJIS規格に追加されたのは、1974年以後なので、製品の本体に〄マークがあるか、JIS規格の表記されている説明書が付属していれば、1974年期以後に発売されていた製品だと分かります。

一般財団法人 日本規格協会

話が少し脱線しますが、全く同じ製品なのに値段が大きく異なるものがあるのはなぜかという質問をよく受けました。製品の質感や特徴から、ある程度新しい製品なのか、非常に古い製品なのかは検討がつくため、逆さクリップのように、比較的新しい製品が200円のものと300円のものとあるのは、オイルショックが原因で物価が高騰したためではないか、という見立てを、あくまで推測としつつ回答してきました。

しかし、この度JISマークに着目したところ、その仮説を裏付けるような発見がありました。

一色式の0.7mmの回転繰り出し式シャープペンシルで、全く同じ製品にも拘わらず、定価が150円のものと、250円のものとあるのですが、250円のものにだけ〄マークがありました。0.7mm芯径のシャープペンシルがJIS規格に組み込まれたのは、既述のとおり1974年です。

JISマークの有無

その、前年である1973年にオイルショックが発生し、物価が高騰しています。

オイルショックに関する記述
ニューマン創業者・シャープペンシル工業会理事長 皆川辰三(写真中央)

先日、Twitterで普段からご連絡を頂いているシャー鉛さんが、廃業店さんでニューマンのガラスショーケースを入手したとご連絡をして頂きました。それによって、NEWMANの字体の変遷がショーケースにも反映されていたことが判明し、非常に驚きました。シャー鉛さんの承諾を頂いて、画像をリツイートさせていただき、そのことを公開したところ、この字体の変遷を示す製品をして、示準化石と言われた方がいらっしゃいました。

筆者の中では、ある程度このような知見の積み重ねから大体の年代推定ができますが、それを年表のように見やすくまとめたものを公開しようと思ったきっかけでもあります。

これらの、Twitterフォロワー様から頂いた貴重な方法をもとに、年代による字体の違いを示すガラスケース什器を紹介します。

ニューマンのガラス什器

最後に、JIS規格に関連して、祖父は生前 JIS規格をもとに、国際検査規格(ISO)の基準に押し上げるため、海外でも活動をしていたそうです。シャプールペンシルのあゆみに、その一旦が掲載されていたので、巻末に記載させて頂きます。
ある時期を境に、JISマークを説明書に記載するようになったということには気づいていましたが、このようにJIS規格とISO推進をしていたことを考えれば合点がいきます。