矢沢あい展に行ってきた

 私の小学生時代を彩ったもの。それは、間違いなく『りぼん』だった。
 
 月初めになると、お小遣いを握りしめて、走って校区外の本屋さんまで買いに行く。やっと続きが読める!という喜びと、予告されている付録への期待に胸を膨らませ、わくわくドキドキしながら本屋さんに飛び込む。

 ネットもスマホもない時代、私にとって『りぼん』は最高の娯楽であり、唯一無二の憧れとときめきの詰まった雑誌だった。

 そんな私をぐっと少女漫画の世界に引き込んでくれたのが、矢沢あい先生の「天使なんかじゃない」だった。

 主人公・冴島翠(さえじまみどり)が校舎の窓から飛び出そうとしている扉絵(完全版で辿ると、連載二回目)に、ほとんど一目惚れしてしまった私は、あっという間にこの物語に夢中になった。

 「天使なんかじゃない」は、高校生の恋愛を描いた漫画というには、かなり大人ぽく、翠の恋人である晃(あきら)の複雑な家庭環境も描かれており、マキちゃんや将志とのこじれた過去もあり、単純な好きだ嫌いだの話ではない。
 連載時期は、91年〜93年とあるので、私はちょうど小学校一年生から三年生の時(今回これに一番驚いた!)。小学校低学年期の女の子が読むには、ちょっとマセた内容だったんだなと、振り返ってみて初めて気付いた。

 それでも、自分のお小遣いで初めてコミックを揃えたのもこの作品だったので、幼いなりに魅了されたのは確かだと思う。

 その後の「ご近所物語」、「下弦の月」を経て、ファッション雑誌『Zipper』で「Paradise Kiss」、『Cookie』で「NANA」が始まるときも、ネットもない時にどうやって情報を手にしていたのか、私は一瞬も乗り遅れることなく、ずいぶん長いこと矢沢あい先生の漫画をリアルタイムで読んでいた。

 つまり、根っからの”あいちゃまっ子”なのだ。
(当時りぼん本誌では、矢沢あい先生は”あいちゃま”という愛称があった)

 「NANA」の休載から14年。それでも私の本棚にはずっと既出の漫画が全巻そろっている。節目ごとに手放そうか悩んだ時もあったけど、やっぱり捨てられない。私の人生には、ずっと矢沢先生の漫画があったからだ。

 そんな時に「矢沢あい展」の告知を目にした。

 先生が続きを描くかどうかなんてどうでもいい。
 矢沢あいの「ALL TIME BEST」なんて掲げられたら、這ってでも行くよ!という気持ちでいっぱいだった。 

 そして、行ってみて本当に良かった!
 最高の最高の最高だった。
 
 周りにあんなに人がいなかったら、ぼろぼろ泣きながら見ることになっただろう。(人がいても、感極まってかなり危ない感じにはなっていたけど)

 展示は、作品ごとにトラックに分けられていて、それぞれの名場面の原画、当時の雑誌に掲載されていたカラーの原画、ホワイトで修正された跡なんかもそのままに、切り貼りされたトーンもそのまま、間近で目にすることができた。

 付録になっていたレターセットのイラストや、トランプのイラスト、そして、鮮明にそれらを覚えていたこと、それを買いに行ったときの気持ちを思い出して、果てしなく懐かしく思い、『りぼん』があったから、矢沢先生の漫画があったから、良い子ども時代を過ごせたんだと改めて思った。

 翠から、実果子、紫、ナナや奈々に教えてもらったことは限りない。
 彼女たちのような素敵な恋愛をしたわけじゃないけど、彼女ら、彼らの恋や友情に憧れ、ファッションに憧れ、現実を生きていくパワーをたくさんもらってきた。

 アラフォーになった今も読み返していて面白いし、楽しめる。古い漫画だなんて全然感じさせない。

 展覧会を一歩ずつ進むたびに、ため息が漏れ、思い出にふけり、涙を堪えるのに必死だった。

 そして、今回、思いがけない人物の言葉が心に残った。

 手に入れたいのは、ハッピーエンドじゃない。鍛え抜かれたハッピーマインドだ。

幸田実果子 ご近所物語より

 実果子って、すごくエネルギーのあるキャラクターで、私とは違いすぎて、それほど思い入れのある人物ではなかったけど、彼女がこんな大事なことを教えてくれてたなんてと思った。

 きっと、今の私だからそう思えたんだと思う。

 時代を超えて、共感できる作品って名作以外の何物でもない。
「ずっと大好きだよ!あいちゃま!」という気持ちにさせられたのは言うまでもない。

 これからどうなっていくのか。きっとご本人にも分からないのだろうけど、私はいちファンとして矢沢先生ご自身の幸せと健康を何よりもお祈りしております。

 いつかまた、こういう展覧会という機会でもいいので、先生の作品に触れられることを楽しみにして、また明日を生きる元気を貰えたことに深く感謝しています。

 あいちゃま最高~!!!

  

 


 



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