OMiya

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小説とうそのある日記を書きます。しばらくは短いものを載せていくつもりです。ちなみに、妻と娘と3人で暮らしてます。個別のご連絡はTwitterのDMにてどうぞ。

マガジン

  • [短編小説集]

    短編小説いろいろ。

  • うそのある生活

    毎日ほんとうのことばかりおこるので、ほんとにうにうそをまぜあわせた日記を書いて、有耶無耶にします。

  • 生活のほんとう

    ほんとうにあったことや思ったことを。要は、雑記です。

最近の記事

【短編小説】薄暮冥々

電車から降りると、からりと空気は乾いていた。終点駅の小さなコの字型のホームでは、黄色い電車止めに陽があたっている。古びた白いベンチの隣には、色あせて傾いた酒饅頭の看板。がらんとしたホームに降りたのは僕だけだった。もうすぐ夕方になるのか、同じくコの字型をしたホームの屋根の隙間からは、空っぽになったような青い空が、薄い色に変わっていこうとしているのが見えた。 しばらくは乗ってきた電車を眺めていた。二両編成の小ぶりな車両。この電車に乗って、僕は何度も祖母の家に泊まりに来たのだった

    • 線をひく、溝を掘る、傷をつくる(うそのある生活 29日目)

      8月7日 晴れ(雲の積まれた空) 『祭祀と供犠』(中村生男 著, 法蔵館文庫)という本を読んだあとに、次の本を探していると『カフカとの対話 増補版』(グスタフヤノーホ 著, 吉田仙太郎 訳, ちくま学芸文庫)という本を見つけた。すぐに読みたいと思ったけれど、調べてみると絶版になっている。古本を調べて、あまり値段の張らないものを選んで黄色いボタンを押したけれど、届いたものを開くと、いくつかのページに鉛筆で線がひいてあった。 線がひかれていてもとくに気にはならないし、ページは

      • ベルトコンベアー・顔をひろう(うそのある生活 27日目)

        4月10日  ぼんやりとした晴れ 娘がいよいよ小学生になる。入学式は勝手に4月1日だと思いこんでいたけれど、実際はそれより10日もあとだった。考えてみれば、入学式が終わってから春休みが明けるまで何日も休みというのは不合理だし、そういえば自分が小学生のころだって、たしかに入学式は始業式のあとにあった。 小学生になるのにいろいろと入り用になった。ランドセルはずいぶん前に届いていたけれど、学校から入学案内の冊子が届くと、文具や体操着の他にもコップや箸をしまう袋など、用意が数えき

        • 円をつくる(うそのある生活 26日目)

          4月5日 夕方から曇り 選挙がはじまった。市議を選ぶというので、あちこちに看板が立っている。 土曜には大きな交差点に人が立った。大柄な人で、こつこつとやります、と繰り返しマイクで声を大きくしているその横を、たくさんの人が通り過ぎていく。 その候補者のことを、まだ六歳の娘が好んでいる。家の近くにあるポスターを三歳ごろから見ていたせいか、その前を通るたびに、かっこいい、と言う。瓜実型の顔をした、黒ぶちの眼鏡をかけた候補者で、ポスターでは僕の古い友人によく似ていた。 今朝は

        【短編小説】薄暮冥々

        • 線をひく、溝を掘る、傷をつくる(うそのある生活 29日目)

        • ベルトコンベアー・顔をひろう(うそのある生活 27日目)

        • 円をつくる(うそのある生活 26日目)

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        記事

          山羊を探す(うそのある生活 25日目)

          4月1日 春の曇り しばらく前に小説を書くのはやめてしまった。どうして、と聞かれることもあるけれど、やめてしまったというのはそういうことで、いつでもすごいものを書いているのならやめようとしたって周りがやめさせない。つまり、どうして、と聞かれる程度だったということで、だから、ほんとはどうしてと聞かれるほどのことでもない。 小説を書いていたころには、クローゼットに山羊を飼っていた。小説を書き上げると、クローゼットを開けて、遠くを見るようにして立っている山羊に小説を与える。山羊

          山羊を探す(うそのある生活 25日目)

          近ごろ派遣切りをしている(うそのある生活 24日目)

          3月30日 とにかく青い空 近ごろ派遣切りをしている。ばさりばさりと、連日、派遣社員の首を切っている。 派遣切りをしているのは生産が減るからだ。生産しなければ仕事はないし、仕事がないなら売上げもなくなり、だから派遣社員に払うお金だって足りなくなる。昨日は3人の契約終了を通知して、今日はまた5人の契約を解除した。首を切るのに難しいことはない。通知をつくってそれをメールで送付するだけのことで、だから月の中ごろにその通知書のひな型をつくったときには、粛々と解除していこう、と誰か

          近ごろ派遣切りをしている(うそのある生活 24日目)

          時候の挨拶は省いてみる(うそのある生活23日目)

          3月16日 紫陽花芽吹く、晴れ 娘がいよいよ保育園から卒園となる。あっという間、と感じると想像していたが、振り返ればそうでもなかった。もちろん早く過ぎた一月もあったけれど、じりじりといつまでも時間が進まない苦しい一日もあったし、そういえばそういう日は決まってよく晴れた春の日だった。むかしからいつも、春は理由もなく苦しい。 卒園式では保護者代表として挨拶を頼まれた。「謝辞をお願いできますか?」と保育士の先生から聞かれたときには、お礼される側からお礼を頼まれるということもある

          時候の挨拶は省いてみる(うそのある生活23日目)

          うそのある生活 22日目

          9月17日 あいまいに晴れ 娘の保育園の園児がなかなか厄介な感染症にかかったというので、翌日から保育園が休園になった。娘やほかの園児たちも真面目にマスクはしていたが、子どものことなので、いつもお互い触ったり抱きついたりしながら遊んでいた。だからなのかわからないが、その日の午前中には、園児は残らず検査をするようにと市役所からお達しがあった。 急遽会社を休んで保育園まで検査キットを受け取りに行った。たくさんのお母さんたちが保育園の玄関先でなにやら話をしている。そこには加わらず

          うそのある生活 22日目

          うそのある生活 21日目

          1月16日 晴れ 春みたいに暖かい日 きょうは春のように暖かくなる、と天気予報で言っていたので、勇んですこしはなれたひろい公園に出かけた。自転車のうしろに娘をのせて、公園に向かう。娘ももうずいぶん重くなった。すこし前に測ったら、17キロだったか。 行く道は苦しかった。大きな陸橋の急な坂を息を切らせて登ったり、そこからブレーキもかけずに一気に下ったりした。こちらは必死にこいでいたけれど、その間娘はうしろにのっているだけ。そのうちにひまをして、まだつかないの、と文句を言いだし

          うそのある生活 21日目

          雑記

          近ごろ聴いてる音楽やら読んでる本やら。 1.おばけ (青葉市子、下津光史、マヒトゥ・ザ・ピーポー)- まーらいおんものすごい天気。どっか飛んできそうな。 2.never young beach - 明るい未来『あまり行かない喫茶店で』もいいよね。 3.PUNPEE「Scenario」サカナクション 忘れられないの remix見たいのはdirectors cut! 4.有島武郎『或る女』600ページもある。前編は自分も船旅してるんじゃないかと思うくらい遅々として読み進ま

          [短編小説]ドアノブ

           はじめは娘の仕業だと思った。ただ、娘は保育園へ行っていて、家にいるわけもない。だとしたらこの白いドア、どうしても開かないのはいったいどういうわけなのだろう。            *  用を足しおえたのは数分前だった。立ち上がって、パンツとズボンをずり上げ、かちゃかちゃとベルトをしめる。水洗のレバーを引くと、じゃぶり、と音がなって水が流れた。洗った手を白いタオルで拭いてから、ドアノブに手をかける。金属製の、レバー型のドアノブは灰色で、てかてかと光っている。そのドアノブを

          [短編小説]ドアノブ

          平日のご飯、休日の料理

          平日にあまり余裕がないので、休日にまとめて一週間分のご飯をつくることにしている。たいていは日曜の午後、買い物と合わせて3時間くらい。十品くらいの料理をして、冷蔵したり冷凍したりする。 最近は、鍋とコンロの数が少ないのが悩み。煮物をふたつつくるとコンロがふさがってしまうし、料理をしながら何度も同じ鍋を洗わなきゃいけない。鍋は買い足せばいいのだけれど、我が家の小さな台所にはそれをしまう場所だってたりない。 そういえば、ついこの間、人の家で料理をした。ずいぶん広い台所で、鍋や皿

          平日のご飯、休日の料理

          晩ご飯のことを考えることにする

          しばらく思い悩んでいた小説を妻に読ませたら、よく書けてるね、と言われたので今日は幸せ。 でもきっと、3日後にはまた思い悩んでるはず。とりあえず今日は大晦日だから、まずは晩ご飯のことを考えることにする。

          晩ご飯のことを考えることにする

          [短編小説]かまいたちと発電

           近頃、かまいたちが出るようだ。とくに風の強い日に、隣町や団地のあたりに出るのだという。かまいたちはむかしからあるものである。子供のころは、よく小さな傷をつけられては痛い思いをした。  かまいたちがはたしてどんなようなものなのか、考えてみれば、切られたことはあるのだが見たことがない。どういうわけか、かまきりのような顔をしているつもりでいるが、それはこちらが勝手にそう思っているだけのことで、ことによれば鯉のような愚鈍な顔をしているかもしれない。かまいたちというからには鎌を持って

          [短編小説]かまいたちと発電

          うそのある生活 20日目

          12月21日 晴れ カラカラと乾いた日 昨日は久しぶりに、一番親しい友人に会いに行った。ほとんど一年ぶりなので緊張したけれど、会うと以前と変わらない彼なので安心した。 八重洲のあたりに待ち合わせると、どこも混んでいて、なかなか入れる店がなかった。そういえば忘年会シーズンの金曜日。うかつな日と場所を選んでしまったなと言いあっていたら、あてずっぽうに入った路地裏のいわし料理のお店に席が残っていた。 古くて小さい椅子に落ちついて話しだすと、やはり長く仲の良い友人のこと、どんな

          うそのある生活 20日目

          カバになった気がした

          昨日の夜にお風呂に入るのを怠けたので、今朝になって娘とお風呂に入った。 お風呂のついでに湯船の中で歯を磨いていたら、娘が「わたしが磨く」と言いだし、ついには歯ブラシを取り上げられてしまった。 言い出したら聞かないし、磨くのを駄目という理由もないので、磨いてもらうことにしたけれど、あんぐりと大きく口を開けて、小さな娘が口の中を覗き込みながら歯を磨いてくれるのを我慢していたら、なんだか動物園で飼育員に歯を磨かれているカバになったような気がした。

          カバになった気がした