2022/9/25パラダイス @森ノ宮ピロティホール 雑感と考察

丸山隆平さん主演『パラダイス』を観劇してきました。
幸いにも私のまわりにはない光景だけど、確かにすぐそこにある、という手触りがあって、日本の行く末、こどものこと、親のこと、周りの人たちのこと、そして自分のことをすごく考えてしまう。
この日本はパラダイスなのか?本当に?
正直メンタルにめちゃくちゃきた。

丸山さんの気持ちの揺れ、場面によって表情を変える表現がすきです。二面性三面性って誰にでもあるよね。
席が遠かった上に双眼鏡も持ち合わせていなかったので表情が見えなかったのは残念といえば残念でしたが、お芝居として俯瞰的に見られたのはよかったです。
キャストの皆さんもめちゃくちゃよかった!
市川家のリアル感、掛け子部屋の若者たちの諦念やさとり感、ボウリング場・屋上シーンの狂気。ヒリヒリしました。
あと丸山さんスタイル良すぎ。
あの尖った靴で踏まれたいし、見下されたい。

以下、ネタバレと雑感、考察です。
印象的なところだけ書いてるので、シーンの抜け漏れあるかと思いますがご了承ください。

冒頭、掛け子部屋
丸山さん演じる梶が、研修生の原田をボコボコにする。そのときに梶が言うには、「暴力を振るいたくて振るっているわけじゃない、ここまでやらないとわからない、悪霊祓いのときに背中を思い切り叩くような、そんな感じ」と行為を正当化する。
これは暴力を振るわれている当人にとっては躾(言葉が適切でなくすみません)だし、それを見ている周りの人間に対しての見せしめだし、暴力はこんなにも簡単に人を服従させてしまうんだ、ということを感じて恐ろしくなる。
梶は原田が遅刻したことに対して、原田に皆に謝るように言い、原田は他の研修生にも謝るが(梶はここで手打ちにしたかったと思う)ひとりだけ「原田を許すつもりはない」と言う研修生がいた。
たぶんこの時点で梶的には「何言うてんねんこいつ」だと思うし、イラついてたはず。梶の腹心である真鍋も、「梶さんに口答えするな」みたいなことを言ってたような気がする。
でも梶はそこから、研修生たちに対して話をし、これ(詐欺)は世間への復讐だ、と言う。誰か特定の人ではなく、世間への復讐。その気持ちは、もしかしてわたしたち世代は多かれ少なかれ皆持っている気持ちかもしれない、とわたしは思う。それを表に出すかどうかは別として。

ボウリング場シーン
梶はボウリング場にヤクザであり詐欺グループ元締め?である辺見に会いにいく。
辺見は青木とボウリングに興じていて、青木の「集中!」という掛け声にイラついたりはしているものの、概ねご機嫌であったと思う。
ていうか青木のやばさが鼻につく。「集中!」の掛け声とか、確実に目上である辺見に対して煽る感じとか。
ボウリング場で、辺見は梶が独立しようと動いていることを噂で聞いた、とした上で、梶の家族について詳細に述べ、自分を裏切ったら家族に危害を加えると暗に示す。
そのあたりが妙に生々しくて、ボウリングとのギャップにくらくらする。

市川家
アマゾンの宅配業者にクレームの電話を入れる姉(しかもめちゃくちゃマシンガン)、険悪な両親、の家に、5年以上ぶりに帰ってきた梶。
家族は梶に過剰なリアクションはしないが、泊まっていくならお寿司取るよ、という母の受け入れもある。
ていうかここ、梶が帰ってきたことに対して家族がノーリアクションすぎて、梶のこと見えてないんかと思った。
父と母の険悪さが取ってつけたようではなく、姉のガサツさと合わせて、どこかにありそうな手触りでとても居心地が悪い。

屋上BBQ
舞台上段(屋上)でBBQをする辺見、青木、真鍋、若林(研修生のうちのひとり、冒頭シーンで口答えしたやつ)。青木のテンションの高さが異様。でもこのときは、まだ青木がただのお調子者なのかな、と感じていた。
舞台下段(掛け子部屋)では、研修生たちが昼食を摂っている。その中で望月道子だけは電話をかけ続けている。
「底辺」の中でも使う者と使われる者に分けられる、シャンパンやロマネコンティを開け肉を食う者と、カップラーメンをすする者。ギャップがありありと浮かぶ場面。
若林がヤクザの息子だと知り、チヤホヤする辺見の小ささ、卑屈さのようなものが垣間見える(本人は臆病だからと自称していたように思う)
そこに登場した、雑居ビルの4階の精神科に通院しているという中年男。微妙に噛み合っていない会話が絶妙に気持ち悪い。男は「8月に富士山が噴火する」と言い、辺見はそれを窘める。
中年男と入れ替わりに屋上にきた梶は、そこにいる若林を叱責する(他の研修生は下で仕事をしているのに、なぜお前はそこにいる、と)このあと梶は若林に煽られてブチ切れて若林をボコボコにするんだけど、梶がこのとき、辺見を見限ったと同時に下で働いている研修生に肩入れしたような気がした。今まではただの駒のようだったのに、少し愛着が湧いたような。ちなみに梶が若林をボコボコにしてくれてちょっとスッキリ。笑
梶は、独立すると辺見に言い、真鍋を連れて掛け子部屋に戻る。

さてそのとき、掛け子部屋では、昼食を摂る研修生たちと、電話をかけ続ける道子の姿。道子は、冒頭シーンで梶の「復讐」の話に共感していただけあって、昼食も摂らず、責任感のようなものを持って、一心不乱に電話をかけ続ける道子の姿にいじらしささえ感じる。
何本も何本も詐欺電話を失敗し続ける道子と、きっと道子のことが好きな今井と、茶化すその他。
「わたしのことチラチラ見てますよね、梶さんに監視しとけって言われたんですか」「いや僕は心配で」「わたしの心配より自分の心配したほうがいいんじゃないですか?!」の掛け合いは結構共感。そう思うことあるよね。
そして、ついに120万の詐欺電話を成功させる道子。梶はよくやった、頑張ったなと道子を褒め、道子は泣く。わたしもよくやったと思っちゃったよ。やってること詐欺なのに。
道子にとっては、これが犯罪だということよりも何かを成し遂げた、ということのほうが大きいんだな。達成感とか充実感とか、若者が味わいにくいそういうようなもの。そういう瞬間ってもしかしてあるかもしれない。

市川家が猫をさがすシーン
いなくなった猫をさがす市川家の面々と、梶。
お父さんがちゅーるを買ってみんなに配るシーンでは、父母の雪解けが感じられたようにも思えたが、そのあとの家のシーンでやっぱり喧嘩してて、何十年の歴史はそんなことで帳消しにはならんよな、と思ってしまう。
みんなが猫をさがすために散り散りになったあと、梶は真鍋に電話をかけ、真鍋に足を洗って沖縄にでもしばらく逃げるように言う。梶は、家に帰ったらときに猫が死んでいた、たぶんアレは実家の猫で、やったのは辺見だと思う、と伝える。(辺見、やることえげつなすぎ)
もうこのあたりで、梶くんめっちゃええ子!というか、人間の心戻ってきた、と思った。このあたりは、家族と接したからこその心の揺れなのかな。
あと電子タバコふかしながらガードレールに腰掛けて片足をガードレール下段にひっかけ、携帯で喋る梶くんめちゃくちゃセクシーでした。すき。
電話が終わったあと、姉と話す梶。この梶はめちゃくちゃ無邪気で、仕事場での梶とのギャップを感じさせる。かわいい。

再び屋上
(このシーンは畳み掛けるようにいろんなことが起こったので、順番があやふやです)
辺見と、青木と、包丁を持った梶。舞台上手のブルーシートが生々しくて、想像が膨らんで視界に入れたくないのにどうしても見てしまう。
辺見と青木は花火を見たくて屋上にいるらしい。出前寿司を見て、辺見はまだ梶が付き人だった時の話をする。梶が付き人だったとき、家事をしたり洗車したり、辺見と愛人がセックスレスだったから愛人の相手をしたりしていた(ふーん、エッチじゃん)
梶を銀座の寿司屋に連れていった時、梶が「カウンターで寿司食べたの初めてです」と言って泣き、愛人ももらい泣きし、恥ずかしくて堪らなかった、と。
煽っているようにも馬鹿にしているようにも見えるけど、あー、辺見は梶に対して、可愛さ余って憎さ百倍なんだな、と思った。
梶は、「もう終わらせたい、死んだ猫を死んだと知らずに探している家族を見ていたたまれなくなった」と言う。正直辺見を刺しに行くのは猫よりもうちょいエスカレートしてからじゃない?と思ったけど、逆にその程度で刺しに行くほど家族の姿を見るのが辛かったのかもしれない。
青木は梶に銃を向ける。銃は手製らしい(アレやん)
青木がブルーシートをめくって、その下にいたのは瀕死の真鍋。真鍋は、辺見に梶を許してもらうために、指を詰めて持っていき、ボコボコにされたという。えっ、めちゃくちゃ梶愛されてない???
真鍋は無口だし口下手だし、何考えてるかわからんな、と思ってたけど、梶のために命を投げ出すのは愛でしかない。
真鍋は「梶さんには少しの間でもいい思いをさせてもらった、日本人が嫌いだったけど、復讐できてよかった」と梶に言う。「日本人が嫌いだった」というところから、真鍋の出生について、たとえば外国にルーツがあって、嫌な想いをしてきたのかな、なんてことを考えたりする。
梶は真鍋に、思春期に家がニラの腐った匂いがした、という話をはじめた。排水溝を匂ってもそこじゃない、姉に伝えたらめちゃくちゃ怒られて、布団の中で「早く家を出たい」と唱え続けた。だんだんわかってきたけど、その匂いは自分を含めた人間の匂いだったんだ、って。
そして最期に梶に伝えた、「自分不器用ですから」という言葉を茶化す辺見と青木。ここ一番嫌だった。
梶は辺見を刺す。一気に弱気になる辺見。
辺見は青木に「梶を撃て」と言うが、青木は「刺す前に撃ちたかったんですけどね」と言って取り合わない。カラスがうるさい、と言って空に向けて銃を撃つ始末。
そこに出てくる道子。道子は買い物に来たついでに懐かしくなってこのビルを上ってきて、屋上で音楽を聴いていたらしい。だから、私はなにも見てないしなにも知らない、と言う。(もしかして道子は梶の救いなのかな、とぼんやり思う)
花火が始まる。階段に倒れる辺見を押しのけて階段を駆け上がり、道子とふたりできゃっきゃと花火を見る青木。道子に名前を聞き、早くビルを降りるように言う梶。
そこに入ってきた、精神科に通っている中年男。空のポリタンクを持っている。中年男は、「YouTuberが8月に富士山が爆発するって言うから楽しみにしてたのに爆発しない」と激昂、「自分が病気の自覚があり、仕事を休むのに診断書を書いてもらいたかったのに先生は「大丈夫ですよ、病気じゃない」と診断書を書いてくれない、2回目に通院しても書いてくれないから、ガソリンを撒いて火をつけてきた」と言う。うひゃー、モロあの事件やん。
青木は中年男を撃ち、道子に非常階段の鍵と一万円を渡して、ビルを降りるように言う。「梶さんは」と聞く道子に、青木は「こいつは帰る場所がないから一人で行け」と言い、道子はビルを降りていく。
青木は瀕死の辺見と、もう死んだと思われる真鍋を撃ち、梶に照準を合わせる。
(青木めちゃくちゃやべーやつやん、と思った)
青木は梶に、カラスと犬の話をする。
昔、カラスも犬も3本足だった。カラスは飛べるからいいけど、犬は走りにくい。犬は神様に、もう1本足が欲しいとお願いした。神様はカラスの足を1本取って犬につけた。だから犬は、おしっこするとき片足を上げて、カラスからもらった足が汚れないよえにするんだって。犬はそんなにカラスに気をつかわなくていいのにね、というような話。
梶は時折相槌を打ちながら話を聞くが、恩人と腹心が死にかけてるのにそんな冷静に話聞くんじゃないよ、と思う。でもそこが梶くんの欠けてるところなのかな。あんなに頑張ってた道子の名前も覚えてないし。人に興味が無いのか、死んだら無いもんやと思ってるのか。そのへんは、赤堀さんの「たかが死」という観念が流れているのかもしれない。
青木が撃ったカラスが落ちてきて、暗転。

市川家
ブドウを食べる母に「カレー食べて」と怒る姉、姉がリビングからいなくなる度に、何かと用事をつけて姉を呼ぶ父。父はハヤト(姉の息子)がいつ帰ってくるか気になるよう。父のことを無視する母。きっとこれが市川家の日常。
トイレ立ってしたでしょ!と姉に怒られる父が、やったことは謝りなさいと言われて母に謝る。どうやら最近の不仲の原因は、母が「まだ起きてる?」と聞いたのを父が「まだ生きてる?」と聞き違え、怒鳴ってリモコンを投げたことらしい。父の、病魔や死への不安や弱気を垣間見たし、母が「わたしがそんなこと言うわけないじゃない」と言う言葉に母の愛を感じて、外から見たらこんなに不仲に見えるけど、決して嫌い同士ではないんだな、なんて思ってしまう。
とにかくお父さんもお母さんもカレー食べてね、と言う姉が店の片付けをしに行ったとき、誰かが帰ってくる。
姉の「なんでこんな時間に!でもよかった、カレーいっぱい余ってるから食べてね」という言葉が店のほうから聞こえて、誰が帰ってきたかは明かされないまま、おしまい。

もし、梶が生き延びて家に帰ってきたのなら、きっと梶は更生できるのかもしれない。
帰る場所がない、と言っていた梶に帰る場所ができた(もしくはあった)というのは、救いだなぁと思う。腐ったニラの匂いがする家でも、戻ってきたいと思えたならば、やっぱりそれはしあわせだと思うので、そうであってほしいと願う。
だって息子は部活終わったら帰ってくるだろうし、息子のカレーはもともと彼が食べる分として作ってるだろうし。姉のセリフとは矛盾するよね。店の片付けって言ってるから夜だと思うし。うん、そういうことにしとこ。


おまけ。
カラスの話を聞きながら、どこかで神様の話が出てきたよな、と思ったけれど、若林が「神」って連呼してたよね。僕にとって辺見さんは神っす!って。若い子って、すぐ神って言う。対して辺見は神なんていないって言う。どちらもきっと、「神様」というものを信じていない。
足が3本のカラスは八咫烏。たぶんそれ自体が導きの神様。神様は神様の足を1本取って、ただの鳥に落としてしまったのね。そんな神様ってえらくないよね、って青木は言いたかったのかな。
(腐ったニラの匂いの話がなにを伝えたいのかわからなかった、それがきっかけで家を出たいと思うようになり、結局詐欺グループまで落ちてきたってことなのかな。どなたか考察お願いします🙏)

まとめ
闇山隆平を見に行ったつもりだったのですが、梶くんの心の揺らぎを見ていると、寄せて戻してしながらだんだんと人間の心を取り戻す梶くんは闇の中の微かな光、希望なのかな、なんて思うようになってきました。
もう1回見たい気もするけど、今のメンタルだと見られないなー。誰もがいそうで、誰にもちょっとずつ共感できるところがあって(青木と中年男は除く)その共感が自分に刺さってくるのがきつい。
でもそれだけ心揺さぶられるのは、赤堀さんの力と、演者のみなさんの力、そして生の舞台の力なのかなと思います。
まだ始まったばかり!皆さんのご健康ご安全と、パラダイスが最後まで何事もなく終われるように願っています。

追記(2022/9/26)
なんで梶くんの実家が市川さんなん?という疑問。
詐欺グループに所属するのに本名使わんて、とかそんな感じ?

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