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【ヒトナー】ライオンケモこそ臆病でちっぽけで情けなくあってほしい

『ヒトナー』読みましたか!? 読んでない! じゃあ読め! 読んでくれてありがとう!

『ヒトナー』は大きく分けて2つの楽しみ方ができる作品だと思います。

・遠い隣人である「ケモ」と「ヒト」の邂逅と受容を描く異種族交流SF
・ノ"ャア"あ"ああああああマオ"オ"オ"オ"オ"オ"ォ~~~~週刊少年飛翔本誌連載経験作家産直性癖獣人大量仕入満漢全席ン"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"!!

あなたはどちら方面で刺さりましたか? 私はどちらもおいしくいただきましたが、この記事では後者のノ"ャア"あ"ああああああマオ"オ"オ"オ"オ"オ"ォ~~~~週刊少年飛翔本誌連載経験作家産直性癖獣人大量仕入満漢全席ン"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"ル"!! 方向で語ります。

とはいえ本作の全ケモを取り上げてはキリがないので1人に絞りましょうか。

屋宜知宏『ヒトナー』(集英社)34ページ(少年ジャンプ+)

ラオン長官……かわいそうでかわいいね……。

スーツのシワが王たる証

ラオン長官はやられ役です。本作をケモ代表・トネリコとヒト代表・ヒトシの交流が主軸の物語と見るならば、ラオン長官は2人の仲を引き裂こうとするお邪魔ムシにあたります。

ある日突然空から降ってきたヒトをどう扱うべきか、連日連夜彼を調べたりレポートにまとめたりするケモの連邦政府。
報道官トネリコはヒトの特性や能力や手(せいき)とまじめに向き合いますが、ラオン長官は最初から「ヒトはケモより下」と決めつけます。

屋宜知宏『ヒトナー』(集英社)22ページ(少年ジャンプ+)

「わずかでも恥を感じる知性があったらあんな姿では生きていけまいに!」

『ヒトナー』同上より

トネリコと比べて圧倒的なガタイ! 立派で威圧的なタテガミ! なによりヒトを格下だと決めつけるふてぶてしさ! ラオン長官は見た目通りライオンにふさわしいキャラクターです。

私はライオンと聞いたらとりあえず「強そう」と直感します。たぶん、だいたいのヒトがそうなんじゃないかと思います。百獣の王なんてニックネームがあるように、動物のなかでも特に“強さ”を象徴する種族がライオンではないでしょうか。

ならば、ラオン長官が態度もガタイもデカすぎるのはむしろ当然です。だってライオンは強いんですから。スーツのシワの寄り方を見るに大胸筋だけでケモを殺せるレベルまで発達しているのは火を見るよりも明らか。歩くたびに生地やら繊維やらが悲鳴をあげていることでしょう。

冷や汗で しなびタテガミ すごくいい

屋宜知宏『ヒトナー』(集英社)34ページ(少年ジャンプ+)

そんな強い強いオスライオンの冷や汗ビビりフェイスがたまんねぇんだ。

調査が進むにつれヒトがケモをはるかに上回る高等生物だと理解したラオン長官は、問答無用でヒトシを殺処分しようとします。
部下であるトネリコにまくし立てる姿に先ほどの威厳はありません。自慢の大胸筋がしぼんで見えるのは私だけではないでしょう。

ラオン長官は「ケモ全体の安全のため」ともっともらしい理由を主張していますが、ようはヒトを怖がっているんですよね。直前のページでは「上への建前」としてヒトが有害な病原菌を持っていると言い出しているあたり、殺処分は彼の独断であることが伺えます。

ケモより上の存在が怖い。何をされるか考えるだけで恐ろしい。百獣の王たる“強者”ライオンを模したラオン長官が、びくびく怯えてヒステリックに喚きちらす“弱者”の姿を晒す。このギャップこそライオンケモの真骨頂です。

屋宜知宏『ヒトナー』(集英社)47ページ(少年ジャンプ+)

物語終盤で部下に羽交い絞めにされながら自分の破滅を聞くラオン長官もグッときます。しわしわに萎えたタテガミ、鋭いだけで歯ぎしりしかできない牙、立派なボディもクマケモのホールドには無力……「弱りきった強者」として完成度がとても高いです。美しい。

上のコマを最後にラオン長官の出番はなくなるのですが、どうなったんでしょうね。ヒトシの殺処分未遂が公にされて長官の座を追われたのでしょうか。

結論:百獣の王こそ情けなくあるべし

「強そうなアイツが実は弱い」「いつも威張っているアイツ本当は怖がり」なんてのは古今東西あるあるギャップネタですよね。これだけでは本当にあるあるすぎてふーんで終わることもあります。

なので、いっそビジュアルをライオンにする。何度も言ってきましたが、ライオンは多くのヒトにとって“強さ”を連想させる動物です。ビジュアルがライオンなだけでギャップの前フリである「強そう」がわかりやすく印象に残りますし、その後の落差もより鮮烈になるわけです。

そもそも「強くないライオン」は決して珍しくないモチーフで、有名な児童文学『オズの魔法使い』にも臆病なライオンが出てきます。「ライオンのくせに弱虫」からスタートし、旅を通してライオンらしい勇気を自覚する成長譚もギャップを利用しているといえます。

情けなくてビビりで周りから思われているほど強くないライオンはけっこう普遍的で、ヒトの心に刺さりやすいキャラクターなんです。

なのでかわいそうがかわいいラオン長官にときめくのはヒトとして当然の反応です。おお願わくば世にあるライオンっぽい見た目のケモノキャラよ、おしなべて情けなくあるべし。好みの押し付けはよくないから作者が情けなし男にしたいキャラだけ積極的に情けなくなるべし。

あとラオン長官あのままフェードアウトはかわいそうだから画面外でヒトシさんの手(せいき)でしなしなタテガミごとわしゃわしゃされているべし。かわいそうはかわいいがかわいそうすぎるのはかなしいべし。『ヒトナー』億歩譲って連載はしなくてもいいから同じ世界観でもう4本ぐらい読み切り発表して短編集『ヒトナー』を紙で出版してほしいべし。べし、べし……。

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